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ケロポンズが語る、子どもの心をつかむ秘訣「自分たちが思い切り楽しめることが一番大切」

2016年08月05日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

ケロポンズ(写真=竹内洋平)

 保育界では知らない人はいないという、カリスマ女性2人ユニットのケロポンズ。YouTubeで1300万回以上も再生されている大ヒット曲「エビカニクス」をはじめ、すでに1000曲を超えるレパートリーを持つ彼女たちのステージは、歌、踊り、笑いと、何でもあり。フジロックにも4年連続で出場するなど、子どもだけでなく大人も楽しめる一大エンターテイメントに中毒者が続出している。


 ケロポンズの楽曲には、子どもの心をつかむ要素が数多く含まれている。例えば、オンビート(表の拍)を強調したわかりやすいメロディに、ストーリー性よりも語感の楽しさを強調した、ナンセンスかつインパクトのある歌詞(実は、深いメッセージが隠されている場合もあるのだが)。それらをシンプルな8ビートやシャッフルのリズムに乗せて、繰り返し歌うことによる高揚感が、どの曲にもあふれている。また、ギロや口琴、タブラ、シンセといった不思議な音色の楽器や、アラビア音階、ブルースノートなどをフィーチャーしたエキセントリックなフレーズなどは、子どもだけでなく大人にとっても理屈抜きで心に響く魅力があるのだ。


 ケロポンズの2人は、そうした要素をどこまで意識的に楽曲に取り込んでいるのだろうか。このたびベストアルバム『おどってあそぼう!! ケロポンズBEST』をリリースしたケロ(増田裕子)とポン(平田明子)の2人に、結成までの経緯や前身バンド「トラや帽子店」のこと、子どもも大人も夢中になる曲作りの秘密や、「エビカニクス」ニューヨークレコーディング秘話、世界の子どもにも踊ってもらえればと公開した「エビカニクス」外国語バージョンなどについて、たっぷりと語ってもらった。(黒田隆憲)


(関連:「エビカニクス」で話題のケロポンズ『スッキリ!!』生出演 “保育界のアイドル”がお茶の間へ


■「トラや帽子店のステージを見て衝撃を受けた」(ポン)


ーーもともとケロさんは、中川ひろたかさん、福尾野歩さんと「トラや帽子店」というバンドで1987年から1998年までの11年間活動していたそうですね。学生時代その「トラや帽子店」に出会って虜になったポンさんと1999年に結成したのがケロポンズだと聞きました。


ケロ&ポン:そうです。


ーーお二人が音楽に目覚めたキッカケは?


ケロ:私は小学校1年生のときからピアノを習っていて、歌うことも好きだったので、音楽の先生かピアノの先生、あるいは幼稚園の先生になりたいと、なんとなく思っていたんですね。で、音大を受験するときに、ふと子どもにも興味を持つようになって。「音楽と子ども」について学べる場所はないかなと思って調べたら、国立音楽大学に「幼児音楽教育専攻」っていうドンピシャな学部があって。そこを目指して勉強して受験したんです。


ーーどんな音楽が好きだったんですか?


ケロ:小さい頃はソノシートで(笑)、倍賞千恵子さんの「さよならはダンスの後に」(1965年)など、昔の歌謡曲をいっぱい聴いていましたね。もう少し大きくなると、八神純子さんや松任谷由実さん、オフコースあたりが好きになって。大学生の頃は、矢野顕子さんをよく聴いていました。それと、4つ上の兄がいて、隣の部屋でピンク・フロイドとかプログレばっかり聴いていて、それがうるさくてうるさくて、ものすごく嫌だったのを覚えています(笑)。でもなんか、すごく印象に残っているんですよね。矢野顕子さんが好きになったのも兄の影響なんですよ。


ポン:私はケロさんとまったく逆で。左利きだったんですけど、当時は「女の子の左利きは良くない」とか言われて、2歳半くらいから利き手の矯正のために、ピアノを習っていました。先生がすごく厳しくて、左利きだから左の打鍵が強くなってしまうのを、ものすごく怒るんですよ。手をパン!って叩かれて「左が大きい!」って怒鳴られて。


