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「眠っていたジャーナリストへの憧れが甦ってきた」 『ニュースの真相』監督インタビュー

2016年07月29日 11:51  リアルサウンド

リアルサウンド

『ニュースの真相』(c)2015 FEA Productions, Ltd. All Rights Reserved.

 アメリカの放送局CBSニュースのプロデューサー、メアリー・メイプスは、ジャーナリストのダン・ラザーがアンカーマンを務める報道番組で、ジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)の軍歴詐称疑惑を裏付けるスクープを放送した。しかし、保守派のブロガーが“新証拠が偽造である”と断じたことから、メイプスたちは非難の的となるーー。この、“21世紀最大のメディア不祥事”と言われる、2004年にアメリカで実際に起こった出来事を、当事者目線で描いた映画『ニュースの真相』が、8月6日に公開される。監督デビュー作にももかかわらず、ケイト・ブランシェットやロバート・レッドフォードら錚々たるキャストとともに作品を作り上げたのは、『ゾディアック』や『アメイジング・スパイダーマン』など、これまで10年以上脚本家としてキャリアを積んできたジェームズ・ヴァンダービルトだ。リアルサウンド映画部では、ヴァンダービルト監督に取材を行い、本作を手がけることになった背景や、デヴィッド・フィンチャーやローランド・エメリッヒら、これまで一緒に仕事をしてきた監督たちから受けた影響について語ってもらった。


参考:映画は人類史における一大犯罪をどう描くべきか? 『サウルの息子』の演出が投げかける問い


■「一番重要だったのは、エモーショナルなストーリーを伝えること」


ーーこれまで脚本家として数多くの作品を手がけられてきたあなたにとって、今回の作品は初めての監督作ですね。どのような経緯でこの作品を手がけることになったのでしょうか?


ジェームズ・ヴァンダービルト(以下、ヴァンダービルト):僕は昔からライターになりたいと思いながら育ったんだ。ただ、“書く”ということに関して、映画の脚本がやりたいのか、ジャーナリズムの記者をやりたいのか、当時はまだハッキリしていなかった。結果的に、ジャーナリストではなく、映画の脚本の道に進むことになったが、メアリーの自伝を読んで、僕の中で眠っていたジャーナリストへの憧れがまた甦ってきたんだ。メアリーの自伝は、僕が子どもの頃に目にしていたジャーナリズムと、現在のジャーナリズムが大きく変わったものになったということが、非常に興味深いと感じたんだ。それを映画という文脈で語ると、とても面白いものになるんじゃないかという具合にね。あの事件を境にして、アメリカのジャーナリズムはガラッと変わった。メアリーのストーリーは、まさにその瞬間を捉えていたんだ。


ーー確かに、インターネットやSNSなどの台頭により、ジャーナリズムのあり方は数十年前とは大きく変わっていますよね。この変化についてあなたはどう考えているのでしょうか?


ヴァンダービルト:ある意味では悪くなっていると言えるかもしれないが、ハッキリと言えるのは、ジャーナリズムがまったく違う形になっているということだ。これはアメリカに限らず、日本を含め全世界共通に言えることなんだ。そして、あの事件で最も大きかったのは、インターネットの台頭によって、アメリカにおける非常に重要なアンカーマンが引きずり下ろされ、それ以降、インターネットがジャーナリズムを先導しているということ。昔はみんな、きちんと編集された、ある種の語り口があったテレビのニュースから情報を得ていたけど、今はTwitterやGoogleなどから飲み込むようにして情報を得ている。その大きな変化は僕自身もすごく感じているよ。


ーーあなたが言う通り、今回の作品は、ジャーナリズムのあり方について考えさせられる内容ではもちろんあるのですが、登場人物の感情の変化や映像のダイナミズムなど、非常に映画的に作られている印象を受けました。


ヴァンダービルト:今回の作品において、僕にとって一番重要だったのは、まさにエモーショナルなストーリーを伝えるということだった。メアリーが辿った感情的な旅路みたいなものを、観客の皆さんにも味わってもらいたかったんだ。キャラクターに思い入れを持って、彼らに共感しながら観てもらいたかった。そのメインのゴールに向かってなるべく正直に描きつつ、ニュースはどうやって作られているのかを見せることができればいいなと思った。


ーーメアリー役のケイト・ブランシェットは見事にその役割を担っていましたね。彼女はどのような経緯で出演することになったのでしょうか?


