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“言葉”で若者たちを涙させた新曲が最大ヒット、10-FEET・TAKUMAが誕生秘話語る

2016年07月30日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

10-FEET

 リリースされる前からこれほど渇望された楽曲もめずらしい。10-FEETのじつに4年ぶりとなるオリジナル音源が、7月20日に発売された。3曲入りシングル『アンテナラスト』だ。リリースされるや、まさにリスナーの乾いていた心に染み込むように浸透し、オリコン初登場5位という結果になってあらわれた。一体、何がこれほどまでに聴く者の心を揺さぶり、放さないのか。この曲の強さはどこから来るのか。TAKUMAの曲作りへの思いを中心に話を訊いた。(谷岡正浩)※ページ最後に読者プレゼントあり


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■「完成する前から確信があった」


ーーラジオで初オンエアされた直後から、発売を待たずにツイッターなどのSNSを中心に「アンテナラスト」への共感がものすごい勢いで広がっていきました。とくに言葉についての共感が多かったですね。


TAKUMA:ほんとにうれしいです。


ーーアカペラから始まる出だしも印象的なのですが、今回、言葉に関して、より意識的になった部分というのはあったのでしょうか?


TAKUMA:歌いたいことがまずあって、それを歌詞にしていくーー歌にはめていく作業をいつもするんですけど、今回は最初の形からあまり変えていないかもしれないですね。加工していないというか。そのまま歌っているっていう感覚が今までよりも強くあります。加工しようと思っても、ここがベストなんだというか。そういう感覚はこれまでほとんど経験したことがなかったですね。


ーー初めから、歌のあるべき姿として言葉があった。


TAKUMA:それがね、たまたまはまったのか、あるべくして生まれて来たのか、ちょっとまだわからないんですよね。街の裏路地をぶつくさ言いながら歩き回って、それを文字に起こしたんですけど、それがそのまま歌詞になっていったというか。弾き語りで即興で歌う時以外にはそういう成立の仕方ってしなかったんですけどね。だから、おもしろかったですね。


ーーあまり「加工」の余地がなかったからなのか、とても個人的な感情がそのまま歌詞になっている、とも言えますよね。


TAKUMA:そうですね。あまり今までなかったかもしれませんね。あったとしても、もっとスペースがあるというか、余白を残した表現が多かった気がします。それが大事やと思ってやっていたので。僕が聴いてきた音楽がそうでしたから。この人はこの人のことを歌っているんやけど不思議と自分にはまるなあと思わせてくれる言葉、そしてそれが何年かしたらまた違う意味で響いてくるとか、そういう歌の包容力に魅力を感じて日々僕も思いに耽ったりしているので。でもこういうパーソナルなものでも自然と出てきた本当の気持ちというのは、たとえそれを聴いた人のシチュエーションとは違っていても、自分のことのように伝わるのかな、とみなさんの反応を見る限りその可能性を感じている真っ最中です。


ーー「RIVER」(2002年発表)の歌詞の出どころと近い手触りがあるのですが、ただ「RIVER」は何度もライブを重ねる中でオーディエンス一人一人の共通の物語になっていったと思っていて。一方で「アンテナラスト」の場合は、初めから物語としてある、そんな気がしてならないんですよね。


TAKUMA:「RIVER」の頃は、今よりもぜんぜん何も知らなかったし、知らない中で一生懸命表現した歌やったんやなと今は思います。今回の歌は、それから15年くらい経って、もちろんいろいろなことを知る中で、表現するということよりも、大切な気持ちだけを込めていったという感じがしてるんですよね。漢字知ってるけどあえて平仮名で書きました、みたいな。


ーー様々な経験を重ねてたどり着いた、いわば地続きの曲、ということですね。


TAKUMA:そうですね。


ーーその経験の中に、「その向こうへ」(2011年発表)はとくに重要な着地点としてあるのではないかと思いました。つまり、震災という共通の経験や感情を歌に込めたという点で、「RIVER」とは違う物語の成り立ち方をしていますよね。


TAKUMA:たしかにそうかもしれませんね。でももう一回あれをという感じではなかったんですよ。それは歌詞もそうなんですけど、とくに曲へのアプローチから説明したほうがわかりやすいかもしれません。『その向こうへ』っていうのは、作ってる自分からすると、曲そのものは決して激しいものではないんです。でもサビで「その向こうへ」と叫ぶことで、体感としてラウドでエモーショナルな曲として成り立っているんですよね。それが出来たというのは一歩前進したというか。その前は、ラウドでエモーショナルな曲を作るのには、全体を通して激しいもので武装しないといけないというふうに思ってやってましたから。それで今回のは、シャウトすることもなく、それでも感情の炎をそのまま受け取ってもらえる、というような曲が出来たんじゃないかなと思っていて。これはあくまで自分の中のシミュレーションというか想像なんですけど、パッと聴いたら多くの人は、これを激しいロックな曲だとは思わないんじゃないだろうかと。でも聴き終わって、体や心には熱いものがたしかに残っている、その感じがすごく大事やと思って作ったんですよね。あとはそれが実際にみんなのところにそういうふうに届くのか、というのはわからない部分なんですけど、なんか、完成する前から自分の中に確信があって。きっと伝わるはずやと思ってたので。