ケロ:かわいそう(笑)。


ポン:「もう行くの嫌だ」と言っても無理やり母親に連れて行かれ、中学までずっと通っていました。だからピアノも、最初は大っ嫌いだったんですよね。ただ、小学生のときにすごくいい先生に出会い、小学校の先生になりたいって思うようになるんですよ。小学校の教員免許を取るには、大嫌いだったピアノをもう一度やらなくちゃいけなくて...(笑)。楽譜もほとんど読めない状態だったので、高校に入ってから習いなおしました。


ーーケロポンズの前は、何か音楽活動をしていました?


ポン:私は広島で育ち、大学では「ヒューマンソンググループ ザ・わたしたち」という、どちらかというとフォークっぽい感じの学外サークルに入ったんです。そこは広島という土地柄もあり、「平和」や「人権」などメッセージ性の強いグループでした。サークル内に「子どもプロジェクト」というのがあって、そこで子どもたちとキャンプしたり、あそびうたを書いたり。そして、大学4年のとき行ったとあるセミナーで、トラや帽子店のステージを見て衝撃を受けました。


ーーどんなふうに?


ポン:それまでは「子ども向けのコンサート」というと、子どもが喜ぶのを大人が見て喜ぶみたいな、そういうコンサートのイメージしかなかったんですよ。でも、トラや帽子店のコンサートは、大人は大人で喜ぶし、子どもは子どもで喜んでいるんですね。子どもは理解できないギャグもバンバン言って、大人がドッと笑ったりしているわけです。「こんな世界があったんだ」ってショックでしたね。それから彼らの大ファンになり、広島に呼んでイベントを主催するようになったんです。


ケロ:初めての主催で800人も集めてくれたんですよ。


ーーすごいですね!


ポン:なんていうか、トラや帽子店は舞台と客席の境がないんです。巻き込まれちゃうっていうか。それも無理やりっていうのではなく、気がついたら一緒になって歌ったり踊ったり、笑ったりしているっていう。見ているのか、参加しているのかわからなくなっているんですよ。普通のコンサートとは全然違いますね。お客さんをすごくいじるし、子どもたちにも毒舌を吐く(笑)。そんなところに中毒性があったように思います。


ーー「ヒューマンソンググループ ザ・わたしたち」とも違いました?


ポン:例えば、「幸せ」について歌うときも、「ヒューマンソンググループ ザ・わたしたち」は直球なんですね。トラや帽子店はもっとふんわりした、例えば「虹がかかった空は綺麗だったね」みたいな表現で、メッセージを込めていくバンドだったんです。どちらのアプローチもいいと思うのですけど、私が好きなのはトラや帽子店のアプローチだったんです。


ーートラや帽子店のときには、今の活動の大まかなコンセプトは確立されていたわけですね。そこにいくまでは試行錯誤はありましたか?


ケロ:ありました。当時の私は、パネルシアター(パネル布を貼ったボードに、絵を貼ったり外したりしながら展開する「動く紙芝居」のようなあそび)専門で、福尾さんはあそびうたを使って1000人ぐらいの人を笑わせられるパフォーマー、中川さんはソングライティングが得意だったので、3人で試行錯誤しながら色々と組み合わせ、演目をブラッシュアップしていきました。当時、『音楽広場』(クレヨンハウス)という保育雑誌に、あそびうたやパネルシアターの連載をしていたんですね。毎月作らなきゃいけなかったから、とりあえずステージで試して、「これはウケたから採用」「これはイマイチだったからボツ」っていう感じで、取捨選択していました。


ーー他に、「トラや帽子店」と同じような活動をしている人たちはいたのですか?


