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「ちえりとチェリー」中村誠監督、高森奈津美インタビュー 見ている間は人形アニメーションであることを忘れて欲しい

2016年08月10日 19:22  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

「ちえりとチェリー」中村誠監督、高森奈津美インタビュー 見ている間は人形アニメーションであることを忘れて欲しい
長編人形アニメーション『ちえりとチェリー』が2016年7月30日に公開を迎えた。父を亡くし母とふたり暮らしのちえりは空想が大好きな小学6年生の女の子。そんなちえりの唯一のおともだちが、ぬいぐるみの「チェリー」。ある日ちえりは父の法事のため祖母の家にやってきた。そこで待ちうけていたのは、空想と現実の狭間で起きる不思議な冒険だった……。
各地の劇場やスローシネマで上映中の『ちえりとチェリー』は、『劇場版 チェブラーシカ』を制作し、原作者のウスペンスキーからも賞賛を得た中村誠監督によるオリジナル作品。東日本大震災で甚大な被害を受けた東北の復興と、子どもたちの未来への願いをこめて制作された。
主人公のちえりを『アイドルマスター シンデレラガールズ』前川みく役などで知られる高森奈津美さんが演じる。中村監督と高森さんに、作品への想いや制作の裏話を伺った。
[取材・構成:川俣綾加]

『ちえりとチェリー』
http://www.chieriandcherry.com/

■想いや命のかけらは永遠に引き継がれていくのではないか

──亡くなった人、これから生まれる命、子どもの成長など、さまざまな想いが詰めこまれたアニメーションだと思います。企画の始まりはどういったものだったのでしょうか。

中村誠監督(以下、中村)
2010年に自分の母が逝去したことをきっかけに、ひとりの人間がこの世からいなくなってしまうことについて考えていた時期に、2011年3月の東日本大震災が発生しました。そこからさらに強く考えるようになって。当たり前ですが残された人は、逝った人の気持ちはわからないですよね。でも、想いや命のかけらは永遠に引き継がれていくのではないか。そう信じることで乗り越えられるものがあると感じたんです。

──高森さんはパイロット版からの参加ですよね。とても長い期間この作品に携わったのでは。

高森奈津美(以下、高森)
2012年に一度パイロット版に声を当てて、2014年にアフレコをしています。アフレコまでに期間があったのでたっぷりとちえりに向き合うことができました。大人の私がどうすれば等身大のちえりになれるかじっくり考えることができたので、とてもありがたかったです。年単位で自分の中でキャラクターをあたためられるってなかなかないです。


──人形アニメーションの制作を担当した韓国のCOMMA STUDIOと中村監督はどういった関わりだったのでしょうか。

中村
2010年の『劇場版 チェブラーシカ』を作った時のメインスタッフが独立して作ったのがCOMMA STUDIO。ずっと同じスタッフが制作しています。

──海外に制作スタジオがある場合のやりとりは大変ではないですか?

中村
実はそんなに大変じゃないんですよ。むしろ通訳が間に入っているぶん、日本人同士では言えない恥ずかしいことが堂々と言えるんですよ。例えば「このシーンが象徴しているのは愛なんだ!」とか。日本人スタッフだとなんとなく言いづらいけど通訳さんがロシア語や韓国語で喋るのは平気です(笑)

──確かに日本人同士だと、あまり面と向かってそういうこと言えないですね(笑)

中村
海外にあるスタジオなので、データにて進捗の確認をすることも有るのですが、チェックをしている時に画面の中に手を突っ込みたい衝動っていうのはあるんです。カメラをもうちょっとこっちに動かしたいのに! であるとか。その場にいたらひょいとできることも、メールで「もう5cm左」と指示を出さないといけない。そういうもどかしさはありますが、やりとりとして大変だったってことはないですね。


──制作はプレスコ、映像制作、アフレコの順ですよね。映像を見ると口の動きが細かくて驚きました。

中村
そうなんです。プレスコで録った音声に合わせて映像を制作し、その映像に合わせてアフレコをしてもらいました。高森さんを始め役者のみなさんにはプレスコのタイミングとぴったり合わせてくださって。「すごい!」の一言に尽きます。

高森
台本もひと言くらいしか変わってなかったですよね。同じ台本で2度声を当てるのも初めてでした。アフレコは難しかったです、みんな口の動きも独特で細かくて。

中村
普通のアニメよりも口パクの数が多くて早口でしたよね。

(次ページに続く)

──中村監督から見た、高森さん演じるちえりの魅力を教えてください。

中村
声にそこはかとない悲しみが含まれているところ。物語の冒頭では、ともすればちえりが嫌な女の子に見えてしまうシーンもあります。そこで見ている人が嫌な子だと思ってしまったら、感情移入できなくなってしまいますよね。そのバランスをとるために「口には出せない悲しみを抱えているんだよ。だからこんな態度を取っちゃうんだよ」と表現するのに高森さんの声にある。そこはかとない悲しみがとても重要なんです。

──パイロット版の段階で、ちえり役は高森さんに決定していた?

