2016年08月05日 18:12 弁護士ドットコム
一橋大学構内で2015年8月に起きた男子学生の転落死事故をめぐり、両親が同級生と一橋大を相手に、計300万円の損害賠償を求めて、裁判を起こしている。男子学生は同性愛者で、被告の同級生男性から周囲にアウティング(暴露)され、心身の不調に悩まされていたという。
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原告はこの同級生の男性に対し、男子学生に精神的苦痛を与えたとして100万円を、大学側に適切な対応を取らなかった安全配慮義務違反などがあったとして200万円を求めている。提訴は3月25日付。
8月5日に東京地裁であった第1回口頭弁論後、東京・霞が関の司法記者クラブで、原告側代理人の南和行弁護士と吉田昌史弁護士が記者会見を開いた。アウティングによる裁判は珍しいそうで、吉田弁護士は「アウティングは、同性愛者の方が問題という視点で見られがちだが、加害的な行為で、アウティングした側に問題があるという理解を得たい」と語った。
訴状によると、当時男子学生は一橋大ロースクールの3年生。被告の男性とは同じクラスで、毎日のように一緒に食事する仲だった。男子学生は男性に恋愛感情を抱くようになり、2015年4月に告白。男性は、応じることはできないが、友人関係は継続すると伝えたという。
しかし、その2カ月後、男性はロースクールの同級生でつくるLINEのグループで、男子学生が同性愛者であることを暴露した。そこには「おれもうおまえがゲイであることを隠しておくのムリだ。ごめん」と書かれていた。
男子学生はこのメッセージに対し、「たとえそうだとして何かある?笑」「これ憲法同性愛者の人権くるんじゃね笑」と返信している。「笑」とあるが、南弁護士は「頭が真っ白になって、震えながら打ったのではないか」と話す。南弁護士は生前の男子学生からメールで相談を受けている。そこでは、「人生が足元で崩れ落ちたような気がする」と書かれていたという。
暴露された後、男子学生は心身に不調を来たし、心療内科に通うようになった。被告の男性と顔を合わせると緊張や怒り、悲しみで吐き気やパニック発作が起こるなどの症状があったそうだ。
男子学生は暴露された後、学内のハラスメント相談室や教授らに自身の体調問題を含め、複数回相談。大学側ともクラス替えや留年など、被告男性と距離を取れないか話し合っていた。
しかし、2015年8月24日、必修の「模擬裁判」に出席するため登校した男子学生は、建物の6階のベランダを乗り越え、転落。搬送先の病院で死亡が確認された。この日の午前中、男子学生は体調を崩し、大学の保健センターで休養していた。
原告側は、大学が男子学生の症状などを知っており、事故を予見できたにもかかわらず、有効な対策を取らなかったと主張している。これに対し、一橋大学は弁護士ドットコムニュース編集部の取材に対し、「本学の立場は裁判で明らかにしたいと考えております」と回答した。
会見には遺族も出席。妹が「一瞬にして兄の人生を、家族の人生を変えられてしまいました。生前、兄が被告学生を訴えたいと言っていたので、本人の無念を晴らすために提訴しました」などとコメントを読み上げた。
(弁護士ドットコムニュース)