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デヴィッド・ボウイ、イギー・ポップ……攻めの姿勢を貫いたベテラン勢の上半期5選

2016年08月11日 23:11  リアルサウンド

リアルサウンド

デヴィッド・ボウイ『★(ブラックスター)』(SMJ)

 今年の上半期の新作を振り返ると、ベテランたちの作品の充実ぶりが目立った。そのどれもが、これまで自分が追求してきたサウンドからさらに前進しようとしたり、自分の運命や閉塞した社会に果敢に挑もうとする攻めの姿勢に貫かれていた。やっぱり、ロックは転がり続けないとダメ。というわけで、そんなベテランたちの新作のなかでも特に印象に残った5作品を紹介したい。


(参考:デヴィッド・ボウイは“文系ロック”の頂点だった 市川哲史が70~80年代の洋楽文化ともに回顧


 年明けに届いた突然の訃報。デヴィッド・ボウイの死は衝撃だった。その死の2日前、69歳の誕生日にリリースされたのが遺作となった新作『★』だ。鮮やかな復活を遂げた前作『ザ・ネクスト・デイ』のバンド・メンバーを一新。クロスオーバーな感覚を持った新世代のジャズ・ミュージシャンを従えて作り上げた『★』は、ロックな力強さと明快さを持った前作と対照的に、どこか危うげな緊張感に貫かれている。いきなり10分に及ぶタイトル曲から始まって、柔軟なバンド・サウンドが生み出すパワフルなグルーヴと、翳りを帯びた美しいメロディーが交差。そこにボウイらしい繊細でアーティスティックな美意識が浮かび上がってくる。リリース直前に行われた試聴会でこのアルバムを聴いた時は、ここからベルリン三部作のような新しいチャプターが始まるような予感がして興奮したが、〈その先〉を想像させずにはいられないアルバムを遺作として作り上げたボウイのアーティスト魂に胸を打たれた。


 そして、この『★』から2カ月後に発表されたのが、ボウイの盟友、イギー・ポップの『ポスト・ポップ・ディプレッション』だ。ジョシュ・ホーミ(クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ)を中心にして、マット・ヘルダーズ(アークティック・モンキーズ)、ディーン・フォルティーク(デッド・ウェザー)といった腕利きメンバーが〈パンクのゴッドファーザー〉をサポートするバンドを結成。ホーミのプロデュースのもとで制作された本作は、ダークで不穏な空気に満ちていて、ずしりと重いグルーヴがボディブロウのようにじわじわと効いてくる。間違いなく、近年の彼の作品のなかではベストな仕上がりだ。ボウイとの蜜月期、ベルリン時代に発表した名作『イディオット』に通じるムードもあるが、『イディオット』はホーミのお気に入りでもあったらしい。ベルリン時代を回想する曲も収録されていたりして、ボウイの影を感じさせる作品だ。イギーは本作のリリース後、「これが最後のオリジナル・アルバムになる」という趣旨のコメントをしているが、ボウイ亡き今、イギーにはもう一踏ん張りしてほしいところ。


 80年代初頭から活動してきたUSアンダーグラウンド・シーンの帝王、スワンズも、新作『ザ・グローイング・マン』で一区切り。本作が現メンバーで制作する最後のアルバムになることを発表した。2010年に再結成して以来、新作を出すごとに高い評価を得て、ソニック・ユースと人気を二分していた80年代をしのぐ新たな黄金期を迎えていたスワンズ。『ザ・グローイング・マン』も近作同様、2枚組というヴォリュームで、ハードコア・パンクから民族音楽まで様々な音楽のるつぼとなったスケールの大きな音楽を展開。強靭な演奏から生み出されるカオティックな音の塊が、緻密に構成されたアンサンブルを呑み込んでいく。そんな、創造と破壊が凝縮されたような濃密な音響空間で、司祭のように君臨するマイケル・ジラの歌声の神々しいこと。新生スワンズの到達点ともいえる本作を経て、ジラの次のプロジェクトに期待したい。


 日本のロック・シーンを振り返ると、高橋幸宏を中心にして、若手からベテランまで名だたるアーティストによって結成されたドリームバンドとして話題を呼んだのがMETAFIVE『META』だ。高橋幸宏の呼びかけに応じて、テイトウワ、小山田圭吾、砂原良徳、ゴンドウトモヒコ、LEO今井と世代を越えてYMOの遺伝子を受け継いだアーティストが集結。メンバー全員が曲を提供し、曲のデータを共有しながら全員でアイデアを出して作り上げたサウンドは、予想を超えてアグレッシヴでダンサブルな仕上がり。エレクトロニックな輝きのなかに、オーガニックなグルーヴが息づいている。アルバムには6人それぞれの個性が散りばめられていて、メンバーのセンスを存分に発揮させながら、それをバランスよくまとめあげる高橋幸宏のリーダーシップもさすが。ある意味、日本のテクノの歴史を凝縮したような感慨深さもあって、突き抜けたポップさ、そして、サウンドの精巧さに、〈MADE IN JAPAN〉の底力を感じさせてくれた。


 そして、最後は実に11年ぶりの新作として話題を呼んだ岡村靖幸『幸福』。これまでシングルなどで発表された6曲に新曲3曲という構成で、こまめに岡村ワークスを追っていた熱心なファンからは物足りないという意見もあったが、アルバムとしてパッケージされたことが重要。シングル曲と新曲とのバランスや曲順はしっかりと練られていて、シングル曲はアルバムの流れのなかで新たな輝きを放ち、最初から最後までイッキに聴かせる。ビートは凶器のように研ぎ澄まされて、岡村のボーカルとシャウトはツバが飛んできそうなほど肉感的。「新時代思想」をはじめ、閉塞した社会に音楽で真剣勝負を挑むような凄みも感じさせる。本作を発表した3カ月後にプリンスが突然死去。その知らせを聞いた岡村の心境は知るよしはないが、しっかりバトンを受け取ったに違いない。


 ボウイやプリンスの死という悲しい出来事もあったが、新たな最高傑作を生み出そうと転がり続けるベテランたちに心からリスペクトを捧げたい。


(村尾泰郎)