ーー完成する前にすでにあったんですね、確信が。


TAKUMA:ええ。次の一歩っていう道標みたいな曲が出てくるぞっていうのは、頭で考える前に直感で確信みたいなものがすでにあったので、その確信をあとは勇気と熱を持って一緒に作っていくチームに伝えていくだけというか。そこが一丸となれるかどうかは、「本当にその曲が持ってるか持ってへんか」なんですよね。でもそれは絶対にあると信じてたので。そこに迷いはなかったですね。だから今、「アンテナラスト」いいですねって言ってもらえることが本当にうれしいんですよ。でも一方で、もっとわかりやすく激しいミスクチャーな曲のほうが良かったって感じる人もいることはわかってるんです。なんや、10-FEET落ち着いたなっていうふうに受け取る人。でもそれは、そこを通って行かないといけない道筋というか。一度そこを通らないと答えが出ないもんやと思ってるんです。もちろん未来のことなんてわからないんですけど、それでも絶対に届くって信じられるだけのものが出来たと思っています。そしてその気持ちがあったから、多くの人に届いたんやと思いたいですね。


■「出来る限り時間と情熱と言葉を使って周りの人に伝えていく」


ーーTAKUMAさんにとって、曲を作る、というのはどのような行為なんですか?


TAKUMA:曲を作る中で一番楽しいのは、ネタを思いついて、こんな感じの曲ええんちゃう? って、自宅でドラムを打ち込んでギター弾いてベース弾いてなんとなくの歌を歌った瞬間なんですよ。ゼロから1が生まれる瞬間なんで。あの時の「うわ、すごいの出来たかも!」っていう気持ちが楽しくてやってるんやと思います。それで、その時に歌いたいことがあるというのが最もやりがいを感じるんですよ。逆に一番しんどいな、大変やなと感じるのは、僕が抱いてる最初の「うお!」っていう感覚をメンバーやスタッフに伝えて自分の気持ちとシンクロしてもらうまでの説明であったり、演奏して波長を合わせたりする部分なんですよ。時には説得する時もありますし。でもそれもこれも、自分の伝え方ひとつというか。たとえば自分のやりたいことを自分の音楽欲のままに「俺はこれをやりたいねん!」ってだけ言っても前に進まないと思うんですよね。本心としてはそういうふうに正直に伝えたいですけど、やっぱりチームでやってるんで、みんな違う人間なんでね、僕が僕の感じるままに言っても通じないですし、みんなが感じられる部分で伝えていくことがすごい大切やなと感じていますね。最近ね、バンド仲間とか作家さんとかとこういう話はよくするんですけど。やっぱり自分だけでは何もできないですから。メンバーやスタッフあっての自分やし、そしてその一丸となった熱が小売店の人やメディアの人につながって、聴いてくれるみんなに伝わると思うし。そうじゃないと、音楽をリリースすることって、なかなか成功まで辿り着けないと思うんですよね。


ーーその、コミュニケーションの様を含めての曲作りだと。


TAKUMA:はい。それを凌駕するほどの才能や突出したセンスのある人は、そういう説明とかやり取りなしでも周りの人が勝手に心酔して通訳してくれると思うんですけど。もっと言うと、スタッフの人たちやレコード会社の人たちが自分たちの音楽を嫌いであったりとか、タイプでなかったとしても「ええやんこれ!」と思ってもらえるような伝え方とか熱、コミュニケーションが必要なんじゃないかと僕は思うんですよ。なんでかって言うとやっぱり、ライブ会場に来てくれる人たちにその音源を伝えるのが最重要目的にして最終目的やから、そこに向かって一直線に行くってことは、最短ルートを行くってこととはまた違うと思うんですよ。やっぱり出来る限り時間と情熱と言葉を使って周りの人に伝えていくことが大事やと思うし、時にはその人の好みとか思ってることじゃないところで、それでも「よしやろう!」って思ってもらえるような伝え方をしなくちゃいけない。


ーーそれって、社会のどこでも通用する話ですよね。


TAKUMA:どこでも言えることやと思います。でもそれが成り立つには、これは絶対いけるという確信とかイメージ、ビジョンが下っ腹にないと、伝える時に気弱になったり、自信がなかったりしてしまうと思うんです。やっぱり出来たものに宿ってる確信の濃さとか重さによって、そういった説明っていうのは違ってくるんですよね。だから僕も自信がない時はたじろいでしまうし。でも今回はそういうことが一切なかったですね。


