もしも自分が、遺伝性の病気に罹っていたら――。親との関係や、自分の将来に思い悩むのは当然だろう。「若年性がん」の原因には様々なものがあるが、その1つに両親や祖父母から受け継ぐ「遺伝子」が関係している場合があるという。
8月3日の「VOICE」(MBS毎日放送)は、加藤那津さん(37歳)のケースを紹介した。初めて乳がん検診を受けたのは30歳。その時には異常は見つからなかったが、翌年に右胸の痛みを感じ病院を受診したところ、乳がんと判明した。(文:みゆくらけん)
「やっぱりそうだったんだ、という思い」
幸いにもステージ0の早期がんで、乳房温存手術を受け、その後は再発予防のホルモン剤を一定期間服用して治療を終わらせた。しかし3年後、同じ場所にがんが再発。今度は右胸を全摘することになった。
1度目の治療後に「ほぼ治ったと思っていい」と医師から言われ、安心していた加藤さんだったが、再発したことで「やはり遺伝ではないか」という思いが頭をよぎったという。それは、家族や親戚にがんの人が多くいて、漠然と「がん家系」だと思っていたからだ。
どうしても知りたくなった加藤さんは、血液で調べる遺伝子検査を受け、その結果、遺伝性の乳がんだと認められた。検査報告書にはこう記されていた。
「病的な遺伝子変異が検出されました」
他に「70歳になるまでに乳がんに罹るリスクは84%」「再発するリスクは12%」とも記されていた。やはり自分のがんは遺伝で、病気は運命。しかし結果を知った加藤さんは、ショックよりも「生まれ持った体質」に納得がいったのだと話す。
「やっぱりそうだったんだ、という思いが強かった。体質みたいなもので、自分の生活が悪かったわけではないということを、ハッキリさせておきたかった」
運命を受け入れて生きる姿に医師も感心
加藤さんの遺伝子は、父親から受け継がれているものだ。父親は5人きょうだいだが、うち3人が乳がんや前立腺がんになっていて、祖父母もがんで亡くなっている。遺伝子検査を受けるといった加藤さんに対し、両親は本人の意思を尊重した。父親はこう語っている。
「『お父さんの血統のおかげで、私がこんなふうになっちゃった』という責め方をしているわけではない。事実は事実として受け入れてきちんと生活していることは、我が娘ながら敬意を表します」
加藤さんを担当する医師も、自分の運命を受け入れて前向きに生きる姿に感心する。
「若くて未婚の状態でがんになるというのは、ショッキングなこと。しかもそれが遺伝性であるということになると、自分の出生から考えなくてはいけない。言い方が変ですけど、『なんで生まれてきたんだろう』の話から自分を納得させて認めなくてはいけない。その点、彼女は強い」
番組が医師にインタビューしたこの日、加藤さんのがんが肝臓に転移している疑いがあることが分かった。診断が確定する前は不安でたまらないはずなのに、「(遺伝子変異の)せいにするわけじゃないけど、それがあるから仕方がないかな、と思えるところもあるかもしれない」と明るく笑った。
遺伝子検査には「一切の後悔もない」というが
遺伝子検査をしたことに、一切の後悔もないと話す加藤さん。しかし新たな悩みが生まれているのも事実。それは、子どものことだ。
「今後、結婚することがあったとしても、自分自身で遺伝子変異があることも分かっていて、子ども産んでいいのかとか。そういうことはけっこう悩みます」
簡単には答えは出ない。子どもを産んだら、その子が100%遺伝性のがんになるかといえば、そうではない。仮に子どもが受け継いだとしても、その命に意味と価値はある。しかし、母親としての目線で、まだ見ぬ我が子を想ったら……。加藤さんの不安は深い。
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