ケロ:人形劇のようなスタイルはありましたけど、わたしたちのような、音楽を取り入れた活動は珍しかったかもしれないですね。もちろん、中世の古楽器を使ったグループ「ロバの音楽座」など、何組かいらっしゃいましたけど、トラやみたいにお客さん参加型バンドっていうのは他になかったかも。とにかく、自分たちが面白いと思ったことを、素直にやっていただけなんですけどね。それが伝わったということでしょうか。


ーー今のような衣装になったのはケロポンズになってから?


ケロ:そうです。トラや帽子店のときも派手な衣装だったんですけど、わたしは「裕子おねえさん」と呼ばれ、キレイなスカートにハイヒールとか履いてました(笑)。ケロポンズでは、どうしても全身タイツが着たかったんですよ。というのも、15年前に「エビカニクス」という曲が出来た時にひらめいちゃったんですよね、「わたしがオレンジのエビで、ポンちゃんは赤いカニがいいな」って。そこから衣装も進化していって、今はこんな感じでやっています(笑)。


■「とにかく自分たちが面白いかどうか」(ケロ)


ーー曲作りはいつもどんなふうに?


ケロ:曲によりけりなんです。ポンちゃんが書いた歌詞にわたしがメロディをつけたり、先にメロディがあって、そこに歌詞をつけたり。あと、タイトルをポンちゃんが考えて、それにわたしが歌詞を書くことも、その逆もあります。アイデアは、例えば「エビカニクス」は『音楽広場』の編集者さんたちと、次号の打ち合わせを食事しながらしていたときに、「なんか、エビ、カニ、エビカニエビカニ、わー!!ってやったら面白くない? エビとカニでエビカニ? エアロビクスとかけて、エビカニクスとかどう? 最高だよね!」なんて、盛り上がっているうちに出来上がりました。


ーーあははは(笑)。「子どもたちが面白がるためには...?」とか、そういうことも考えます?


ケロ:いやもう、とにかく自分たちが面白いかどうかですね。


ポン:振り付けも感覚的なんですよ、「エアロビクスって、こんな動きするよね?」みたいな(笑)。自分たちはダンスのプロじゃないので、あまり難しいこともできないし。それで、4種類くらいのパターンを組み合わせたシンプルな踊りになりました。まあ、飲みの席で半分くらいは出来上がっていたんですけど(笑)。


ケロ:そんな感じだったので、まさかここまで人気が出るとは自分たちでも思っていなかったです。4年前にYouTubeにアップされたのが大きなキッカケだったかな。でも、それは大人からのリアクションが増えただけで、子どもからのリアクションはもっと前からすごくありました。


ーー例えば、オンビートを多用したわかりやすいメロディや、繰り返しのフレーズなどは、子どもが覚えやすくノリやすいように工夫しているのかなと思ったのですが。


ケロ:そうですね。子どもたちはサビから覚えるとか、繰り返しのフレーズが好き、などは大学の卒論でテーマにもしていたので、それが無意識のうちに活かされているのかもしれませんね。


ーー子どもが喜ぶテンポとか、リズムとかあったりするのですか?


ケロ:「エビカニクス」は「このくらいのテンポだよなー」となんとなく感覚で作っているし、子供が喜ぶとかはあんまり...基本、「子供のために!」というのは考えていないんです。自分たちが思い切り楽しめることが一番大切だと思ってやっています。その本気で楽しんでいる様子が子どもたちにも伝わっているということが大きいかもしれないです。


ーー「エビカニクス」はエアロビクス、「チェケマッチョ」はチェケラッチョ、「ふりかけパラパラ」はパラパラダンスと(笑)、ダジャレがたくさん出てきますよね。


ケロ:そうそう。“ことばあそび”ですよね。子どもはダジャレが好きなんですよ。きっと言葉の響きそのものや、一つの言葉に二つの意味があったりすることがおもしろいのかもしれませんね。


ーーじゃあ、「こういうことは、やらないようにしよう」というのはありますか? 例えば下ネタはやらないとか(笑)。


ケロ:あ、確かに下ネタはないかもしれない(笑)。


ポン:あと、保育をやっていたときに、しつけを音楽に使うことがあったんですね。例えば子どもを静かにさせたり、ちゃんと席に座らせたりするための音楽っていうのがあるんですよ。「手はお膝~♪」と歌って、姿勢を正すとか。そういう、子どもを誘導したり、コントロールしたりする音楽は作らないようにしています。


ーーむしろ、ケロポンズの楽曲は逆ですよね。コントロールするのではなく、「開放するための音楽」を目指しているのではないかと。


ケロ:ああ、そうですね。「開放系」です、ケロポンズの音楽は。あははは、面白い!


