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GP topic:ホンダの次回アップデートに、マクラーレンから猛プレッシャー

2016年08月02日 17:21  AUTOSPORT web

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ドイツGP決勝ではタイヤとともに燃費にも苦しんだフェルナンド・アロンソ
F1ドイツGPの決勝レース後、長谷川祐介ホンダF1総責任者の会見場へ行ったが、予定されていた時間を過ぎても主役が現れない。広報がモーターホーム内を探し回っていると、今度はエリック・ブーリエ(マクラーレン・レーシングディレクター)が「ハセガワサンは、どこにいる?」と尋ねてきた。実は、このとき長谷川氏はロン・デニス(マクラーレン・テクノロジー・グループCEO)に呼ばれて、緊急会談を行っていたのである。

 この日、長谷川氏はレース直後にサーキットを離れる予定となっていたのだが、それを知りながら、デニスが急きょ呼び出したのは、どうしても確認しておきたいことがあったからだ。それはトークンを使用してアップデートしたエンジンが、いつ投入されるかということだった。

 ドイツGPの決勝レースで、ホンダのパワーユニットは燃費に苦しんでいた。現在のパワーユニット規定ではレースで使用できる燃料が100kgまでと決まっているため、燃焼効率が大切になってくる。エンジン本体の馬力が上がれば、それだけ燃料を消費するため、燃焼効率を上げなければ「馬力がアップした」とは言えない。「まだ昨年のフェラーリ(パワーユニット)を抜いたと、はっきり言えるレベルにはないと思っている」(長谷川総責任者)というホンダが、パワー感度が高いホッケンハイムで燃費にも苦労することは自明の理だった。

 それでも実際レースで燃料が足りなくなったために、ペースを落とすしかなかったフェルナンド・アロンソが、フォース・インディアのペレスに抜かれてポイント圏外に脱落する姿を見てしまうと、デニスも黙ってはいられなかったのだろう。長谷川総責任者を呼び出して「いったい燃費はどうなっている」と、問い詰めたのだ。

 ドイツGPでは、ドライバーも長谷川総責任者に「新しいエンジンは、どうなっている?」と聞いてきたという。「できるだけ早く投入したい」と言うと、ドライバーたちは「わかった。じゃあ、入れるんだな」と早合点してしまったらしい。

 ドイツGPの週末、木曜日にはジェンソン・バトンが、そしてレース後にはアロンソが、いずれも「ホンダはスパで新しいエンジンを投入する」という旨のコメントを発している。しかし長谷川総責任者は「みなさん(メディア)にお話している内容と同じことしか、チームにも言っていません」と、ベルギーGPで新エンジンの投入をチーム関係者に内約したことを否定している。

 ただし長谷川総責任者はベルギーGPに新エンジンを投入することを否定しているわけではない。むしろ誰よりも、できる限り早く新エンジンを投入したいと考えている。「新しいエンジンができれば、すぐにでも入れたい。(そうなれば)もう、このエンジンは使うつもりはない」と話している。

 ベルギーGPでの投入が話題になる理由は、ふたつある。ひとつはスパ・フランコルシャンには長いストレートがあり、エンジンそのものの性能が問われるから。もうひとつは、年間5基というパワーユニットのやりくりがあるからだ。

 ドイツGPでアロンソが使用したICEは6レース目だった。21戦を年間5基でまかなうため、今年のパワーユニットは1基で5レース走ることを目標に耐久性を確立している。つまり、6レース走ったアロンソの4基目のパワーユニットが、今後レースで使用されることは考えにくい。つまり、アロンソはベルギーGPで新しいエンジンを投入することになる。

 もし、トークンを使用した新エンジンがベルギーGPまでに間に合わないと、アロンソがベルギーで投入する5基目の新エンジンは従来の燃費に問題を抱えた仕様となる。アップグレードを投入する前に、ベルギーで5基目のカードを切ってしまうと、イタリアGP以降にアップグレードの投入が決まったときは6基目以上のエンジンを使用することになり、ペナルティを受けることになる。だからこそ、チームもホンダもベルギーGPでアップデートしたエンジンを入れたい。そして、そのことをパドックにいる誰よりも痛感しているのは、長谷川総責任者だ。
 
「出せるものなら、すぐにでも出したい」
 
 長谷川総責任者はドイツGPが終了したその日のうちに、日本へ帰った。向かった先が、HRDさくら研究所だったのは言うまでもない。