中村
いえ、最初の段階ではそうではありませんでした。でもパイロット版から高森さんの演じるちえりが魅力的だなと思っていて、それを聞きながら映像の作業をしていたら、もうどう考えても高森さんしかいないと思って。

高森
本当に嬉しいです!

──高森さんから見た中村監督は、どんな印象の方でしょうか。すぐ横にいるのにこんな質問するのも恐縮ですが……!

高森
まず、とても繊細な方だなと。最初にお世話になったのが女の子向けアニメで、中村さんはシナリオとして参加されていました。そのせいか、心の中に少女も大人の女性もいるし本当に色々な存在が内側にあるという印象が強いです。『ちえりとチェリー』の全登場人物も中村さんの心に住んでいるのだと思いす。内側の広がりがすごいですね。

中村
ちょっと気恥ずかしいですね、真横でそう言っていただけると…(笑)

高森
本当そうですよ。私たち声優はいただいた役を演じる仕事で、ゼロから生み出す仕事ではありませんから。中村さんが生んでくださったちえり、チェリー、レディ・エメラルドにねずざえもん。私はちえり役なので一番にちえりに気持ちが寄ってしまいますが、ちえりのお母さんにも共感できるし、みんなが誰かに感情移入してしまう。そういう作品が作れることが素晴らしいと思います。

中村
恐縮です。


──キャストのみなさんは一緒にアフレコできましたか?

中村
高森さんと星野源さんたちは一緒にできました。ちえりのお母さん役の尾野真千子さんと、レディ・エリザベス役の田中敦子さん、それとサンドウィッチマンのおふたりは別日でしたが。

高森
チェリー役の星野さんとご一緒できたのは本当にありがたかったです。

──現場で掛け合いができる、できないによって大きな違いがあるのでしょうか。

高森
パイロット版で、私はチェリーにお父さんのイメージを抱いていたんですよ。でも、星野さんがチェリーを演じたら「わー!」でした(笑)

中村
「わー!」ってなりましたね(笑)

──え、どういう「わー!」なんですか?(笑)

中村
僕の中でもチェリーって“お父さん”の比重が大きかったんです。でも星野さんが演じた瞬間に「あ、チェリーは親友だ」。

高森
“おともだちチェリー”でしたよね。平等な立ち位置でちえりと一緒に歩むキャラクター。

中村
キャラクターの設計としても、シナリオの設計としても、チェリーってちえりを守ったり助言してくれる人だし、お父さんっていう構造自体は変わってないのですが、そこに星野さんの声が入ることで親友感が増す。キャラクターとしてすごく自由になれたと感じましたね。「チェリーってそうだったのか」と納得もしました。

──最後に、読者にひと言お願いします。

中村
アニメーションの作り手としてまずは子供が見て何かを受け取ってもらえる作品を作りたいと思っています。「人形アニメーションだからこんな感じだよね」と言われたら、僕の中ではそれは失敗。見ている間は人形アニメーションであることを忘れて欲しいんです。そして、劇場をあとにした時に「これって人形アニメーションなんだっけ」と思い出してもらいたいですね。

高森
ちびっこのみなさんは素直に楽しんで、大人のみなさんは子供のころ感じていたことや郷愁を思い出してくれるといいなと思います。かわいい作品ですがテーマはとても深い。人と人が出会うってとても尊いんだと……何度見返しても私は涙でボロボロになってしまいます(笑)。みなさんの心の中にもきっと、チェリーみたいな存在がいるはず。そういう存在と改めて向き合ってくれたら嬉しいです。



『ちえりとチェリー』
同時上映『チェブラーシカ 動物園へ行く』
7月30日(土)より、ユーロスペースにて夏休みロードショー
8月20日(土)より、シネマート心斎橋【大阪】
8月公開、シネマテーク【名古屋】

(C)『ちえりとチェリー』製作委員会