ポン:実は、「エビカニクス」はニューヨークでレコーディングしているんですよ。


ーーええっ? そうなんですか?


ケロ:テロがあった2011年に。知り合いのミュージシャンがニューヨークにいて、その伝手で。でも、テロもあったし難しいかな...ということを向こうのスタッフに話したら、「何を言ってるんだ!今こそ音楽だよ」「僕らはこっちで生きているんだよ?」って言われて。そりゃそうだよなと思いましたね。ここで中止にするのは悔しいし、覚悟を決めてニューヨークへ行きました。


ーーニューヨークはどうでした?


ケロ:最高に楽しかった! 素晴らしいミュージシャンたちが参加して下さり、サウンドが半端なくて、今聞いてもすごいグルーヴ感。


ポン:まだケロポンズで走り始めたばかりだったのに、すごいお金使っちゃいました(笑)。でも本当に「サイコー!」でした。行ってよかったです。


■「子どもたちには『自己肯定』してほしい」(ポン)


ーー歌を通して、何か子どもたちに伝えたいメッセージはありますか?


ポン:子どもたちには「自己肯定」してほしいです。誰とも比べなくていいし、「そのままでいいんだ」って。


ケロ:ポンちゃんの歌詞は、あったかい歌詞が多いよね。私は「エビカニクス」とか、ナンセンスな“ことばあそび”の曲が多いんですけど。


ポン:あ、あとわたしは食いしん坊だから食べ物の歌が多いんです(笑)。


ーー話は変わりますけど、子どもに全然ウケなくて、「今日は大失敗だった」なんていう日もあるのですか?


ケロ:たくさんありますよ! いつもコンサートのあとは、ギャグの反省ばかりです(笑)。「これはウケたね」とか「これはダメだったね」とか。自分たちでダメ出ししあって。


ポン:ライブって、お客さんやスタッフ(音響、照明など)と一緒に作っていくもので、毎回違うからおもしろいとも言えるし、大変とも言えるし...。


ーー子どもはリアクションが正直でしょうしね...。


ケロ:そうなんです。面白い! と思ったらガーッと食いついてくれますが、面白くないと思ったらあっという間に引いてしまいます(笑)。


ーーフジロックも4年連続で出演しているそうですが、苗場ではどんな空気?


ポン:最初の年はドキドキでしたが、結構すぐに受け入れてもらいましたね。みんな音楽を楽しむために集まっているし、自然の中で開放されているから、すでに仕上がった状態なんですよ。「エビカニだぜ、イエーイ!」って言えば、みんな「イエーイ!」て応えてくれて(笑)。「おお、オトナが踊ってくれてる!」っていう嬉しさがありました。


ーー今後の展望は?


ケロ:先日「エビカニクス」の英語・中国語・スペイン語バージョンの動画を公開しました。まだまだ拙いんですけど、発音の先生に教えてもらいながら歌ったんです。これがまた世界の子どもたちに歌って、踊ってもらえたら嬉しいですね。とにかく、これからも面白いものを作っていきたいし、自分たちでも楽しみたい。「つまらなくなったらすぐにやめようね」って2人で話しているんですよ。今のところ、まだ楽しいから続いています。


ポン:自分たちの作った楽曲も、他の人に歌ってもらったり、踊ってもらえたりするようになってもいいなぁ。


ケロ:エネルギーが若い頃と比べると減ってきたっていうのはあるけど、その中で進化していきたいですね。だって、金さん銀さんだってあんなにお元気だったわけだから!


ポン:ええっ、そこ? そこを目指してるの??


(一同笑)