今シーズン、2番目に短いレース。90分44秒200、ルイス・ハミルトンが67周すべてトップのままゴール。これほど速いのに最速ラップを出す気はなく、49勝目もハンガリーGPと同じ“プロスト的”な勝ちかた。必要なときだけプッシュ、不必要なときはセーブ、これが今月4勝したハミルトンの新しい「連勝の方程式」だ。
金曜はガラガラのスタンドで、2年ぶりドイツGPの熱気は、もうふたつ。静かな初日にニコ・ロズベルグ1位、セバスチャン・ベッテル3位につけ、土曜から客足が伸びたのは何よりだ。メルセデスとシェル(フェラーリ)が集客キャンペーンを実施、その効果もあったのだろう。
この時期としては涼しめな曇天のもと、スタート14分前の定刻にドイツ国歌独唱がサーキットに流れた。耳にタコができるくらい表彰台セレモニーで聞くメロディだが、彼女の透きとおった歌声は新鮮な響きで胸がじんとした。個人的には今年の「ベスト国歌賞」を、さしあげたいくらい。コース上で州旗を一所懸命に振る少年少女たちも可愛らしかった。開会セレモニーは、これくらいシンプルでちょうどいい。
14時03分過ぎ、ハミルトンが滑らかで精密機械のようなすばやさで1コーナーをとった。ポールポジションのロズベルグは、明らかなホイールスピン。この日の不運の始まりだ。最前列ふたりのスタート成否に続き、2列目ふたりが1コーナーを接近したまま並走。当たってはいない、極上サイド・バイ・サイド。この日の武運の始まりだ。
ハミルトン、マックス・フェルスタッペン、ダニエル・リカルド、ロズベルグ……ベッテル、キミ・ライコネン。1周目、トップ6が4.700秒間隔で通過、3列目のふたりは、すでに大きく引き離され、主役を狙うどころか脇役にもなれない。近隣のヘッペンハイムで育ち、すぐ近くのワルドルフでカートを始めたベッテルにとって、ここはホームグラウンドのようなところ。チームメイトを抜いた彼に巨大スタジアムから声援が飛ぶが、それも次第におさまる。
抜くことも抜かれることもなく、フェラーリは今年いちばん“地味”なレースを続けた。5位ベッテルはラインが何度もぶれ、コース幅いっぱいを使って車速をキープする、きわどいドライビング。修正操作が繰り返され、タイヤに厳しくならざるをえない。だからベッテルが中盤に「このタイヤでステイして最後のスティントを短くしよう」と考えたのも理解できる。データによる予測以上に、レース中の性能劣化が進んだ。
ライコネンのカーバランスはベッテルより少しだけ安定しているように見てとれた。それでもコーナー入口で曲がらず、出口で滑るのをなだめるドライビング。タイムペースは上がらず、燃費をセーブする必要もあった。これでは手も足も出せない。3番目のマシンに下落した事実を受け入れねばならず、その苛立ちが無線会話のトーンに表れた。
とてもナーバスな挙動の“暴れ馬”に変わってしまった夏のSF16-H。ひとつ気づくのはターボやギヤボックスの信頼性低下が続き、その対策に追われたことだ。応急手当として各部を強化、それにともない重量が増加してもトラブル防止が急務。マシンの前後重量バランスなどが変動し、コーナリング・フォームが唐突に乱れる場面がとても多い。
ベッテルもライコネンも不満はコメントしても、あからさまなチーム批判は慎み、いまはじっと耐えている。メルセデスが母国で今季12戦11勝を決め(2014年パワーユニットになってから50戦43勝)、レッドブルは約1年ぶりにダブル表彰台。3番手へと転落したフェラーリは信頼性回復、トラブル防止に追われ、正常進化アップデートまで手が回らなかった。7月の過密4戦スケジュールは、どのチームより辛かっただろう。アリバベーネ代表に心労の影がうかがえる。