DENSO KOBELCO SARD RC FでスーパーGT参戦2年目を迎えているヘイキ・コバライネン。昨年は期待された結果を残せないレースが続いていたが、今年は序盤からチャンピオン争いに絡む大活躍を見せ、現在はMOTUL AUTECH GT-Rに続くランキング2位につけている。そのコバライネンに今季の変化について聞いた。
昨年はF1で優勝経験もあるコバライネンがスーパーGTに鳴り物入りで参戦するとあって、大きな注目を集めたが、結果的に話題が先行する形になり、ウエットセッションなどで驚くような速さを見せてはいたものの、レースでは目立ったリザルトを残すことができていなかった。しかし、今年は昨年、出し切れなかった速さを見せるだけでなく、GT300との混走や他マシンとのバトルで昨年とは見違えるような巧さとGTマシンの扱い方を見せており、「これぞ、F1ウイナーの実力」を印象づけている。
その活躍の裏には、彼が今年からスーパーGT参戦に対するアプローチを変えていることが大きく影響しているようだ。実は今年から日本でのレースに集中するため日本国内を拠点にして活動している。コバライネン本人に改めて日本に住むことを決めたことについて尋ねると、スーパーGTで勝つことへの強いこだわりが見えてきた。
「僕が今年日本に住むことを決めた一番の理由はこのチームでもっと良い結果を出すこと。昨シーズンが終わってから冬の間、今季に向けてチームと一緒にさまざまな部分のレベルアップをさせたかった。単純にクルマだけでなく、チームの動きの部分。たとえばピットストップの精度もそうだし、僕自身の(GTでの)ドライビングの向上もテーマだった。それらを実現するには、ヨーロッパと行き来する中でチームとやりとりするよりかは、日本に滞在する時間を増やしてチームと一緒に取り組んでいくことの方が重要だと思ったんだ」
この新しい動きに付随するかのように今年のDENSO RC Fの活躍は顕著。もちろんコバライネンが日本に滞在する時間が増えればチームとコミュニケーションをとる時間も増えるのだが、それ以上にチームが昨年の反省点をもとに、今年様々な部分を改善してきたことが結果につながっているという。
「昨年僕たちは冬の間に改善するべき所を徹底的に調べて、そのひとつに僕のドライビングスタイルを少し変えていくという項目もあった。F1とGTはマシンの形も違うし、エンジンの搭載位置も違う。それに合わせてドライビングスタイルを変更する必要があったんだよ。それをチームとともに解決させていくためにシーズン前からテストを含めてさまざまな取り組みを行い、シーズンを迎えることができた」
「それ以外にも、マシンのセットアップやピットストップのこともチームのみんなが各改善点に対して一生懸命取り組んでくれて、今こうして結果につながっている。単純に僕が日本に住むようになってコミュニケーションもとりやすくなったことだけじゃなく、チームのみんなが同じ方向に向かって昨年の課題点を解決してきたことが今の結果につながっているんだよ」
さらに今年はスーパーGTだけでなく全日本ラリー選手権への挑戦も始めたコバライネン。実はこれも「ここで勝つため」のトレーニングの一環だという。
■ラリーに続いて、スーパーフォーミュラ参戦の可能性は……
「自分のスキルアップの一環としてラリーに挑戦しようと思って決めたんだ。今年は6月と7月がレースがなくて自分のスケジュールにも余裕があったし、レーシングカーに乗っている感覚を研ぎ澄ませておくという点で、ラリーが最適だと思った。フィンランドでもラリーは趣味としてやっていたこともあるし、僕もずっとフォローしているレースでもあるから、今回参戦の機会を作ってくれた関係者に感謝しているよ。9月にまた挑戦する機会があるから、もっとスキルアップして臨みたいね」
気がつくと、完全に日本でのレースをメインに考えたスケジュールで動いているコバライネン。やはりF1での活躍経験を踏まえると、スーパーフォーミュラで走る姿も見てみたいところ。しかし、意外にも今はフォーミュラに興味はないとのことで、ここでもGTでの勝利することが重要だということを繰り返し強調していた。
「今のところ、スーパーフォーミュラへの参戦は全く考えていない。たしかにレベルも高そうなカテゴリーだけど、正直、すべてのレースをしっかり観ているわけでもないしね。今の僕にとって一番重要視していることは、スーパーGTで勝つことであり、チャンピオンを獲得することなんだ。来年はスーパーGTと合わせて全日本ラリーに参戦することはあっても、スーパーフォーミュラに参戦することはないと思う。僕はすでにF1でフォーミュラカーのレースを充分経験している。だから、これからはスーパーGTに目を向けていきたい」
今年は確実に結果を残したいと並々ならぬ思いで臨んでいるコバライネン。現在はランキング2位で、チームメイトの平手晃平とともに目指しているシリーズチャンピオンの可能性を大いに残している状況。後半戦の展望については「夏のラウンドはウエイトハンデが大きいから僕たちにとっては厳しい戦いになるかもしれないけど、ダメージを最小限に抑えて、ウエイトが軽くなるもてぎ戦で勝負をかけていきたいね」と、しっかり最終戦までを見据えた戦略も出来上がっている様子だった。
ここまでMOTUL GT-Rのトップ独走をはじめ日産GT-R勢の快進撃ばかりが注目されがちだが、今年のDENSO RC Fのレベルアップも目を見張るものがある。後半戦、GT-Rに一矢報いるのはどのメーカー、チームなのか。スーパーGTでのタイトルを獲るために、昨年とは違い、全身全霊でGTに打ち込むコバライネン。走り速さと巧さだけでなく、チームを率いるエースとしての自覚も芽生えてきているようだ。