F1ドイツGP初日、ジェンソン・バトンは午後のフリー走行のロングラン中、目に違和感を覚えて緊急ピットインした。その後、メディカルセンターで左目に異物が入っていることが判明したため、大事をとってサーキットから約20km離れたマンハイム市内の病院へ行き、異物を取り除くとともに、目を洗浄し、事なきを得た。
チームは「ブレーキのカーボンの破片が入り込んだのではないか」としている。しかし走行中はヘルメットをかぶっていたのに、どのようにしてバトンの目に入り込んだのだろうか。
現在F1で最大シェアを誇る、アライヘルメットの現地サービスマンを務めるピーター・バーガーによれば「バイザーを閉じた状態で、ブレーキのカーボンの破片が入り込むことは考えられない」という。
バイザーとヘルメットのシェルの間には隙間があるように見えるが、その奥にバイザーとの隙間を埋める役割を果たすクッション性のあるストッパーが開口部分を覆っているため、密閉性は想像以上に高い。
しかし、ベルのサービスマンは「バイザーとヘルメットの密着性に問題があったのではないか」と指摘する。ただし、それは「アライ製では考えられない」とバーガーは自信を持っている。
もうひとつ考えられるのは、ドライバーが意図的にバイザーを開けていた可能性だ。ニコ・ロズベルグは今年のヨーロッパGPから、ヘルメットをシューベルト製からベル製に変えた。理由はベルのサービスマン、ミシェル・オメントによれば「ウエットコンディションになるとバイザー内が曇るから」だったという。1分間で約150回の心拍数で運転しているドライバーたちは口から大量の息を吐き、ヘルメット内はドライコンディションでも湿度が高くなり、曇りやすい。そのため走行中にバイザーを少しだけ開けるドライバーもいるという。ただしバーガーは「ジェンソンは、そういうことをするタイプではない」という。
そうなると、バイザーを閉じる前に異物がヘルメット内に混入していたのではないかという説が浮上してくる。
フリー走行2回目で、バトンはロングランを開始する前にソフトタイヤでのショートランと、スーパーソフトタイヤでの予選用アタックランを繰り返していた。その間、何度かピットインもしている。ドイツGPは気温が高く、ピットインしたドライバーはガレージに戻されてコクピットに座ったままバイザーを開ける。そのときカーボンブレーキの破片が付着したレーシンググローブで、汗を拭おうと目の当たりをこすり、ヘルメット内にカーボンブレーキの破片が残ったのではないかという説だ。
バーガーは最後に、もうひとつの可能性を指摘した。それは、マクラーレンのコクピットが熱かったことだ。フリー走行2回目でバトンは「コクピットが熱い」と無線で訴えていた。そのため、ふだんはバイザーを開けないバトンが、バイザーを開けてしまったとも推測できる。
土曜日以降、バトンの目に異物が入るという症状が再発することはなかった。基本的にヘルメットとバイザーには問題はなかったことは、はっきりしている。