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sora tob sakanaはアイドルとバンドの垣根を越えた――ハイスイノナサ、plenty、ダルジャブなど、実力派プレイヤー参加の1stALを分析

2016年08月04日 14:51  リアルサウンド

リアルサウンド

sora tob sakana『sora tob sakana』

 「アイドル戦国時代」が常態化し、「地下アイドル」という言葉も一般層にまで浸透した今、どんな奇抜なアイドルが現れようとも驚くことは滅多になくなった。しかし、平均年齢14歳の4人組sora tob sakanaが7月26日に発表したセルフタイトルのファーストアルバム『sora tob sakana』は、その音楽性の高さに加え、何よりプレイヤー魂に火が点けられるという点で、非常に稀有な作品だと言っていいだろう。


 プロデュースを手掛けるのはハイスイノナサ(以下、ハイスイ)のメンバーであり、今年Annabelや元School Food Punishmentの蓮尾理之らと共に新バンドSiraphを結成した照井順政。ハイスイはポストロック、エレクトロニカ、現代音楽などを背景とする折衷的な音楽性が、ファンのみならず、ミュージシャンからも高い評価を集めるバンドだが、sora tob sakanaは「歌もの」であり「お客さんと一緒になって盛り上がれる」というアイドルソングの要件を満たした上で、ハイスイ同様にクオリティの高い作品を目指している。


 実際に、『sora tob sakana』に収録されている楽曲では照井自身がギターとプログラミングを担当し、さらにはベースに実兄である照井淳政、キーボードに森谷一貴と、ハイスイのメンバーが顔を揃え、さらにはパーカッションとしてハイスイのサポートメンバーでもある佐藤香が参加。照井は持ち味であるミニマルなフレージングの他、「Moon Swimming Weekender」でのテクニカルなリフなど、ハイスイ後期では控えめだったアグレッシブなプレイを随所で披露し、彼のエモーショナルなロック魂がsora tob sakanaの刹那的な焦燥感を生み出して、少女たちの儚さをより引き立てていると言えよう。


 さらに注目なのが、照井の盟友とも言うべき4人のドラマーの参加。まずは14曲中9曲でプレイし、メインドラマーを務めているのがaquarifaのリンタロウである。エモ~ポストロックの系譜に位置するバンドのドラマーらしく、前述の「Moon Swimming Weekender」や、ファーストシングルの「夜空を全部」、「クラウチングスタート」など、疾走感のある楽曲でのプレイが光る。そして、残りの3人はそれぞれ1曲ずつに参加していて、「夏の扉」でドラマーを務めるのはplentyの中村一太。彼はかつてthe cabsに所属し、照井とはレーベルメイトだったが、ハードコア譲りの爆発的なプレイを聴かせるイントロは、まさにthe cabs時代を彷彿とさせるもの。2000年代の末から2010年代のアタマにかけて、ポストロックのさらに先を提示したバンドの共演はグッと来るものがある。


 一方、「広告の街」にはDALLJUB STEP CLUB(以下、ダルジャブ)やあらかじめ決められた恋人たちへで活躍するGOTOが参加。ダルジャブではジュークやダブステップを生演奏し、その独創的なプレイスタイルが話題を呼んでいるGOTOだが、ここでも自らの持ち曲である「Future Step」に通じるイントロのトリッキーなキメから個性を発揮し、sora tob sakanaのダンサブルな側面に貢献している。さらに、ダルジャブのメンバーでもあり、自身のプロジェクトWOZNIAKでは独自のミニマルミュージックを追求する星雄太が「Summer Plan」に参加し、シンセをフィーチャーしたエレクトロニックな質感の楽曲に、シャープなプレイを提供しているのも見逃せない。


 現在YouTubeには「夜空を全部」と「広告の街」のバンドによる演奏動画がアップされていて、ここではアルバムの参加メンバーに加え、キーボードに元ハイスイノナサの鎌野愛、ギターにaquarifaの松川真也が参加し、計6人のプレイヤーによって、楽曲に新たな命が吹き込まれている。バンドマンがアイドルに楽曲を提供すること自体はもはや珍しくないが、ここまでがっぷり四つに楽曲と向き合い、自らのプレイヤビリティを投入している例はあまりないはず。これはアイドルという枠も、バンドという枠も超えて、シンプルに「質の高い音楽を目指す」という姿勢の表れであり、だからこそ、『sora tob sakana』は幅広いリスナーに聴かれるべき作品だと思うのだ。(金子厚武)