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メレンゲ クボケンジがクラウドファンディングを選択した理由「歌モノのシーンを衰退させたくない」

2016年08月04日 20:21  リアルサウンド

リアルサウンド

メレンゲ クボケンジ(写真=池田真理)

 瑞々しいメロディと、文学的な歌詞により人気を集める2人組ギターロック・バンド、メレンゲのクボケンジ(ヴォーカル&ギター)が、自身のレーベル「BoGen Records」を立ち上げ、ソロ名義の音源をリリースすべくクラウドファンディングに挑戦している。おととし10月に通算4枚目のフルアルバム『CAMPFIRE』をリリースしたメレンゲは、翌年ツアーを敢行。その直後にヤマザキタケシ(ドラムス)が脱退し、現在は元GOING UNDER GROUNDの河野丈洋をサポートドラムに迎え、クボとタケシタツヨシ(ベース)の2人体制となった。そんな中、彼の一連の動きはどのような心境によるものなのだろうか。


 クラウドファンディングといえば、ここ最近は音速ラインやAwesome City Club、マイカ・ルブテといった若手ミュージシャンも利用し、かなり認知されてきてはいる。が、まだまだ偏見も多く二の足を踏んでいるミュージシャンも少なくない。そこで今回、クボにクラウドファンディングのメリットや醍醐味などを聞いてみた。(黒田隆憲)


(関連:Awesome City Club×CAMPFIRE家入一真対談 バンドとネットの関係はどこに向かう?


・本当に作りたいものを、作りたいタイミングで出したい


ーーまずは、クボさんが自主レーベルを立ちあげ、クラウドファンディングを始めるに至った経緯を教えてください。

クボケンジ(以下、クボ):今から1年半ほど前に、移籍後初のフルアルバム「CAMPFIRE」をリリースして、その翌年にはツアーを行なったんです。その頃はバンドとしても盛り上がってはいたんですけど、ドラムのヤマザキタケシが急に脱退することになって。

ーーその理由は?

クボ:13年やってきて、自分の世界観とか音楽性も変化してきて、ちょっとずつお互いにズレが生じ始めたという感じかな。だから、何か強烈なトピックがあって喧嘩別れしたとか、そういうことでもないんですよ。最初は僕が口火を切って、ちょっと険悪なムードが続き、落ち着いたところで話し合いをした結果、という感じでした。

ーーそうだったんですね。

クボ:で、「どうしよう?」ってなって。それとは別に、去年あたりからクリスマスソングを作ってみたいなって思っていたんですよ。僕、今まで「桜ソング」とか「卒業ソング」みたいな、行事ごとを歌った曲なんて作ったことがなくて(笑)。どちらかといえば、したくないタイプだったのに。

ーーそれがまたどうしてクリスマスソングを?

クボ:なんか、街のイルミネーションをはじめ浮かれている感じとか見ているうちに、「美しいものだなあ」と思うようになって。これで1曲作れそうだなと。それでデモを作ってみたら、バンドでやるよりもソロでやった方がいいのかもしれないと思い始めて。それで、ソロ名義でリリースしてみることにしました。。

ーー自分たちでレーベルを立ち上げようと思った理由は?

クボ:僕らも移籍もしたし、長くメジャーでもやらせてもらってきて、でもそれは楽しいことばかりではなくて、色々縛りもあったりして。10数年そういうところに在籍して作ってきたので、本当に作りたいものを、作りたいタイミングで出せたらなっていう思いがあったんです。そのぶん、責任とかも自分で被りたいなと。


ーー例えば、昨年はART-SCHOOLの木下理樹くんがWarszawaを立ち上げたり、THE NOVEMBERSの小林裕介さんはMERZを運営していたり、そういう同世代のミュージシャンからの影響もありますか?

クボ:それも少しはあります。リッキーとはよく酒を飲みながら話すんですけど、彼に限らず内情は結構厳しいんですよね。おそらくリスナーは「自由度が高い」と思われるかもしれないですけど、本音で話してみると大変なことの方が多くて。音楽が細分化されているから、一つのバンドに人がたくさん集まるっていうことじゃなくなっているので。それぞれが自立して回していくというのはすごく大変なんです。レコーディングってすごいお金がかかるんですよ。例えば1000円のシングルを1000枚売ったとして、100万円にしかならない。

ーーそこからスタジオ代や人件費、その他諸々を引いていくと....。

クボ:メンバーに入ってくるお金は微々たるものです。今、たとえ話で1000枚と言いましたけど、それってすごく多い方なんですよ。でもそれくらいにしかならない。じゃあ、それ以内の予算でレコーディングしようと思ったら、物理的に無理なんです。家で作ったデモを、メールで配るくらいの感じじゃないと(笑)。

ーーマーチャンダイジングを含め、音源以外の売り上げを考えないといけないわけですよね。レーベルの、今後の展望についてはどのように考えていますか?

