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赤信号の交差点に進入した「パトカー」が車と衝突、過失の割合はどうなる?

2016年08月01日 11:12  弁護士ドットコム

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「ウゥーーー」「そこの車、とまりなさい」。「ピーポーピーポー」「進路を譲ってください」。パトカーや救急車のけたたましいサイレン音とアナウンスが交差点で鳴り響くーー。街なかでよく見かける光景だ。


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パトカーは、信号無視や速度違反をした一般車両を追いかけることがある。また、救急車は、急病人やケガ人を搬送する。そんなとき、パトカーや救急車は、たとえ「赤信号」であっても、停止することなく交差点に進入する。



ただ、走行中のパトカーや救急車が、交差点で一般車両と接触する事故も起きている。こうした事故について、どのようなルールがあるのだろうか。パトカーと一般車両が事故があった場合、どういう過失割合になるのだろうか。



元警察官僚で警視庁刑事の経験もある澤井康生弁護士に聞いた。



●「緊急自動車」とは?


パトカーに代表される緊急自動車は「消防用自動車、救急用自動車その他政令で定める自動車で当該緊急用務のため、政令で定めるところにより運転中のものをいう」と規定されています(道路交通法39条1項)。



緊急走行するためには、サイレンを鳴らし、かつ、赤色の警光灯をつけなければなりません。いずれか一方を欠くときは、緊急自動車と認められません。



一般自動車は、赤信号や踏切などで停止しなければなりませんが、緊急自動車は停止することを要しないとされています(道路交通法39条2項)。



つまり、緊急自動車は、赤信号でも停止することなく交差点に進入することが許されています。ただし、他の交通に注意して徐行しなければならないとされています(道路交通法39条2項後段)。



他方、一般自動車は緊急自動車に劣後するものとされており、一般自動車は、交差点で緊急自動車が接近してきたときは交差点を避けて、道路の左側に寄って進路を譲らなければならないとされています(道路交通法40条1項)。



このように、緊急自動車が一般自動車に優先されている理由は、緊急自動車を一般自動車と同じ規制にしたがわせてしまうと、緊急自動車本来の任務達成(犯人逮捕、火事の消火、けが人の搬送)に支障が生じてしまうからです。



●緊急車両と一般車両が「交差点」で事故を起こした場合は?


信号機のある交差点で直進車同士が事故を起こした場合、対面信号機が赤信号であった当事者の過失割合は100%、対面信号機が青信号であった当事者は0%というのが基本的な過失割合です。



信号機のある交差点で、緊急自動車が対面信号機赤色の状態で交差点に進入したところ、対面信号機が青色の状態で交差点に進入した一般自動車と衝突した場合を想定します。



この場合、緊急自動車は赤信号での停止義務がなく交差点への進入が許されるのに対して、一般自動車は緊急自動車が接近したときは、交差点を避け道路の左側に寄って一時停止しなければならない義務が課されます。



そうすると一般自動車は、青信号であっても一時停止義務を負いますので、そのまま青信号で進入して緊急自動車と衝突した場合の過失は、一般自動車側にあるといえます。



ただし、緊急自動車も、他の交通に注意して徐行する義務や交差点内で可能な限り安全な速度と方法で進行する義務(道路交通法36条4項)を負っています。事故を起こした場合、まったく過失がないということはできません。



以上の点を考慮すると、交差点で緊急自動車と一般自動車が衝突した場合の基本過失割合は、緊急自動車が20%程度、一般自動車80%程度が相当といえます。裁判所においても、おおむね、そのような相場をベースとしたうえで、あとは個別具体的な事情を考慮して過失割合が算定されています。



●警察内部ではパトカーの免許のことを青免という


緊急自動車は、赤信号でも交差点に進入することが許されることから、高度なドライビングテクニックが要求されます。



とくにパトカーは、普通免許があるだけでは運転できず、パトカー運転員養成専科という研修を受けて、試験に合格しなければなりません。ちなみに、警察内部ではパトカーの免許のことを青免と呼んでいます。



私が警視庁に出向していたとき、覆面パトカーで緊急走行していたところ、信号機のない交差点で交差道路を左方から進行してきた緊急走行中の救急車に出くわして驚いた経験があります。


もし、そのとき衝突事故を起こしていた場合、基本過失割合は同じ幅員の交差点であることを前提とすると、左方優先(道交法36条1項1号、交差道路を左方から進行してくる車両を妨害してはならない)の規定によって、交差道路を左方から進行してきた救急車が40%程度、パトカーが60%程度ではないかと思われます。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
元警察官僚、警視庁刑事を経て旧司法試験合格。弁護士でありながらMBAも取得し現在は企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も兼任、公認不正検査士の資格も有し企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。東京、大阪に拠点を有する弁護士法人海星事務所のパートナー。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。

事務所名:弁護士法人海星事務所東京事務所
事務所URL:http://www.kaisei-gr.jp/about.html