2016年08月03日 10:12 弁護士ドットコム
酢入りのスプレーをかけて、カバンを奪っても、強盗罪にはあたらないーー。奈良地裁五條支部でこんな判決が出て、話題になった。
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7月16日の産経WESTの報道によると、50代の被告人は、男性銀行員に酢を混ぜた水をスプレーでかけ、現金150万円入りのボストンバッグを奪った。
判決で、銀行員が、スプレーをかけられた後もバッグを取り戻そうとしていることなどから、「被害者の犯行を抑圧するに足りる暴行」ではないと指摘。暴行と窃盗罪にあたるとした。被告人には懲役3年、執行猶予5年が言い渡された。
この判決に対して、ネットでは「暴行が認められてるのに強盗じゃないという謎理論」「抵抗すると強盗じゃなくなるのか」「硫酸かけられても被害者がひるまなかったら窃盗なのかよ」など、疑問の声があがっている。
なぜ今回、強盗罪にはあたらないとされたのか。また、強盗と認められるためには、何が必要なのだろうか。東山俊弁護士に聞いた。
そもそも強盗罪とは、どのような犯罪なのか。
「強盗罪とは、暴行又は脅迫を用いて他人の財物を奪う犯罪です」
どのような暴力でも、強盗罪になるのか。
「いいえ、強盗罪の『暴行』にあたるためには、『反抗抑圧程度』の暴力であることが必要です。反抗抑圧程度の暴力というのは、必ずしも反抗できないというほどの暴力ではありませんが、犯人による反撃等を考えると、通常は抵抗することが考えられないような暴力のことです。
このような程度に達しない暴力は、強盗罪の『暴行』にはあたりません。
今回の件では、酢を混ぜた水をスプレーでかけたようですが、酢を混ぜた水をかける行為は、不快感は与えますが、恐怖を与えるようなものではありませんので、裁判所は、『暴行』にあたらないと判断したと思われます」
被害者が抵抗をすれば、強盗にはならないのか。
「いいえ、反抗抑圧程度かどうかは、そのような状況に置かれた場合に一般の人がどのように感じるのかを基準にします。
そのため、仮に被害者が犯人に抵抗したとしても、通常は抵抗をすることが考えられないような場合には、反抗抑圧程度とされます。例えば、刃物を突きつけられたが、素手で抵抗して犯人を撃退したような場合にも、強盗罪となります。
ただし、反抗抑圧程度かどうかを判断する際には、被害者がどのように考えたのかも判断の材料となります。今回のケースでも、裁判所は、そのような考え方を前提に、銀行員が抵抗する気持ちを失わなかったことを、反抗抑圧程度に至らなかった根拠としていると考えられます」
ちなみに、スプレーの中身が濃硫酸など、危険な液体の場合にはどうなるのか。
「通常の人は抵抗しないでしょうから、反抗抑圧程度にあたります。
また、酢を混ぜた水を入れたスプレーを手に持って、『硫酸だぞ』と言った場合も、通常の人は強い恐怖を感じるでしょうから、反抗抑圧程度にあたるでしょう」
東山弁護士はこのように話していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
東山 俊(ひがしやま・しゅん)弁護士
東山法律事務所所長。大阪弁護士会所属。家事事件はもちろん、一般民事事件や刑事事件も幅広く取り扱っている。
事務所名:東山法律事務所
事務所URL:http://www.higashiyama-law.com/