2016年08月11日 08:42 弁護士ドットコム
若い女性が本人の意思に反してアダルトビデオに出演させられるという、いわゆる「AV出演強要問題」が社会的に大きく注目をあつめている。NPO法人ヒューマンライツ・ナウの報告書には、繁華街の路上でスカウトから「グラビアモデルにならないか?」などと声をかけられる事例が記されている。
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だが、スカウトだけが「きっかけ」ではないようだ。AV出演に関する相談を受けている団体「ポルノ被害と性暴力を考える会」(PAPS/https://paps-jp.org)によると、「高収入アルバイト」の求人を装ったインターネットサイトに応募したことが「きっかけ」だったというケースも多いという。
この夏に、アルバイトを探している若者も少なくない。「高収入アルバイト」といった言葉にひかれて、面接を受けに行ったところ、AVに出演することになったということも起こりうるかもしれない。PAPS相談員の金尻カズナさんに注意点を聞いた。
−−「高収入アルバイト求人」を装ったサイトはどのようなものか?
あるサイトには、「報酬 1日数万~十数万円」と記されて、「お水や風俗ではない」「風俗は絶対にイヤな人向け」「学生のつよい味方」といったことも書かれています。一見すると、キャバ嬢かイベントコンパニオンの仕事かな、と思うかもしれません。
しかし、応募して面接に行くと、AV出演をもちかけられるというものです。「最近はスカウトよりも応募が多い」といわれていますが、その理由として、スマホの検索サイトで容易にこのような高収入サイトにアクセスできてしまう現実があり、インターネット上では野放し状態になっています。
女性だけでなく、男性もターゲットになることもあります。ある「メンズモデル」募集サイトにも、「報酬 1日数万~十数万円」「面接を受けるだけで3000円」といった情報が掲載されています。実際は、「ゲイビデオ」に出演する仕事です。
面接で初めて「AV」や「ゲイビデオ」の仕事と聞かされて、「やりたくない」と断っても、しつこく説得されたり、契約するまで帰してもらえなかったりします。
−−面接ではどのように説得されるのか?
「うちのプロダクションでは、絶対にとはいえないが『身バレ』することはほとんどない。自分の不注意で彼氏にスマホを見られたりするケースくらいだ」「会員だけが見えるサイトでしか販売しないから」と説得されます。それで最終的に同意して出演してしまうと、「大型新人デビュー」として、大手メーカーから販売されたりします。
そもそも、インターネット社会なので、必ずといっていいほど「身バレ」しています。女性は男性向けに販売されているAVを見ることはあまりないため、情報の質と量、交渉力の格差から、誤認や困惑させられて出演させられるケースもあります。
PAPSに寄せられる相談のなかには、そのときは話の流れで契約書には同意してしまったけれど、気持ちが揺らぐ人もいます。いざ出演すると思ったら怖くなって、やめたい気持ちを伝えても、AV制作会社やAVプロダクションは、「すでにスチール撮影も済んでるから」「すでにたくさん人が動いているから」などと、契約の解除を妨げられます。そして、撮影日が近づくにつれ、断りにくい状況に追い込まれます。
撮影当日は、恐怖や不安から、震えが止まらなくなる、体がまったく動かなくなどの症状が出る人もいます。なんとか断りの電話やLINEで連絡しますが、自宅まで押しかけてくる、バラシ代と称して、プロダクションから高額の違約金を請求されることがあります。しかし、たとえ請求されても支払わないことが大切です。
−−制作現場はどうなっているのか?
たとえば、ハードコア系AVメーカーの面接に行った相談者は、いきなり頸動脈をおさえられて気絶させられたそうです。もちろん、そういう「プレイ」ができるかどうかを調べるということですが、極めて危険な行為です。
事前に知らされていなかった避妊具なしの性行為を求められ、撮影後監督から、海外製のアフターピルを渡されたり、目が充血したシーンを撮るために食塩水を入れられたりといったこともあります。妊娠したり、性感染症に感染させられた人の相談もあります。
撮影前には、監督面接がありますが、顔合わせ程度しか行われずに、具体的な撮影内容の説明は撮影前日に来た台本だったというケースも複数確認しています。
また、出演者の中には「監督面接で出演するかどうかを決める」と思っている人もいます。しかし、そこで出演を断ったら、あとから違約金を請求されたケースもありました。
さらに、この業界にはセクハラがないとされていますが、ある大手メーカーでは「試し撮り」という理由で、監督から撮影以外でも性行為を迫られたという相談も複数寄せられています。
−−ギャラはどうなっているのか?
割に合わないギャラしかもらえていないという相談も多いです。まるで自転車操業のように、来月の家賃を心配しながらの生活をおくる人もいます。知名度がある人でも、ひんぱんに撮影会を開いたり、アダルトチャットや、AVプロダクションと提携しているキャバクラで働くことを求められる場合もあります。
たった1日だけ、朝から深夜までの撮影をおこなって、合計6本のAVを販売されていた人もいます。だけど、もらえたギャラは10万円程度。その後にメーカーの面接を受けても、「もう6本出てしまっているから、新人扱いは厳しいよ」といわれて、凌辱ものやSMもののビデオをせざるを得なくなった人もいます。わたしたちは、これも被害の1つだと考えています。
−−もしトラブルに巻き込まれた場合、どうしたらいいのか?
どうか一人で抱え込まないことが大切です。先ほども言いましたが、一人で交渉すると、情報量や交渉力の格差があるために、うまく言いくるめられてしまいます。
AV出演に関して、これまで160件以上の相談が寄せられるなかで、わたしたちは、何もしないことが間違いだと気づきました。何もしないことは被害を拡大させます。まずは、勇気をもって支援団体に相談することが大事です。
あと、被害を訴えたら警察に逮捕されるのではないか、という間違った情報が流れていますが、決してそのようなことはありません。支援団体は相談される方の生き方を尊重しながら一緒に考えていきます。
もちろん、事前に被害にあわないことが大切です。たとえ撮影当日であっても勇気を持って相談してください。また、たとえ撮影後であっても販売停止ができた人は複数います。あなたは決して一人ではありません。どうか勇気をもって相談してください。
(弁護士ドットコムニュース)