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音楽フェスの新たな方向性を示した『Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016』レポート

2016年08月07日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

<フェス会場写真>Photography:YUKIHIDE NAKANO / TOYOKO IWAHASHI / SHOUICHI SUZUKI

 7月30日~31日と29日の前夜祭を含む3日間、宮城県石巻港雲雀野(ひばりの)地区で『Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016』が開催された。小林武史、櫻井和寿をはじめとするミュージシャン47組、アーティスト9組、フード関連(シェフ・サービスメンバー39名、出店者40組)が参加し、約4万人の観客を動員したこのフェスは、2017年夏に行われる本祭『Reborn-Art Festival 2017』のプレイベントと位置付けられていた。


 『Reborn-Art Festival』とは、東日本大震災から5年が経ち、復興に向けて進んできた現地の人々の“生きる力”“生きる術”に共感したアーティストが、東北の自然や食材、歴史、文化を舞台にしながら、そこに暮らす人々と共に繰り広げる総合祭。今回のイベントにも、本祭に向けた取り組みが数多く展示されていた。


 会場に入って最初に目に入るのが、人をかたどった全長33mの巨大な作品「空気の人」(鈴木康広/制作は武蔵野美術大学空間演出デザイン学科の有志メンバー)。さらに“目が覚めると過去の記憶をすべて失っていた男の経験”をテーマにしたインスタレーション「three tables for amnesia(a part of“figment”)」(さわひらき)など、石巻/牡鹿半島を舞台に行われる本祭『Reborn-Art Festival 2017』の参加アーティストや予定されている内容を紹介するコーナーも。また、メインステージの装飾には、フランス生まれのアーティスト・JRによる作品「INSIDE OUT」が用いられていた(牡鹿半島、石巻の市街地を巡りながら撮影された地元の人たちのポートレイト写真もステージデザインの一部に使用)。会場内にもポートレイト撮影用のトラックが置かれ、このアートに参加したい観客が列を作っていた。また、メインステージのビジョンに石巻の海の映像を同時中継したり、各アーティストのプロフィールを映し出すなど、このイベントのコンセプトに沿った演出も印象的だった。


 フードエリアも充実。三陸・雄勝産の帆立や牡蠣など、その日水揚げされた新鮮な魚介類を漁師さん自らが焼いてくれる屋台エリア「ハマ マルシェ」、地元の飲食店が鹿、ホヤ、鯨などの名物料理を提供する「ハーバー横丁」などで東北の食文化を楽しむことができた。また、会場内に設置されたレストラン「Reborn-Art DINING」では日本各地から集まったトップシェフたちが、やはり地元食材を使ったスペシャルメニューを提供。ランチは2800円、ディナーは6000円と“フェスごはん”としてはかなり高価だが、3日間を通してすべて満席。メインステージから聴こえてくる多彩な音楽を聴きながら、質の高いランチ、ディナーを堪能できるこのダイニングは、フェスの新しい楽しみ方を提示していた。


 東北との関わりの中で、多様な音楽、芸術を発信するという『Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016』のコンセプトは、もちろん音楽にも色濃く反映されていた。それを象徴していたのが、オープニングのステージ。このイベントのホストバンドであるBank Band(小林武史/Key、櫻井和寿/G&V、小倉博和/G、亀田誠治/Ba、河村“カースケ”智康/Dr、山本拓夫/Sax、西村浩二/Trumpet、四家卯大/Cello、沖祥子/Violon、イシイモモコ/Cho、小田原ODY友洋/Cho)、SUGIZO(G)、ATSUSHI(Dragon Ash)に加え、地元の和太鼓奏者「渡波獅子風流塾」、石巻市立桜坂高校、石巻好文館高校の合唱団、さらに石巻を中心に活動している男性コーラスグループ石巻メンネルコール、女性コンテンポラリーダンサーなどもステージに上がり、音楽ジャンル、地域性、年齢、性別などを超えたセッションを繰り広げたのだ。このセッションのプロデュースとアレンジメントはもちろん小林。名プロデューサーとして知られる小林の敏腕ぶりを改めて実感できるオープニングだったと思う。


 ライブは基本的に“Bank Band+ゲスト・ボーカル”とバンド、ソロアーティストなどのステージが交互に行われる構成。2日目(31日)のゲスト・ボーカルにはSalyu、佐藤千亜妃(きのこ帝国)、安藤裕子、ナオト・インティライミ、ハナレグミ、MISIA、櫻井和寿が登場。なかでも印象的だったのがMISIAのアクト。震災のことに直接触れ、死者への祈りを捧げ、“みんなが笑顔になれるのが本当の復興”というメッセージを伝えた後で歌われた「明日へ」は、このイベントを石巻で行うことの意味を伴い、大きな感動を生み出していた。また櫻井和寿は「スローバラード」(RCサクセション)「ロストマン」(BUMP OF CHICKEN)などの貴重なカバーを披露。「この曲を歌うためにここに来たようなもの」とまで言い切った新曲「こだま、ことだま。」(Bank Band)における深い祈りにも似た歌声も、このイベントを象徴するシーンのひとつだった。


 さらに赤い公園、ストレイテナー、Mr.Children、YEN TOWN BAND、GAKU-MCなどが個性あふれるステージを展開した。Mr.Childrenはまだ日差しの強い14時50分からのスタート。「名もなき詩」「Tomorrow never knows」「HANABI」「シーソーゲーム~勇敢な恋の歌~」「innocent world」「足音 ~Be Strong」といったヒット曲を惜しげもなく披露した構成によって、最高の盛り上がりを演出してみせた。生々しいバンド感を前面に押し出したパフォーマンスもインパクト十分。また、イベント中盤の時間帯に出演したことからは“ミスチルもこのイベントの一部に過ぎない”という意図が感じられた。静岡県・つま恋の野外広場で行われていた過去のap bank fesでは常にヘッドライナーをつとめていたことを考えると、そのポジションの違いは明らかだろう。


 三宅洋平率いる(仮)ALBATRUS、先鋭的なポップミュージックを追求するAPOGEE、日本のダブミュージックの新たな担い手“あらかじめ決められた恋人たち”など、オルタナティブな手触りを持つバンドが参加したことも、このフェスの多彩ぶりにつながっていたと思う。イベントのラストを飾ったOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDのステージでは、小林、櫻井とのセッションも実現。TOSHI-LOWと櫻井が同じステ—ジで「蘇生」(Mr.Children)を歌う場面は、最後まで会場に残ったオーディエンスの胸に強く刻まれたはずだ。


 震災から5年の節目の時期に開催された 『Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016』は、前述の通り、来年夏の本祭『Reborn-Art Festival 2017』へとつながる。東北の風土、文化、に根差しながら、音楽、食、アートを融合させるこの壮大なプロジェクトは、音楽フェスの新たな方向性を示唆するとともに、この国のアートの意義にも一石を投じることになりそうだ。(文=森朋之)