2016年08月01日 10:12 弁護士ドットコム
アダルト雑誌を陳列しているコンビニの「成人コーナー」に憤るブログ記事が「はてなブックマーク」で話題となった。
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投稿者は息子とコンビニに行くようになってから、アダルト雑誌が陳列してある「成人コーナー」が気になるようになった。「成人コーナーが、嫌でも目に入る。3歳の息子の姿と一緒に目に飛び込んでくる」、「なんでTSUTAYAみたいに隔離してないの?おかしいだろ」と他の商品と一緒にアダルト雑誌が売られている現状に疑問を投げかけていた。
この投稿は900以上のブックマークがつけられ、「私も不快に感じていました」など女性を中心に同意のコメントが多く寄せられた。
一方で、今年の3月には、大阪の堺市で、雑誌の表紙を「目隠し」する取り組みが始まり、憲法で保障されている「表現の自由」に触れるのではないかと議論を呼んだ。
コンビニにアダルト雑誌を陳列することは、子どもや不快に感じる女性を保護する観点から、法的に規制すべきなのだろうか。猪野亨弁護士に聞いた。
「現在の法規制は、刑法175条によって『わいせつ』に該当するものであれば頒布・販売が禁止されていますが、それに当たらない程度のアダルト雑誌であれば禁止の対象外です」
猪野弁護士はこのように述べる。コンビニなどで販売されているアダルト雑誌は刑法上の「わいせつ物」ではないということだ。陳列など、販売の仕方について規制はないのか。
「陳列などの規制は、主に青少年保護育成条例によって、その販売方法が規制されています。たとえば、東京都の『青少年の健全な育成に関する条例』では、陳列の方法について、他の書籍と区分することや、青少年が閲覧できないように包装しなければならないことなどが定められています」
今年の3月には、コンビニの成人向け雑誌の表紙を「目隠し」する大阪府堺市の取り組みをめぐって「表現の自由の侵害ではないか」といった議論となったが、規制のあり方をどう考えればいいのか。
「この問題について、これまでの学説は『表現の自由』に対する規制ととらえている傾向があるようです。
たしかに、出版社や著者の観点からは、表現の自由という範ちゅうで考えることにも一理ありますが、コンビニでの取り扱いの場合には、販売方法の規制の問題ですから、私は『営業の自由』への制約とするのが正しいのではないかと考えます。
わいせつ物に該当すれば別ですが、そうでない場合には、その書籍自体を他者の面前にさらすこと自体は禁止されているわけではありませんし、インターネットを通じた広告・宣伝も可能だからです。つまり、表現することが禁止されたというわけではないということです。
本来、表現の自由を禁止することの問題点は、表現そのものが他者の目に触れることもないまま禁圧されることによって、権力に対する国民の批判が向けられなくなってしまうことにあるのです」
コンビニのアダルト雑誌の陳列のあり方について、どう考えればいいのか。
「コンビニは、近所にあって誰もが自由に出入りすることのできる空間です。青少年、幼児、女性なども出入りする中に、こうした雑誌が陳列されているのがよいかといえば、これ自体は疑問です。
これが野放しにされるとなると、たとえわいせつに該当しなくても、極めて下品な環境になります。この場合、コンビニなどで置かれているものは、イラストやタイトルなども含め、単に水着グラビアを超えるえげつないものが陳列されているのが現状です。不快に思う人が多いのはこの類でしょう。未成年者だけでなく、一定の社会的環境維持の観点からの規制は許容されると考えます。
これまでは、未成年者の保護が強調され、規制の根拠とされていました。これに対しては『(アダルト雑誌が目に触れることによって)未成年者の健全な育成が阻害されるということが実証されたのか』という批判もありましたが、現代社会においては、未成年者だけの観点から考察するのは、むしろ狭すぎるというべきです。
何よりも諸外国では、日常、大衆が出入りするような店舗で、アダルト雑誌が目に触れるような形で陳列されておらず、外国人観光客が日本に来て驚く由縁です」
法律などで、現在よりも厳しい規制ができたとしても、憲法上許される可能性があるということだろうか。たとえば、コンビニでアダルト雑誌の取り扱いを一切禁止するような法令は許されるのだろうか。
「コンビニだけが一切禁止されるというのは、営業の自由を制約することの合理性を見出すことは困難です。実際の取り扱いは書店では置かれず、コンビニがその主な購入先になっているため、コンビニでの販売を禁止してしまうと『全面』禁止に近くなるかもしれません。
方法を限定することによっても、目的を達することは可能だからです。したがって、そのような法令は違憲とされる可能性は極めて高いと言えます」
レンタルビデオ店のアダルトコーナーのように、他の売り場と完全に隔離するような方式を義務付けることは、どうだろうか。
「法律上は、わいせつに該当するものでなければ自由に販売できるのが原則であり、条例でさらに規制ができるのかという問題です。
これは表現そのものを禁止するわけではなく、『販売方法』に対する規制ですから条例によって販売方法を制限することは可能です。
ただ、レンタルビデオ店のようなところは、人が出入りできる一定のスペースを確保することは可能でしょう。一方で、コンビニの場合には、相応のスペースがとられるわりには商品量は多くはなく(仕切り自体はカーテンなどで可能)、相応のコスト負担を強いることになります。
より制限的でない方法がある場合には、過度な規制ということになります。他の方法とも関連しますが、一律に方法を強制することは違憲と判断される可能性は高いと思われます」
堺市のケースのように、表紙を外部から見えないようにして販売することはどうか。
「 アダルト雑誌は結局のところ、『表紙のえげつなさ』で購買意欲をかき立てることなので、その商法が成り立たないことになり、営業の自由に対する制約となります。
他方で、このようなものが日常的な空間にはん濫することは社会環境としては最悪であり、何らかの規制はやむを得ないものです。
堺市の場合には、協定により店舗の自主的な取り組みを促すという程度のものなので、問題はありませんが、条例などで義務化した場合は、憲法適合性の問題になります」
条例などで義務付けたりすることは、問題があるということだろうか。
「『一律に外部から表紙が見えないようにすべき』ということを義務付ければ、購入するまで全く中身が見えないということになるので、やり過ぎだと判断される可能性があります。
他方で、カーテンなどでスペースを区切ることによって、購入を希望する人たち以外に表紙が見えないようにするなど、他の方法で対処することも可能です。
そのため、『アダルト雑誌の購入を望まない、目に付くことを望まない人たち』の目に触れないようにする義務という規制であれば、義務化も許容される余地が出てきます。店舗によって、過度な負担にならないように、工夫すれば対応できる可能性があるからです。
『見えないようにすること』、その『表紙などの過激さ』とは、相関関係としてとらえられることにはなります(過激であればあるほど、見られないようすべきということ)。
一定の規制はやむを得ないものといえ、ただちに違憲と判断されるものではないと考えます」
猪野弁護士はこのように分析していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
猪野 亨(いの・とおる)弁護士
今時の司法「改革」、弁護士人口激増、法科大学院制度、裁判員制度のすべてに反対する活動をしている。日々、ブログで政治的な意見を発信している。
事務所名:いの法律事務所
事務所URL:http://inotoru.blog.fc2.com/