もはや、GT-R以外の優勝候補を挙げるのが難しくなりつつある今シーズンのスーパーGT500クラス。これまで開催された今季の3戦ですべてニッサン陣営が優勝を奪い、今週末の第5戦富士300kmも、カルソニック IMPUL GT-RとS Road CRAFTSPORTS GT-Rが優勝候補の鉄板となっている。そのどちらが勝つのか……よりも、ここは敢えて、GT-R以外が勝つ場合のチーム、その条件を考えてみたい。
■富士での高い実績、GT-R、RC Fの2スペック目エンジン
GT-R陣営とRC F陣営は今回、今シーズン2スペック目となるエンジンを投入してきた。その出来映えはもちろん、走行してみなければ判断できないが、1スペック目より性能が劣っているとは考えづらい。信頼性の面でもしかしたら……ということが考えられるが、それはあまりにも穿った見方と言える。
実績面でも、GT-Rの富士での強さは際立っている。過去3年の5戦の富士戦の中でGT-Rが4勝(NSX1勝)と、無類の強さを発揮。その強さの秘密の一番は、ライバル勢の分析によれば、特異な形をした「富士用のロードラッグ仕様エアロパーツの出来の良さ」だと言われている。前戦の第4戦SUGOでは、2位にDENSO KOBELCO SARD RC F、3位にZENT CERUMO RC Fが入り、パフォーマンスの高さをアピールしたが、それはお互いハイダウンフォース仕様のエアロでの戦い。
第2戦富士のように、カルソニックとウエイトを40kg搭載したMOTUL AUTECH GT-Rがトップ争いを演じたように、ロードラッグ仕様エアロでのGT-Rと富士の相性の良さは抜群と言える。RC Fのロードラッグ仕様にはカナードがないが、GT-Rはフロントバンパー両脇にカナードを2枚ずつ装着するなど、ドラッグを減らしながらも、ダウンフォースを極力残すバランスが絶妙に富士にマッチしているようなのだ。そのため、富士でのGT-Rは特に第3セクターの小回りな登りセクションが速く、今回もその傾向が続くと考えられる。
■トラブルが多かった前回の富士、そして前戦SUGO
その第2戦から変わったパーツはエンジンとタイヤということになるが、タイヤの面では少々、GT-R陣営にも不安が残る。第2戦富士ではレース終盤、トップに立ったカルソニックの左リヤタイヤがバースト。カルソニックはリタイヤを喫してしまったが、今回の富士用には当然、タイヤメーカーも安全面での対策を施してきている。その対策されたタイヤがどのようなパフォーマンスを発揮するのか。4メーカー間のタイヤ戦争が春の富士とは違った形で見れることになりそうだ。
また、これはGT-Rに限った話ではないが、前戦SUGOでは優勝候補筆頭のカルソニックがスタート直前の8分間走行中にプロペラシャフトが破損するトラブルに見舞われ、その修理のためグリッドにつけず、ピットスタートを余儀なくされてしまった。
プロペラシャフトは3メーカー共通パーツだが、そのライフに関わらず、どのメーカーも度重なるトラブルに悩まされている。通常30分かかるというプロペラシャフトの交換作業時間を、およそ15~20分で終えたカルソニックのメカニックの作業は驚嘆に値するが、このプロペラシャフト問題はGT-R陣営だけでなく、やっかいな問題だ。
■天候、路面コンディションは……
今週末の富士スピードウェイのある御殿場市の最高気温は連日、30℃を越える真夏日になる模様。タイヤにとっては厳しい条件になるが、GT500の4メーカーの中で高温下でもっとも強いメーカーとされているのがヨコハマタイヤだ。
シーズン前のマレーシア・セパンテストでもパフォーマンスがもっとも良かったと言われ、昨年のこの富士戦でもヨコハマタイヤ装着の24号車のKONDO RACINGが勝利を挙げ、この時期の富士での強さを見せている。今回の24号車は前戦SUGOで勝利を挙げてウエイトハンデも重いが、同じヨコハマタイヤを装着するWedsSport ADVAN RC Fがトップ争うの有力候補となる。
■ウエイトの軽いチームの猛追
GT-R陣営を4台が何かしらの理由で上位に来なかった場合、優勝候補となるのはどこか。まずはGT-Rに次いで富士を得意とするレクサスRC F勢の名前が挙げられる。特に前回のSUGOで上位フィニッシュしたZENT CERUMO RC F、WAKO'S 4CR RC F、そしてモノコックを交換して本来の速さが見えてきたau TOM'S RC Fは有力候補。そして、そのRC Fの中でもっとも今回の富士で上位が期待できるのが、ヨコハマタイヤを装着するWedsSport ADVAN RC Fになる。
また、ホンダ陣営は得意とする前回のSUGOではKEIHIN NSX CONCEPT-GT、RAYBRIG NSX CONCEPT-GTが予選上位に食い込んだが、決勝ではアクシデントもあり低迷。ライバル2メーカーに先駆けて勝負のSUGOで2スペック目のエンジンを搭載し、その評判もすこぶるよかったが、結果は残せなかった。
この富士ではNSXが総じてウエイトが軽く、10kgのKEIHIN NSXとARTA NSXが一番重い状態。チャンスは大いにあり、評判高い2スペック目のエンジンがパフォーマンスを発揮すれば、上位の芽が出てくるかもしれない。NSX陣営に関しては前回のSUGOでタイヤのピックアップに悩まされたチームが多く、今回の富士でもタイヤマネジメントが鍵になる。
■GT300は……
GT300クラスについては、今回GT300マザーシャシーを含むJAF-GT車両に対し、基準面とスキッドブロックの間のスペーサーが、これまでの5mmから10mmに増やされ最低地上高に調整が加えられたほか、燃料補給装置については、流量リストリクター(内径27.5mm)が適用されやや性能に制限が加えられている。
ただ、JAF-GT勢に聞いてみると、最低地上高についてはそこまで大きな影響はない様子。むしろ地上高が上がることで「ストレートスピードでは有利になるのでは?」という声もあった。ただ、燃料流量リストリクターについては、レースで影響があるという声が数多く聞かれている。
一方で、FIA-GT3勢のなかではニッサンGT-RニスモGT3勢、そしてBMW M6 GT3が第2戦のときは強さを発揮しており、今回も本命視されている。BMW M6 GT3については、車重によるタイヤの厳しさや燃費が不安視されているが、300kmというレース距離はそれを払拭してくれるかもしれない。逆に、第2戦のときにストレートスピードが苦しかったメルセデスベンツAMG GT3勢からは、「どれだけ絞り出せるか」というような厳しいコメントが数多く出ている。
JAF-GT勢の速さ、また予選と決勝で一発を得意とするか否か等、今回もGT300はまったく予想がつかない展開となりそうだ。まずは土曜の公式練習でのタイムを見てみないと、決勝の順位を予想するのは早計だろう。