2016年08月06日 11:11 弁護士ドットコム
「嫁が俺のために隠れて貯金してた」。妻が自分に内緒で貯金をしていたことに怒る投稿が、ネット上の掲示板で話題になった。
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妻は「車の購入」や「店を開きたい」という夫の夢のために、夫の給料を毎月内緒で貯金していた。夫1人に管理させていたら、そんなお金はたまらないと考えたからだ。しかし、夫は、妻に感謝するどころか「その分お小遣いを増やしてほしかった」と、内緒で貯金していたことに怒りを感じているという。
投稿者に対しては、「いい嫁さんだ」「大切にしろ」などと妻を支持する声が圧倒的だったが、妻が夫に隠れて貯金をすることは法的に問題があるのだろうか。川見未華弁護士に聞いた。
「民法上は、夫婦の一方が婚姻の前に取得した財産は、その人の固有の財産(「特有財産」といいます)となります。
婚姻した後に取得した財産であっても、夫婦の一方が自分の名義で取得した財産は、その人の特有財産となります。
一方で、婚姻した後取得した財産で、夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、夫婦の共有財産と推定されることになっています(民法762条)」
川見弁護士はこのように述べる。給料はその人の名義の口座に振り込まれることが一般的だと考えられる。そうすると、夫の給料は、夫の特有財産ということになるのだろうか。
「そうではありません。たとえば、夫が外で働き、妻が専業主婦として家事労働に従事している場合、夫が勤務先から得た給料は、夫名義であっても、実質的には夫婦の共同財産と考えられています。
夫の給料は、夫の就労と妻の家事労働による協力によって形成したものであり、財産を形成したことに対する寄与の程度は、夫婦平等であると考えられるからです。
このことから、婚姻中に得た給料により蓄えた預貯金や、給料により購入した株式・自動車など、夫婦が婚姻中に形成した財産は、名義が夫婦の一方であったとしても、原則として夫婦が協力して形成したものとして、実質的には夫婦の共有財産であるとされています」
今回のケースについては、どう考えればいいのか。
「夫が得た給料であっても、夫婦が協力して形成したものとして、夫婦の共有財産であると考えられます。
妻が夫の給料を夫に内緒で貯蓄していた場合は、程度にもよりますが、法的に問題となることはないと思います。
とはいえ、夫婦には、婚姻共同生活を協力して営む義務がありますから(民法752条、協力義務)、夫の給料の使い方については、本来、夫婦で共同生活を営むにあたり、話し合って決めるべき問題です。
また、仮に離婚することになった場合には、夫の給料から蓄えた預貯金は、名義のいかんを問わず夫婦共有財産となりますから、財産分与の対象となります」
もし、夫の給料を妻が内緒で使い込んでしまった場合はどうだろうか。たとえば、株やFXなどの取引をおこない、損失を出してしまったようなケースはどう考えればいいのか。
「その場合は、法的に問題となる可能性があります。
他人名義の預金を管理している者が、その管理の趣旨に反して預金を費消する行為は、横領罪にも該当しうる行為です。
しかし、横領罪の場合、夫婦間の犯罪については刑事罰は免除されることになっていますので(刑法244条、255条)、預金を管理している妻が夫の給料から夫に内緒で株やFXに投資しても、横領罪として刑事罰に処せられることはありません。
他方、夫婦の共有財産である預金を、勝手に使用し、多額の損失を与えたことについて、夫から、民事上の損害賠償責任を問われる可能性はあるでしょう。
また、仮に、離婚の話が浮上した場合には、夫に内緒で夫の給料から株やFXの運用をし、多額の損失を出した行為は、離婚原因の一事情(『婚姻を継続し難い重大な事由(民法770条1項5号)』)となる可能性があります。
離婚に伴う財産分与の対象としては、原則として、多額の損失を出した後の残額となりますが、妻が多額の損失を出した行為が、財産分与の割合(原則は折半)を決めるにあたり、考慮されることもあるかもしれません。
また、夫の給料を勝手に使用し、多額の損失を与えた場合は、離婚の際、夫からの慰謝料請求の原因の一事情ともなり得るでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
川見 未華(かわみ・みはる)弁護士
東京弁護士会所属。家事事件(離婚、DV案件、親子問題、相続等)及び医療過誤事件を業務の柱としながら、より広い分野の実務経験を重ねるとともに、夫婦同氏制度の問題や福島原発問題等、社会問題に関する弁護団にも積極的に取り組んでいます。
事務所名:樫の木総合法律事務所
事務所URL:http://kashinoki-law.jp/