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「CGはもっといろんな物語を表現できる」『ジャングル・ブック』監督が語る映画とテクノロジー

2016年08月03日 11:21  リアルサウンド

リアルサウンド

ジョン・ファヴロー監督

 ディズニー・スタジオが手がけるエンターテイメント巨編『ジャングル・ブック』が、8月11日より公開される。『ジャングル・ブック』は、英国の作家・詩人ラドヤード・キップリングが1894年に出版した短編小説集が原作で、1967年にはウォルト・ディズニーの遺作としてアニメーション化された。約50年の時を経て再び映画化された本作は、最新のCG技術を駆使し、すべての動物とジャングルの景色を再現している。監督を務めたのは、『アイアンマン』や『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』などで知られるジョン・ファヴロー氏。リアルサウンド映画部では、ジョン監督にインタビュー取材を実施。CGが映画にもたらす可能性や、その方法論について話を聞いた。


■「どこかでCGを信用していなかった」


ーー監督が手がける作品は、アクションからコメディまで多岐にわたっています。作品選びはどういった基準で行なっているのでしょう。


ジョン・ファヴロー(以下、ジョン):その作品に対して自分が夢中になれるか、ワクワクして興奮できるかが、監督するうえでは一番重要だね。とくに『ジャングル・ブック』のような、自分から原案を出していない作品の場合は、きちんと情熱を保ち続けることができるか否かは大切なポイントだよ。『シェフ』の場合はアイデアが湧いてきて自分で脚本も書いたから、自然と熱心に取り組むことができたけれど、そうではない場合こそ、全身全霊を注げるものではないとやりきることはできないと思う。私の場合、俳優をやるときや観客として作品を観るときは、そこまで情熱がなくても楽しむことができるし、学ぶこともあるのだけれど、監督を務めるとなると話は別だね。かなり長い期間に渡って、その作品に向き合い続けることになるわけだから。その点、『ジャングル・ブック』は本当にエキサイティングな作品だったから、最後まで真剣にやりきることができたよ。


ーーインディペンデント系の作品と比べて、今回の『ジャングル・ブック』のような規模の大きな作品は、監督の自由度が低かったりするのでは?


ジョン:監督としての自由度は、作品の規模の大小と必ずしも比例するものじゃないんだ。大きいから不自由、小さいから自由ということはなくて、たとえば小規模の作品でも制約の多い現場はたくさんある。テレビコマーシャルなどはまさにそうで、ごく短い映像だけれど、細かいところまで決められている。テレビシリーズの監督も、すでに決まっているレールがあったりするから、あまり自由ではないね。でも、『ジャングル・ブック』の場合は、技術的な面であまりにも複雑で、まるで巨大なパズルのようなものだったから、誰かが変に意見を言えるものではなかった。もちろん歴史のあるディズニー作品だから、無責任なことはできないし、守らなければいけないものもあるけれど、ディズニー側としても私に新たな息吹を吹き込んでほしいとの意向があったので、すごく自由にやらせてもらえたよ。『シェフ』はもっと小さな規模の作品で、完全に自分が制御できる状態で、脚本はもちろんキャスティングや編集も自由だったけれど、時間に制約があった。ただ、自分のクリエイティヴィティを存分に発揮することができて、その経験は今回の仕事でも活かすことができたと考えている。


ーー本作では非常にリアルな動物たちはもちろん、ジャングルの景観もすべてCGで制作していますが、一方で主人公の少年モーグリは、12歳のニール・セシが演じています。なぜ彼だけCGではないのですか?


ジョン:意外に思うかもしれないけれど、私はこれまでどこかでCGを信用していないところがあって、使うことに抵抗があったんだ。なぜなら、CGが持っている能力以上のことはできないからね。正しい使い方であれば、使っても良いかな、という考え方で。でも、『アイアンマン』を手掛けたときに、メタルや光沢のある質感は非常にうまく表現出来ることがわかって、さらに『アバター』や『猿の惑星: 新世紀』といった作品を観て、動物や毛皮の質感もかなり美しく再現できることがわかったんだ。ただ、人間の顔の表情となると、いわゆる不気味の谷現象(ロボットなどの外観や動作が、より人間らしく作られるようになるにつれ好感的になるが、ある時点で突然強い嫌悪感に変わる現象)を越えるのは、現時点では困難であると考えた。技術が発展すれば、ゆくゆくは不気味の谷を越えることも可能だと思うけれど、『アバター』のスタッフに人間の表情を作るのは本当に大変だと聞いていたので、今回は生身の少年に演じてもらったよ。結果として、彼が演じたからこそ説得力のある物語として、感情を伝えられる作品になったと捉えている。


ーーでは、『ライオン・キング』のように動物だけが出てくる作品であれば、現時点の技術でも観客が感情移入できる表現が可能であると?