クボ:今は目の前のことをやるしかないですが、ソロもメレンゲも来年、再来年と続けていきたいです。今、真っ当な歌モノが苦戦気味というか、ちょっとギミックがあったりする音楽の方が受け入れられているじゃないですか。僕はずっと「ギターロック」というスタイルでやってきて、やはり歌詞とメロディがすごく大事なんですよ。なので、同じように歌を大事にしているバンドを見つけて、育てていけたらいいなとも思っています。

ーーとにかく、まずはクリスマスソングを「すぐにでも出したい」という気持ちが強くあるわけですね。

クボ:クリスマスソングって「魔法」が数週間しかないんですよ。年が明けたらそれで終わりっていう。なので「作りたい」と思っても、時期が伸びるとさらに1年後のプランニングになってしまう。そうすると、そのとき自分のテンションがどんな状態か分からないじゃないですか。普通の曲だったら、もしかしたらもう少し時間をかけて根回ししていたかもしれないですね。

ーー逆に言えば、「クリスマスソングを作りたい」って思いがあったからこそ、クボさんは大きく動けたのかもしれないですよね。

クボ:そうですね、それは確かにそう思います。


・ファンの方に、「自由にやっているクボさんを見てみたい」と言ってもらえた


ーーそれで、今回の制作費をクラウドファンディングで募ったわけですが、CAMPFIREを選んだ理由は?

クボ:僕らのアルバムタイトルと同じ名前だったから(笑)。どこにしようかと思ってネットで探していたら、ここを見つけて「面白いな」と思ったのが一番の理由です。あと、あと、音楽に特化しているところよりも、そうじゃないところのほうが今後の展開として、いろいろ可能性があるのかなと。単にCDをリリースするだけじゃなくて、今回レーベルの立ち上げも同時だったし。

ーー7月18日現在、残り44日を残してすでに191%超達成しています。この数字に対して率直にどんな感想を?

クボ:達成金額に届いたことに関しては、ものすごく感謝の気持ちでいっぱいです。あとは、どこまで多くの人に賛同してもらえるかだと思うので、そこが気になりますね。

ーークボさんにとって、クラウドファンディングの一番の魅力は?

クボ:「やれなかったことがやれる」っていうことですかね。僕自身、高い楽器とかすぐに買っちゃう癖があるんですよ(笑)。例えば50万のデジタル機材だとか、ビンテージのギターだとか、「いつか買いたいんだよね」みたいにミュージシャン同士で話したりするじゃないですか。でも、「いつか買うつもりなら、今借金してでも買ったほうがいいでしょ? 」っていうのが僕の考え方なんですよ。だって、今必要なんだから。クラウドファンディングも、要するに「今、やりたいこと」を実現させるための予算を、もちろん賛同者がいればですが、集めることができるっていうのはとても魅力的ですよね。

ーー実際に始めるにあたって、何か準備はしました?

クボ:僕は思い立ったらすぐ行動というタイプなので、実はそんなに準備もしていないんです。それに、「写真は何が必要か」だとか、ある程度こまかいことは始めてから考えないと無理だよなと。なぜならクリスマスソングだから、9月にスタートさせたんじゃ全然間に合わない。今からでもギリギリなんですね。とりあえず登録して、必要なものを少しずつ揃えていった感じです。そもそも締め切りがないと、曲を作らないタイプなので(笑)。

ーー逆に準備周到に進めていたら、不安要素が色々出てきて動けなくなっていたかもしれないですよね。

クボ:あ、それもあります(笑)。ただ、ステイトメントの文面は誠実でありたいと思ったので、あれは時間をかけて考えましたね。自分が置かれている現状を、正直に書こうと。それも、あまり重すぎず軽すぎず。思いが強すぎても暑苦しいじゃないですか(笑)。何度も読み直し、書き直してからアップしました。

ーークラウドファンディングの面白い点は、賛同者がどんな人たちなのかが可視化されるところだと思います。どれくらいの熱量を持って応援してくれているのか、リターンの内容は、どういうものが喜ばれるのかなど、一目でわかる。もちろん、出資額とファンの熱量がイコールとはいいませんが、ある意味ではマーケティングになるし、活動のモチベーションにもつながるのでは。

