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中田ヤスタカ、tofubeatsらが出演、クラブとポップシーンを横断する『YYY Vol.1』レポート

2016年08月01日 18:41  リアルサウンド

リアルサウンド

『YYY』

 まるで目の前で様々なカルチャーがマッシュアップされていく様子を見せられているかのような、刺激的な一夜だった。中田ヤスタカ、kz(livetune, livetune+)、tofubeats、banvoxという現在の音楽シーン屈指の4人のプロデューサー/トラックメイカーがレジデントを務め、毎回出演順を変えることでその日だけの魅力を追求するクラブ・パーティー『YYY』。7月17日に新木場スタジオコーストで開催された『Vol.1』は、1月に渋谷SOUND MUSEUM VISIONで行なわれた『YYY Vol.0.5』に続く、イベントの本格的なスタート回となる。


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 この日はtofubeats、kz(livetune, livetune+)、banvox、中田ヤスタカというタイムテーブル。1番手として登場したtofubeatsは近年ハウス/テクノを中心としたDJセットを披露することも多いものの、ここでは自身もオートチューンをかけたボーカルを披露するお馴染みのライブセットだ。大歓声の中登場し、「みなさん盛り上がる準備はいいですか~!!」とMCすると、早速「eyezonu」のフレーズを口ずさみながら「Stakeholder」とKOHHによるtofubeatsネタの楽曲「Drum Machine (Freestyle)」(『YELLOW T△PE 3』に収録)をマッシュアップ。以降も「POSITIVE feat. Dream Ami」を筆頭に自身の楽曲をインターネット世代らしい奇抜な編集感覚で繋いでいく。途中「m3nt1on2u feat.オノマトペ大臣」でトラブルにより音が止まるも、それを逆に利用して観客はさらにヒートアップ。中盤以降はややスロウな展開に移行し、最後は「Don't Stop The Music」や「朝がくるまで終わる事のないダンスを」「ディスコの神様」「水星 feat. オノマトペ大臣」といった人気曲でポップさと先鋭性とを兼ね備えたセットを披露した。


 続くkzは『Tokyo 7th シスターズ』の楽曲から、自身が手掛けたセブンスシスターズの「SEVENTH HAVEN」でスタート。アウル・シティー&カーリー・レイ・ジェプセンの「Good Time」や初音ミクの「Satisfaction」と「Packaged」、Shiggy Jr.「サマータイムラブ」のリミックスで4つ打ちを基調に踊りやすくまとめながら、同時に多ジャンルを横断することでまったく単調に感じさせないのが流石kzといった雰囲気だ。中盤はアイマス曲「Radio Happy」からナナシスの「Sparkle Time!!」と「SEVENTH HAVEN」のリプライズ、そしてアイオバーン&カトモリによるアイカツ曲のリミックス「Good morning my dream」に繋げる2.5~2次元アイドルメドレーを披露。最後はやのあんなとのユニットlivetune+の「Jump Up」や初音ミクの「Hand In Hand」ではフロア後方まで一斉にジャンプ! その立ち姿やライブに込めた気持ちの強さで観客をグイグイ自分の世界に引き込むステージングも印象的だった。


 両者のセットは同じようにクラブ・ミュージックを基調にしながらも、音楽的にはそれぞれ違う方向に振り切れている。けれども会場全体に、その2つを自然に楽しむような雰囲気が流れているのが『YYY』の特徴だろう。tofubeatsが冒頭にかけたKOHHのライン「ジャンルにとらわれて/ゴチャゴチャ言うやつなんかは結局そこまでで/終わり/ラッパーどまり」に象徴されるように、ポップ・リスナーからクラバー、Bボーイ/Bガール、ボカロやアイドル楽曲のリスナーまでが同時に集まったフロアには、特定のボーダーが一切設けられていない。また、デイタイムの開催とあって深夜のクラブには入れない若年層も多く足を運んでいたことは、おそらく企画段階から意識されていたことでもあるはずだ。


 続いて3番手として登場したbanvoxは、「Summer」で夏の到来を思わせる立ち上がり。彼が最も得意とするトラップを中心に据えた破壊力抜群のセットで、「New Style」から『モード学園』の2016年度TVCM曲「Occasion」の初パフォーマンス、ディプロのマッド・ディセントからリリースされたガストリーの「Get On This」、「Don’t Wanna Be」へと繋いでフロアを一気に盛り上げていく。以降もディプロとスクリレックスによるユニット、ジャックUの「Where Are Ü Now" with Justin Bieber」やスクリレックスの「Scary Monsters And Nice Sprites」、ザラ・ラーソン&MNEKの「Never Forget You」、ディプロの「Set Me Free (feat. LIZ)」などに加えて、韓国の若手トラックメイカーNorとの「Flux」やHyperJuiceの「City Lights」をプレイ。自身のものや交流のあるアーティストの楽曲を中心に、巨大な音の塊で全身を殴るかのようなbanvoxらしいステージを展開し、最後は「Watch Me」で締めくくった。


 そして最後に登場した中田ヤスタカは、序盤から王道EDM~エレクトロで会場を一気に沸点までもっていくと、その後はCAPSULEの「Another World」や、2曲を自然に繋いでみせたPerfumeの「STORY」&CAPSULEの「Hero」、きゃりーぱみゅぱみゅの「CANDY CANDY」やPerfumeの「Glitter」といった人気曲を連発する横綱相撲のようなセット。続いて彼のDJではお馴染みのアンセム、スティーヴ・アオキ&モクシーの「I Love It When You Cry」をプレイする頃には、会場は特大の多幸感に包まれる。以降も「Miracle Worker」、「にんじゃりばんばん」など自身が楽曲提供した人気曲をプレイ。Perfume「FLASH」をかけながら「今日は最後までありがとうございます!」とMCすると、アンコールではPerfumeの「レーザービーム」にB’zの「ultra soul」をマッシュアップ。「虹色の/ultra soul!!」と全員でジャンプする展開でイベントはついに大団円を迎えた。


 世代を超えた4人に共通しているのは、その活動自体がクラブ/ポップ・シーンを自在に横断しているということ。今や日本屈指のヒット・メイカーとなった中田ヤスタカ、ライブを想定した、やのあんなとのユニットlivetune+に加えて初音ミクから2次元アイドルの楽曲までで縦横無尽に才能を発揮するkz(livetune)、最先端のビート・ミュージックへの造詣を持ちながら、SMAPを筆頭にした公式リミックスやゆずの「かける」の編曲などポップ・シーンでの仕事も数多くこなすtofubeats、そしてトラップやR&B/ヒップホップを駆使してフロア・アンセムを連発しながらも、近年は湘南乃風の楽曲プロデュースを担当するなど人気アーティストの楽曲制作/リミックスワークも増えているbanvox。この4人の場合、タイムテーブルやその日のモードによってイベントの雰囲気はどんな形にも変更できる。そしてそれらがすべて、観客が両手を空に掲げているように見える『YYY』というイベント名同様、「みんなでワイワイしよう」というごくシンプルなテーマに向かっていくこと。これがイベントの最大の魅力として、クラブの玄人からビギナーにまで開かれた空間を生んでいたように思う。ミュージシャンであると同時に優れた音楽シーンのキュレーターでもある彼らが、ポップを題材に自由に遊びを展開する姿が何よりも印象的な一日だった。


(杉山仁)