ALSやパーキンソン病、アルツハイマー型痴呆などの「神経変性疾患」を患う人は、中枢神経の神経細胞が徐々に死滅していくので顔の表情が乏しくなり、感情が読み取りにくくなってしまいます。
この問題に対し、イスラエルのテルアビブ大学は、頬に貼るだけで人の感情を読み取ることができる「電子タトゥー」を開発しました。世界的に注目される新技術について、7月13日付のスタートアップ・イスラエルが取り上げました。(文:夢野響子)
筋肉の動きを補助することもできる優れもの
この電子タトゥーは、炭素電極と粘着性のパッド、ナノテクノロジーを応用した導電性ポリマーコーティングで構成。顔の筋肉から受信した電気信号を介して、人の表情をモニターし、感情を読み取ります。
この技術を使えば、何時間貼っても皮膚を刺激せず、強く安定した信号を記録し続けることができます。どんなポーカーフェイスを装っても感情がバレてしまうなら、犯罪捜査のウソ発見器としても使えそうです。
テルアビブ医療センターの研究では、この装置を神経変性疾患の患者の筋活動をモニターするために使用するとのこと。開発に携わったテルアビブ大学のヤエル・ハネイン教授は、この技術にかなりの自信がある様子です。
「世界中の研究者が、写真やソフトを介して人の表情を分析し感情を位置づける手法を開発しようとしています。しかし私たちの電子タトゥーは、より直接的で使いやすいソリューションと言えるでしょう」
この電子タトゥーは表情を読み取るだけでなく、逆に筋肉の動きを補助することもできます。将来的には、脳卒中や脳損傷後のリハビリ中の患者が筋肉をコントロールするのを改善したり、手足を切断した患者が残りの筋肉で義手や義足を動かしたりするためにも使用できそうです。
感情を読み取ることでマーケティングにも応用
またこの電子タトゥーは医療やリハビリにも利用できるとともに、自動車ドライバーの覚醒度を測定したり、人の感情の洞察に使うことでビジネスや市場調査にも活用したりできそうです。ハネイン教授は、この新しい分野についてこう説明します。
「人の感情を識別してマッピングする機能には、多くの用途が考えられます。これまで正確な科学的ツールがなかったために、主観的なアンケートに頼ってきた広告主、世論調査員、メディアの専門家などが、様々な製品や状況に対する人々の反応をテストしたがっています」
なおこの製品は、欧州研究会議(ERC)やイスラエル経済省の助成を受けており、科学誌サイエンティフィック・レポートにも掲載され、テルアビブ大学で開催された国際ナノ医療プログラムでも発表されました。
日本の義手・義足技術は世界的に高いレベルと言われますが、このような海外の技術と組み合わせて、困った人たちの助けとなることを祈りたいと思います。
(参照)Tel Aviv U’s electronic tattoo said to read your face, and emotions (START-UP ISRAEL)
あわせてよみたい:「120歳まで生きられる薬」に異論続出