2016年07月31日 09:02 弁護士ドットコム
もしも職場に猫や犬がいたらーー。動物好きの人にとっては天国かもしれませんが、動物が嫌いな人や、アレルギーがある人には辛い環境でしょう。弁護士ドットコムの法律相談コーナーには、動物アレルギーの女性から、「社長が毎日会社に犬を連れてきます」と相談が寄せられています。
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女性によると、社長の犬は社長室を飛び出して事務所全体を走り回り、アレルギーがある女性のそばにも寄ってくるのだそうです。「キャンキャン鳴かれるのも迷惑なのですが、それは100歩譲るとして、舐められたり擦り寄られたりすると、目まで痒くなってきます」「フロアで走り回っているだけでも、喘息のような咳が出ます」。
女性は、職場に犬がいることを入社の面接の時には知らされず、入社したその日に犬が連れてこられるのを見て、愕然としたといいます。
アレルギー症状が出ることについて、社長のすぐ下の役職の人に伝えたものの、「だったら近づかないでください」とけんもほろろな対応をされたとのこと。とはいえ、自分から社長に直接言うことも難しく、何とかならないものかと困惑しているようです。
アレルギー症状が出ることを理由に、社長に対して、職場に犬を連れてこないよう要求することはできるのでしょうか。土井 浩之弁護士に聞きました。
●診断書を提出して社長に要求を
まず原則としては、犬を会社に連れてこないでくれと要求することはできます。
アレルギーは、呼吸停止やショック症状を引き起こすなどかなり危険な場合もあります。診断書などを提出して、社長に犬を連れてこないように要請することができると思います。
なお、かなり重篤なアレルギー症状が出ているにもかかわらず、社長が犬を連れてくることをやめないならば、直ちに会社を辞めるべきです。危険状態から離脱することを最優先に考えるべきでしょう。
では、アレルギー症状について、労災申請はできるのでしょうか。
労働災害と認められるためには、業務をしている過程で起きたという「業務遂行性」と、業務に内在している危険性が現実化したという「業務起因性」が必要です。
今回の場合、会社施設内での仕事中にアレルギー症状を発生していますから、業務遂行性は認められるでしょう。一方、会社に犬がいることと業務とは関係がないので、問題は業務起因性が認められるかということになるでしょう。労災申請よりはむしろ、会社に対する損害賠償請求の方が、認められる可能性が高いと思われます。
ただ、労働者と使用者の力関係に鑑みれば、ある程度は使用者の趣味趣向の下で働くことを余儀なくされるわけです。使用者の趣味の下で働くことの危険性が現実化したというならば、業務起因性も認められるべきです。すなわち、労働災害は認定されるべきだと思います。少なくとも、はじめから申請をあきらめるべきではないでしょう。
【取材協力弁護士】
土井 浩之(どい・ひろゆき)弁護士
過労死弁護団に所属し、過労死等労災事件に注力。現在は、さらに自死問題や、離婚に伴う子どもの権利の問題にも、裁判所の内外で取り組む。東北学院大学法科大学院非常勤講師(労働法特論ほか)。
事務所名:土井法律事務所