ーーうーん、刺さりますね。


TAKUMA:ロックっていうテーマで今の話を聞いたら、「カッコわりーよ」って言う人もいるとは思うんですけどね。説明なんかダセーよって。でも伝えることって曲を聴いてもらうのと同じことというか、ただそれを言葉でやってるってだけなんですよね。だからガッて演奏して聴いてもらうことと、それを言葉で伝えることと、僕は同じくらい熱のあることやと思ってるんです。そしてそれがまず最初にすべきことなんやと思ってる。だからやっとCDを出せるとか、レーベルと話が出来るっていうとこまで行った若い子たちが、そこの努力をやらずに、チャンスを棒に振らないで欲しいと思ってる。そういうこともおもしろいと思ってやって欲しい。


ーーいや、それ、めちゃくちゃロックじゃないですか! 


TAKUMA:(笑)。もちろん、俺は絶対こうなんや! って自分を貫き通して成功をつかむ人もいるから、必ず周りに言葉で伝えろってことではないんですけどね。ただ、やれることは全部やって、チャンスを逃して欲しくないんです。オッサンみたいなこと言ってますけど(笑)。


ーー若い頃は勢いこそがロックだと思ってましたが、努力することのほうがロックだなと、今改めて感じます。


TAKUMA:20代のやつらから見たら40代になった僕らなんて、もう2回くらい終わってると思われてもおかしないような年齢なわけでしょ(笑)。そういうやつらを見てて、あー俺らもこんくらい向こう見ずやったなあとか思うんですよね。そういうやつらと一緒のステージに立ってやれてるっていうのがめっちゃ嬉しいんですよ。それで、オッサンになるのも悪くないって二十歳そこそこの若い連中に思わせたら、また新しい感動があると思うんですよね。


■「新しい扉が開いた一歩目の曲」


ーーそれにしても、不思議な共同体ですね、バンドって。


TAKUMA:僕もそう思います。なんでしょう、兄弟みたいな感じなんかなあ……血は繋がってないけど家族みたいなもんって言えば、なんか夫婦みたいな感じもしなくもないし(笑)。まあでも、すごいしんどいことを一緒に乗り越えてきたっていうのもあるし、結局、関係性はなんでもいいというか。つながれること、つながったことが大事なんで。お互いに喧嘩もしたし、妥協したところもあったけど、でもたくさんのお客さんに喜んでもらえたなとか。そこがすべてですね。そこの同時に見た風景というか。……不思議なもんですね(笑)。


ーー「アンテナラスト」は10-FEETにとって、どのような到達点になりましたか?


TAKUMA:今までの10-FEETの楽曲ーー速くてパンクで激しくてミクスチャーっていうようなーーの良さっていうのは、今も変わらなくあるんです。そういう曲もずっと作り続けている。そういう中で、良い曲が出来た、良いタイミングが来たっていう時はどんどん出していこうと思うんですけど、「アンテナラスト」って曲は自分の中では新しい楽曲なんです。ただ、曲の中でやってる一つ一つのことっていうのはどれも今まで、表現の違いは多少あれど、何かとやったことのあるものばっかりなんですけど。わかりやすくーーたとえばジャズ要素が入ったとか、テクノ要素が入ったとかーー新しいことっていうのはやってない。でも自分的には明らかに新しい扉が開いたなと思ってるんですよ。新しい扉が開いた一歩目の曲やと思ってるんですよね。だからこれを経て、今までやってきたパンクロックでミクスチャーな曲も、またいいものを作っていけるようになるし、「アンテナラスト」で開いたドアの先っていうのは、すごく広くて奥深い道が待ってるっていうふうに感じてるんですよ。あとはそこを進んで行けるだけの乗り物をどんだけ作っていけるかやなと思いますね。じつはそのビジョンっていうのは、3rdアルバム(『4REST』)……4thアルバム(『TWISTER』)くらいからかな、見えてた扉やったんですよね。こういう未来が待ってないと俺らはどっかで消えるやろなと思ってたから。でもそれが、自分たちにできることなのか、そしてやりたいことなのかっていうのがまず重要だったのと、何よりそれがみんなに求められていることなのか、後々求められるものになるのか……これらはどれも揃ってないと成立しないことやと思ってたので。で、それには順序もあったと思うんですよね。そのことを3rd、4thくらいで気づけるタイミングがあって、その時点ではそこから10年かかると思ったんですよ。だからそこに到達するために何をせなアカンかというのがやっとそこから始まったんです。1本1本のライブ、1曲1曲のレコーディングで、スタッフに伝えることもあそこから始まったんです。その時からそうやって一つ一つやってきて、やっと……開いたんじゃないかなと思うんですけどね。


ーーここからの歩みが本当に楽しみです。


TAKUMA:「アンテナラスト」で僕らが劇的に変わるかと言えば、そういうことではなくて。だけど確実に変化を感じさせる展開をしていけたらいいなと思います。