クボ:そうですね。今おっしゃったように金額ではないんですけど、「必要としてくれている方がこれだけいるんだ」というのがわかったのは嬉しいですね。励みにもなるし、責任も感じるし、そういう人たちを裏切れないなっていう気持ちがより強くなりました。今までライブハウスとかだと、どのくらいの年齢層の人が、どれだけ来てくれて...っていうのは、ライブが始まるまでわからないわけじゃないですか。売れ行きの動向なども、当日まで分からない。でもクラウドファンディングは、出資の状況がリアルタイムでわかるから、この1週間はずっとドキドキしながら見ていましたね(笑)。

ーーSNSでの反応など、どんな感じでした?

クボ:概ね好評で、「頑張って」っていう前向きな応援リプライが多かったですね。僕の予想では賛否両方あって、けっこう厳しいことを言われることもあるのかなと思ったんですけど。メジャーでやっていたときに感じていた自分のジレンマとか、リリースするタイミングでは言えない愚痴とか(笑)、そういうものもあるという事情をわかってくれたファンの方に、「自由にやっているクボさんを見てみたい」と言ってもらえたんですよね。それは、こういうことをやってみないと聞こえてこなかった声だなと。

・歌モノのシーンを衰退させたくない。使命のようなものですね(笑)


ーークラウドファンディングの今後の可能性に関しては?

クボ:おそらく、これからもっと増えると思うんですよ。だって、今は音源を作るということにものすごくエネルギーがいるし、多くのバンドが普通に計算してほとんど回せていない状況ですからね。もちろん、経費をものすごく削減したり、いろんなところに頭を下げてお願いしたりすれば、できなくはないですけど。クラウドファンディングで資金を集めることができれば、少し安心して音楽制作に打ち込めるんじゃないかと。

ーーよく言われていることですが、もともと芸術っていうのはパトロンにお金を出資してもらって、それで作品を作っていたわけですからね。本来の形ではあるのかなと思います。海外では当たり前の状況になってきて、今後日本ではどうなっていくのかが注目されるところですよね。

クボ:そうですね。まだちょっと、閉鎖的な目で見られているのかもしれないですね。様子見しているバンドとか。

ーーAwesome City Clubや音速ライン、マイカ・ルブテなど、最近は徐々に若手のミュージシャンも活用するようになってきました。そうするとまた、色んなシーンが生まれてくるのかなと。せっかくこういう形で集めた資金なのですから、既製品ではできないようなユニークな作品を作ってくれたら嬉しいです。

クボ:どこまでできるかわからないですけど、今回は自分が好きな人と一緒にやりたいですね。今は、デザイナーさんと色々打ち合わせをしているところです。「せっかく自由にやれるなら、こういうことをしたいね」なんて、アイデアを出し合っています。

ーー例えばクラムボンは、新作『モメントe.p.』を販売してくれるお店を募集し、全国の雑貨屋さんやカフェ、アパレルショップなどで委託販売をおこなっています。これって、一つ先の形態だなと思うんですよね。大きな流通会社は通していないけど、結果的に全国展開が出来ている。そういうことは考えていますか?

クボ:そうですね、販売形態についても今は色々考えているところです。僕たちだけの力で、どこまで出来るかわからないけど。

ーーきっと、こうして一歩踏み出したことで、また見える景色も変わってきて、さらなる新しい展開につながっていくでしょうね。

クボ:そう思います。やはりミュージシャンとしては、いくらライブが大事とはいえ音源は作りたいんですよ。それをどう届けるかはきっとどんどん変わっていくでしょうね。もはやCDデッキを持っていない人もいるわけですし。ツールにはこだわっちゃいけないのかなと。

ーー今日はクボさんと前向きなお話がたくさんできてよかったです。今後の展望を最後に聞かせてもらえますか?

クボ:今回はソロプロジェクトなんですけど、だからといってメレンゲの活動をしないというわけでは決してなくて。ステイトメントにも書きましたが、メレンゲを続けたいがためのプロジェクトでもあるんですね。とにかく来年は15周年ですし、何か大きなことはしたいとスタッフやメンバーとも話しています。今回のプロジェクトがうまくいけば、メレンゲにもつなげていけるだろうし、さっき言ったように、自分のレーベルで後進を育てたいという気持ちもあります。とにかく、歌モノのシーンを衰退させたくない。これはもう、使命のようなものですね(笑)。(取材・文=黒田隆憲)