ジョン:いまならできるはずだよ。なぜなら、『ジャングル・ブック』を作ったからね(笑)。多くの方があまり理解していないところなんだけど、本作に登場する動物たちがリアルなのは、毛並みや照明がよくできているから、というだけではないんだ。この作品の景色はすべてデジタルで、ビデオカメラの機能もまた、コンピューターの中にあるのだけれど、私たちが通常、物理的に撮影するときのようなカメラワークしか使っていないのがポイントで、観客は潜在的に“本当に撮影した映像”だと錯覚するように作っている。表情の演技や登場人物たちの感情を、リアルなカメラワークで撮ったことが、彼らを生きた存在に見せているんだ。逆に、撮影方法に制約を設けなければ、ビデオゲームのような映像になってしまっていただろうね。


■「フィルムメイカーは常に交流があり、お互いを応援しあっている」


ーーたとえばクリストファー・ノーラン監督などは、あえてCGを使わずにアクションシーンやメカニックを撮影する手法を採っています。そういった手法や作風に対し、ご自身の方法論をどのように位置付けていますか?


ジョン:クリストファー・ノーラン監督の手法はすごく良いし、とても尊敬している。同じように、いまなおフィルム撮影にこだわる監督がいるのも、すごく良いことだ。J・J・エイブラムス監督は『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を、パペットを使用するなど昔ながらの手法で作り上げて、私たちが愛してやまなかった『スター・ウォーズ』シリーズのスピリットを伝えてくれた。ジョージ・ルーカスは当時、最先端の技術を結集して『スター・ウォーズ』シリーズを私たちに届けてくれたけれど、それを伝統として受け継ぎ、新たな作品を生み出すというのは、素晴らしいことだと思う。一方で、フィルムメイカーとして常に新しい技術に挑戦し、それらを駆使して作品を作り上げる姿勢も、もちろん尊いものだ。3Dやモーションキャプチャといった新たな技術を採り入れているジェームズ・キャメロン監督とかね。私自身が、なんらかの形で映画に貢献するのであれば、CG技術をより幅広い作品に応用したいと考えているよ。現在は、CGはとくにアクション映画などに使われているけれど、そのことが映画の幅を狭めているともいえる。CGを使った作品はどれも同じようなものばかりになりがちだ。だからこそ私は、CGを有効に使えるのは、アクションやSFばかりではないということを皆さんに知ってほしい。もっといろんな物語が表現できるはずだよ。ちなみに、私たちフィルムメイカーは常に交流があり、お互いを応援しあっている。彼らがそれぞれの手法を追求しているからこそ、私も自分のやるべきことがわかるんだ。


ーーお互いの仕事に影響を受けあっているのですね。ところで本作は、“生きる力”が大きなテーマとなっています。監督にとっての“生きる力”とは?


ジョン:私はいま50歳になるところで、子供が三人いて、フィルムメイカーとして友人たちとともに歩んでいる。このことが、私の人生にあらゆるものを与えてくれる。『シェフ』を撮ったときに学んだんだけれど、料理人たちは自分の仕事にとにかく集中して、気持ちを注いで、卓越したことを行っているんだ。自分の仕事に誇りを持ち、並ならぬ思いを持って働いていて、それはとても良い人生の暗喩になるんじゃないかな。シェフが自らの仕事に専心して作り上げた料理は、食べた人の記憶に残る。食べた瞬間はすぐに消えてしまうものだけれど、その経験は食事を楽しんだ人の思い出としてずっと残っていく。そして、そういう経験が積み重なることで、人生は豊かになっていく。たとえば、息子と始めてお寿司を食べた時の記憶を、私は決して忘れないだろう。私自身も、そういった“経験”を皆さんに提供するために、自分の仕事に集中したいと考えているよ。(松田広宣)