ホッケンハイムリンクの1コーナーが、“上海スタイル”の「ROLEX看板」無人スタンドに一変。戦前から数えて今年90回目となるドイツ・グランプリが、ついにこうなってしまったのか。金曜とはいえ、これほど観客が少ないのは1970年から35回目のホッケンハイムF1で初めてのことだ。2年前は、3日間で9万5000人。メルセデスのニコ・ロズベルグが母国で初めて勝った2014年、インフィールドを囲むスタジアムに空席が目立った。ニュルブルクリンクと交互に開催されていた2012年は合計15万人、10年前に比べたら半分程度でも、それなりに盛り上がっていたのだが。
今月中旬からドイツでテロ事件が4件も連続発生、警戒レベルが引き上げられたままだ。GP開催にあたり、いままでにないセキュリティ態勢がとられ、こうした社会情勢も影響しているだろう。しかしメルセデス・チームが現在49戦42勝中で、ルイス・ハミルトンに逆転されたもののロズベルグはランキング2位につけている。チャンピオン争いの佳境を迎え、セバスチャン・ベッテルもフェラーリ色に染まって初お目見え。中堅ニコ・ヒュルケンベルグ、新鋭パスカル・ウェーレインも含めてドイツ勢は最多4人もいる。
ありえない空想になるが、ホンダが連覇を続けて、日本人がタイトルを争い、フェラーリを筆頭に4人のドライバーがいたら『MLBイチロー選手ブーム』のようなニュースになってもおかしくない。でも、そうはならないドイツ国内F1事情……。先日のイギリスGPシルバーストンとは雲泥の差で、ハミルトンが満喫したような「母国ファンのあと押し」など、ロズベルグもベッテルも体感できる雰囲気ではない。
21分の1のホーム、それでもロズベルグは良い流れに乗っていった。フリー走行1回目の開始49分で1分15秒517、2年前の自己ポールポジションタイムを1.023秒更新。セクター1~3すべて最速、その通過スピードもすべてトップ、100%のコンセントレーションを感じた。流れというものは自分で作っていかねばならない。フリー走行2回目もセクター1~3すべて最速でトップをキープ。このところトップタイムをマークできても、セクターごとにハミルトンと上下があったのに完全に抑え切った。
その流れはルーティンのロングランにも続き、スーパーソフトでもソフトタイヤでも安定持続性を保った。最近では一番完璧で、充実したロズベルグを見た気がする。タイヤのロックアップもトラックリミット・オーバーもハミルトンより少なく、ていねいに1周をまとめようと努力する気持ちが見てとれた。
あとは何気ないカメラへのリアクションの話だ。ロズベルグはカメラが近寄ると決まって何かサービス仕草をする。ハミルトンは、あまりしない。アロンソは、めったにカメラ目線などやらない。ライコネンはどうか、近寄るなと追い払うだろう。本当に自分自身が一点に集中していたら、チャンピオンたちは己の内に閉じこもる。その“リアクション”に我々は吸い込まれ、こちらまで緊張し、見とれる。
ロズベルグは金曜から良い流れを作れた。それを乱すことなく自分で保っていくこと。繰り返すが、脇目をふらず、まわりなど気にしない集中力を。それをホームグランプリの土曜と日曜に期待する。