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WANIMAはシーンのど真ん中に躍り出たーー8月3日発売の注目新譜5選

2016年08月02日 13:01  リアルサウンド

リアルサウンド

WANIMA『JUICE UP!!』

 その週のリリース作品の中から、押さえておきたい新譜をご紹介する連載「本日、フラゲ日!」。8月3日リリースからは、GLAY、WANIMA、HOWL BE QUIET、サニーデイ・サービス、吉澤嘉代子をピックアップ。ライターの森朋之氏が、それぞれの特徴とともに、楽曲の聴きどころを解説します。(編集部)


(関連:GLAYによる“CDシングル”への問題提起 『G4』シリーズの先見性とは何か?


■GLAY『[DEATHTOPIA]』(SG)


 約7年8カ月ぶりに(!)オリコンチャート1位を獲得した『G4・IV』に続く2016年2弾シングルは、アニメ『クロムクロ』(TOKYO MXほか)の第1期・第2期のオープニングテーマ「デストピア」「超音速デスティニー」による両A面。どちらもHISASHIが作詞作曲を担当していて、「デストピア」は高速のビートととともにメンバー全員のフレーズがアグレッシブに絡み合うロックナンバー、「超音速デスティニー」はエキゾチックなギターリフ、メタリックなサウンド、緊張感に溢れたメロディがひとつになったアッパーチューン。アニメソングにも造詣が深いHISASHIの楽曲により“GLAY×アニソン”というテーマを高い精度で実現している。


 さらに「JUSTICE【from】GUILTY」「微熱(A)girlサマー」といったHISASHI作曲による楽曲のライブ音源6曲が収録され、まさにHISASHIオリエンテッドなシングルに仕上がっている。ひとりのメンバーにここまでフォーカスを絞ってもバンド内のバランスが崩れないのも、GLAYならでは。他のメンバーに焦点を当てたシングルも聴いてみたい。


■WANIMA『JUICE UP!!』(SG)


 フジロック、ROCK IN JAPAN FESTIVAL、SWEET LOVE SHOWERなど10数本の夏フェスに出演、さらに7月29日放送の『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に出演するなど、デビューからわずか2年弱で完全にブレイクを果たしたWANIMAのニューシングル。ニベア花王『8 × 4』のCMソングに起用された(←これもいまの10代にWANIMAが支持されている証左のひとつだと思います)真っ直ぐな前向きソング「ともに」、高速のスカビート~サンバ・ホイッスル~ダンスホールレゲエ的な展開を力技で融合させたサウンドが印象的な「オドルヨル」、メロコア直球のアレンジによる「切手のないおくりもの」のカバー、そして、エモーショナルなメロディと美しいコーラスワーク、オーディエンスへの強い思いを描いた歌詞がひとつになった「For You」を収録。どんな現場でも必ずアゲまくるライブパフォーマンスで注目を集めている彼らだが、この4曲からは、その音楽的な質の高さがしっかりと感じられる。MONGOL800が発明した“メロコア×抒情的な歌”というスタイルを継承しつつも、レゲエ、ヒップホップ、フォークなどを混ぜ合わせることで、ブチ上がりながら大合唱できるバンドとしてシーンのど真ん中に躍り出たWANIMA。その魅力が端的に伝わるシングルである。


■HOWL BE QUIET『Wake We Up』(SG)


 メジャーデビューシングル『MONSTER WORLD』によって、それまでのギターロックバンドのスタイルからエレクトロ/EDMを大胆に取り入れたポップ・ユニットへとスタイルを変化させたHOWL BE QUIET。TVアニメ『DAYS』(MBS、TOKYO MXほか)のオープニングテーマとして制作された「Wake We Up」でも同じ路線を続けているわけだが、まさかここまでポップに振り切ってくるとは思わなかった。心地いいスピード感あふれたエレクトロ系のトラック、カラフルな広がりを見せるメロディライン、<君の未来だって/僕がずっとお供しよう>という王子様系のリリックを含め、まるでアイドルポップスの様相を呈しているのだ。ライブではどうやってパフォーマンスするのだろうか? と思ってしまうが、この潔さは正解だと思うし、何よりも現代的なポップミュージックとして成立しているところが素晴らしい。優れたポップスメイカーとしての資質を示し始めている彼らだが、この方向性をどうやってHOWL BE QUIETの独自性に結びつけるかは、正直言ってまだ未知数。それが実現したとき、彼らは既存のアーティストとはまったく違うスタイルを手に入れることになるだろう。


■サニーデイ・サービス『DANCE TO YOU』(AL)


 Suchmos、never young beachなどのライブを観るたびにサニーデイ・サービスのことを考えてしまう40代の私だが(実際、サニーデイ・サービスがいなかったら、現在の東京インディーシーンはまったく別の形になっていたと思う)、前作『Sunny』以来約1年10カ月ぶり、活動再開後3枚目となる本作を聴いて、このバンドの凄みを改めて思い知らされた。バンドグルーヴは丁寧に抑制され、メロディはどこまでもスムーズなのだが、永井博の手によるアーヴェインなジャケットとは真逆の(?)ヒンヤリとした殺気のようなものを感じてしまうのだ。本作の制作にあたって曽我部は数10曲の楽曲を用意し、これまででもっとも長い制作期間を要したそうだが、その過程でサニーデイ・サービスの音楽は極限まで研ぎ澄まされ、ゾクッとするような鋭さを手に入れた。2016年の東京におけるバンドミュージックの極北と言い切ってしまいたい名盤の誕生。今年はスピッツの『醒めない』と本作『DANCE TO YOU』で決まりではないだろうか。


■吉澤嘉代子『吉澤嘉代子とうつくしい人たち』(ミニAL)


 サンボマスター、私立恵比寿中学、岡崎体育、伊澤一葉、ザ・プーチンズ、小島英也(ORESAMA)、曽我部恵一とコラボレーションを繰り広げたコンセプト・ミニ・アルバム。父親が聴いていた井上陽水をきっかけに音楽に興味を持ち、昭和の歌謡曲、ポップスにも造詣が深い吉澤のボーカリストとしての資質を、幅広い年代・ジャンルのアーティストたちがそれぞれのスタイルで引き出している(または融合している)わけだが、大瀧詠一が松田聖子に提供した楽曲を想起させる「ものがたりは今日はじまるの feat.サンボマスター」、80年代ニューウェイブ風ポップスを下敷きにした「アボカド feat. 伊澤一葉」、サイケデリック・フォーク的な音像と2010年代の東京を描写した歌詞が溶け合う「東京絶景 feat.曽我部恵一」など名曲がずらりと並んでいる。自分自身の思いや感情よりも架空の物語を描くことを得意とする吉澤は、どんなサウンド、どんな歌に対してもフラットに臨み、その色にしっかりと染められる楽しさを知っているのだと思う。曲によってナチュラルに表情を変えられる、本当に魅力的な歌い手だ。(森朋之)