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欅坂46は“いま、何を語るべきか”が重要であるーー8月10日発売の注目新譜5選

2016年08月09日 16:31  リアルサウンド

リアルサウンド

欅坂46 『世界には愛しかない』(Type-A)

 その週のリリース作品の中から、押さえておきたい新譜をご紹介する連載「本日、フラゲ日!」。8月10日リリースからは、欅坂46、E-girls、ユニコーン、クリープハイプ、Sugar's Campaignをピックアップ。ライターの森朋之氏が、それぞれの特徴とともに、楽曲の聴きどころを解説します。(編集部)


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■欅坂46 『世界には愛しかない』(SG)


 今年4月にシングル『サイレントマジョリティー』でメジャーデビュー、楽曲のクオリティの高さと14歳のセンター・平手友梨奈の優れたビジュアルによって一瞬にしてアイドルシーンのトップランナーとなった欅坂46の2ndシングル。冒頭は「歩道橋を駆け上がると/夏の青いそれがすぐそこにあった。」というセリフ(語り手は平手)。セリフと歌が交互に繰り返しながら<誰に反対されても(心の向きは変えられない)/それが僕のアイデンティティ>という結論へとたどり着く構成はまるで高校の演劇部の作品を観ているようで、誤解を恐れずに言えば、サウンドやメロディ自体はその背景に過ぎない。この楽曲のプロダクションはおそらく“デビューしたばかりの欅坂46のメンバーはいま、何を語るべきか”を中心にデザインされているのだろう。音楽性やパフォーマンス以前に”誰がどんな言葉を発するのか”が重要。それこそがJ-POPのキモであることを、秋元康は知り抜いている。


■E-girls『Pink Champagne』(SG)


 カラフル&ポップな前作「E.G.summer RIDER」に続く2カ月連続“夏シングル”の第2弾「Pink Champagne」は、クール&スタイリッシュなイメージを押し出したダンスチューン。テーマは“80年代と現代の融合”ということで、80sディスコと先鋭的なエレクトロを結合させたトラック、真夏のナイトシーンを舞台にした恋愛の駆け引きを描いたリリックが軸になっている。バブル時代を知っている世代から現在のクラブユーザーにまでアピールしつつ、良い意味で場末感を加えることによって、最終的には幅広い層が気軽に楽しめるポップスに仕上げているところはさすが。楽曲ごとにわかりやすいアピールポイントを作り、ダンスミュージックのトレンドをJ-POPを落とし込むことで支持を広げてきたE-girls。サウンド、パフォーマンス、ビジュアルを含め、そのプロダクションの精度はさらに上がっているようだ。


■ユニコーン『ゅ 13-14』(AL)


 前作『イーガジャケジョロ』以来約2年5カ月ぶり、再結成以降5作目(通算13枚目)となるフルアルバム。今年7月にabedonが50歳となり、メンバー全員がめでたく50代に突入したユニコーンは、昨年、川西幸一(Dr)が脳梗塞に見舞われるなど(現在は完全復活! まさに鉄人)年相応の出来事を経験しつつも、本作でも“全員がやりたいことをやる”というスタンスをしっかりと追求、どこまでも自由で奔放なロックアルバムを生み出してみせた。アルバムの冒頭5曲のボーカリストがすべて違うことからもわかるように、5人の個性がさらに自在に発揮されているのだ。その姿勢を象徴しているのが“俺たちに明日はない もう時間が少ない”“やりまくるだけ”(「すばやくなりたい」/作詞・作曲:奥田民生)というフレーズ。シーンの動向や音楽業界の状況を気にすることなく、いまやりたいことに最短距離で近づいていく。リラックスと緊張がせめぎ合うような本作の雰囲気は、メンバー5人の純粋な表現欲求に根差しているのだと思う。考えてみると“時間がないから、やりたいことをやらなくてはいけない”というテーマは、年齢に関わらず、すべての人に共通しているのだけど。


■クリープハイプ 『鬼』(SG)


 「信頼していた人たちに裏切られ続ける」という男を主人公にしたドラマ『そして、誰もいなくなった』(日本テレビ系)のストーリーに激しく共感した尾崎世界観が「世の中に復讐するような気持ちで」書き下ろした「鬼」は、どんなに仲良くても、どんなに長く一緒にいても、結局はお互いに何を考えているかわからず、何がどうなっても“人は孤独である”ということには変わりがない人間という存在の悲しみ、おかしさ、愛おしさをリリカルに描き出したアッパーチューン。根底にあるのは尾崎自身の個人的な経験と感情なのだが、曲を聴いているうちに「これ、自分のことかも」と浸食されるような感覚(“共感”ではないところがポイント)は尾崎の処女作となった書籍『祐介』にも共通している。きわめてシリアスなテーマを扱っているにも関わらず、独特のユーモアと可愛らしさを加えることで、親しみやすいポップ感をまとっているところも「鬼」の魅力。この曲によってクリープハイプは、一時の停滞時期を抜け、さらに凄みを増していくことになりそうだ。9月7日リリースのアルバム『世界観』にも大いに期待したい。


■Sugar's Campaign『ママゴト』(AL)


 作曲家/トラックメイカーのAvec Avec、マルチアーティストのSeihoによるユニット、Sugar’s Campaignの2ndアルバム『ママゴト』のテーマはずばり“家族”。料理が上手じゃないママへの親しみを描いたタイトル曲「ママゴト」(ゲストボーカルの井上苑子の舌足らずな歌声がめちゃくちゃかわいい)、生まれ育った家への愛着を綴った「SWEET HOME」まで、家族にまつわる物語をまるで短編映画のような雰囲気で表現している。80年代のエレポップ、90年代の渋谷系、00年代のネオ・ソウルなど、各時代のエッセンスをさりげなく注入したサウンドメイクも絶品。恋愛と並び、もっとも一般的なテーマを掲げることで彼らは、必然的にポップミュージックと正面から向き合うことになったという。ポップであることはつまり、大衆的であること。その大前提を踏まえながら質の高い楽曲を体現したみせた2人は、このアルバムによって自らのポップス像をしっかりと掴み取ったようだ。(森朋之)