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生田斗真、“抑えた芝居”はどう培われた? 『秘密 THE TOP SECERT』へ至るキャリア

2016年08月08日 19:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『秘密 THE TOP SECRET』(c)「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会

 生田斗真の映画デビュー作の監督、荒戸源次郎は「50年に一人の逸材」と彼を評している。近年その演技力は高い評価をされ続け、1作ごとに異なる魅力を放っている。


参考:森田剛、『ヒメアノ~ル』で日本映画の最前線へ 舞台で磨いた“尖った個性”を発揮する時


 映画デビュー作『人間失格』での女に溺れる主人公に始まり、『源氏物語』の光源氏、『脳男』では高い知能を持ちながら感情の欠落した男、『土竜の唄』ではボンネットの上で全裸になってみせ、『予告犯』ではネットで犯罪予告を行い世直しを扇動する青年、『グラスホッパー』では復讐のために闇組織に挑む弱い教師。さらに蜷川幸雄の舞台では、女性役やヒトラーといった非常にクセの強いキャラクターに挑戦した。エッジの効いた役ばかりではなく、『僕等がいた』やブレイクのきっかけとなったテレビドラマ『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』(フジテレビ系列)などでは、等身大の恋愛映画の主人公も演じている。非常に器用な役者で、どの作品でも真摯に役に向かい合い続けている。




 彼は今でこそ映画の演技派俳優というイメージだが、17歳の時に踏んだ劇団☆新感線の舞台『スサノオ~神の剣の物語~』が、後の彼の芸能人生を決定づけたと言っても良いだろう。2010年1月に放送された『情熱大陸』(MBS・TBS系)の中で生田は、1から芝居をつくり上げ、子どものように楽しんで仕事をする劇団☆新感線のベテランたちがとても羨ましかったと、舞台役者として初めて仕事をした時の感動を語っている。以来、共演した古田新太は彼の憧れとなり、舞台で多くのキャリアを重ね、他のジャニーズ所属の俳優たちとも一線を画したキャリアを積んできた。



 今や押しも押されぬトップスターとなった生田斗真だが、最新作『秘密 THE TOP SECRET』でも貪欲に難度の高い役にチャレンジしている。清水玲子のミステリー・コミック原作のこの作品で生田が演じるのは、死者の記憶を映像化し、犯罪捜査を行う科学警察研究所法医第九研究室、通称「第九」の室長を弱冠33歳で務める薪剛だ。この薪というキャラクター、原作では33歳にして小柄で童顔、女性と見紛うような美貌の持ち主という設定である。非常に漫画チックなキャラクターで、実写化するのが難しいキャラクターだが、女性役を演じたこともある生田は、この役をこなすのに適任だったと言えるだろう。自然と醸しだされるミステリアスな雰囲気も、作品全体の雰囲気作りに大きく貢献している。


 今回生田が見せた芝居は、『脳男』でも見せたような抑制された中で感情を匂わせるような、「抑えた芝居」だ。表情を崩さず、常に冷静に事態を分析して現状を打破していく薪は、実は大きなトラウマを抱えている。クールな態度にもそれが自然とにじみ出る生田の存在感は抜群だ。その壊れるギリギリ一歩手前の危うさを表現するのが大変に上手い。『人間失格』や『脳男』も台詞の少ない役で、抑えた芝居の上手さはすでに実証済みだ。こうした何もしないで「にじみ出す」芝居は彼の得意とするところだろう。役者としてとても良い「雰囲気」を持っているとでも言おうか。彼が画面に映るだけで映像が引き締まるのだ。彼は高い演技技術を持っているが、ただ上手いだけの役者とも違う。彼特有の危険な色気を持っている。抑えた芝居では特にそれが香り立つ。


 今年は10年ぶりに自らの役者人生を決定づけた劇団☆新感線の最新作にも出演し、映画では『土竜の唄 香港狂騒曲』が公開待機中。さらに来春には荻上直子監督の最新作『彼らが本気で編むときは、』でトランスジェンダーという難役にまたしても挑む生田斗真。実に充実した役者人生だろうが、現状に甘んじることなく彼の挑戦はこれからも続く。今後もどんな魅力を香り立たせてくれるのか、大いに期待したい。(杉本穂高)