ヴァンダービルト:僕は何年も前からケイトの大ファンだったんだ。彼女はあの世代の役者の中でも、最も素晴らしい役者の1人だと思う。この役は非常にドラマチックでありつつも、少しおかしなところがあったり、母性的な面もあったりする。それに加え、とても信憑性が必要なキャラクターでもある。ケイトは、そのような要素をすべて兼ね備えた役者だと思った。実は、ケイトに脚本を送ったのは、彼女が『ブルージャスミン』で2度目のオスカーを受賞した次の日だったんだ。正直なところ、ちょうど2度目のオスカーを受賞したばかりの彼女が、僕みたいな初めての監督の作品で、しかも政治的な映画に出てくれるとは思ってもいなかった。だから最初はダメ元でお願いしてみたんだけど、ケイトは非常に興味を持ってくれて、出演してくれることになったんだ。


ーーあなたはメアリー本人と9年来の付き合いがあるそうですが、ケイト・ブランシェットも実際に彼女に会って役作りを行ったのでしょうか?


ヴァンダービルト:ケイトとメアリーは何度も会って、長い時間を一緒に過ごしていたよ。ケイトはオスカー女優だから、この役をお願いした時、僕は好きなようにやってくださいと伝えたんだ。メアリー本人に会ってしまうと、演技の足枷になりかねないかもしれなかったからね。だから会いたいのであれば、会ってもらって構わないし、会う必要がないのなら、会わなくてもいい。どちらに転んでも僕は全力でサポートしますという感じにね。そしたら彼女は、メアリーにぜひ会いたいと言ってきたんだ。ケイトは実際に何度もメアリーに会って、Skypeで毎晩話をしていた時期もあったぐらいだよ。だから、メアリーの身振り手振りや、緊張した時の喋り方なんかが本当にそっくりなんだ。この映画を観てから、メアリーの映像をYouTubeなんかで観てもらうと、よくわかると思うよ。メアリーはそこまで有名人というわけではないから、本当はそこまで似せる必要もないんだ。でもケイトはそこまできっちりやってくれた。それは彼女の女優としての素晴らしい資質のひとつだと思うよ。


■「生涯に1本しか映画を撮れないとしたら、この作品を撮りたかった」


ーー『ゾディアック』や『アメイジング・スパイダーマン』、『ホワイトハウス・ダウン』など、10年以上脚本家として活躍してきたあなたが、このタイミングで監督をやろうと思ったのには、このストーリーに惹かれたこと以外にも何か理由があるのでしょうか?


ヴァンダービルト:いい質問だね。それにはたくさんの理由があるんだ。まず、非常に幸運なことに、僕は脚本家としてこれまで素晴らしい監督やプロデューサー、役者たちと仕事をすることができた。監督で言うと、デヴィッド・フィンチャーやピーター・バーグ、ローランド・エメリッヒたちだ。彼らのような素晴らしい監督たちと仕事をしていく中で、自分も彼らがやっているようなことをできるんだろうかということを思い始めたんだ。僕自身はもともとストーリーテラーになりたかったわけだけど、映画を監督することもひとつのストーリーテリングであるわけだからね。それを自分が楽しめるかどうかを試してみたいと思ったんだ。それと、メアリーのストーリーに非常に感動したことが大きい。周りを見渡してみても、1本映画を撮ったからといって、続けて監督ができるわけではない。結局1本しか監督できなかった人もたくさんいるわけだからね。もし僕が生涯に1本しか映画を撮ることができないとしたら、何を撮りたいだろうと考えた時、まさにこのストーリーで監督をしたいと思ったんだ。


ーーフィンチャーやエメリッヒはエンドクレジットにも名前が載っていましたね。


ヴァンダービルト:彼らは本当に素晴らしい監督で、今回の作品に関してもアドバイスをたくさんもらったよ。彼ら以外にも僕が尊敬しているたくさんの人たちからアドバイスをもらったんだけど、デヴィッドとローランドには、一緒にランチをしようと言って、2~3時間ほど一緒に過ごしたんだ。2人には聞きたいことがたくさんあった。僕はノートを持って行って、いろいろなことをメモしたよ。1番聞きたかったのは、“初監督作を手がけた時、何を事前に知っておきたかったか”ということだった。1人で部屋に閉じこもって頭の中でいろいろな想像をしながらストーリーを作り上げていく脚本の執筆とは違い、監督は、非常に大きな部屋で何百人もの人を前に仕事をしなければいけない。コミュニケーションやタイムマネジメントが必要になるわけさ。だから、まったく違う作業をするにあたって、どういう準備が必要なのか、僕は事前に入念に準備しておきたかったんだ。彼らからもらったアドバイスはすべてノートにメモしたよ。とても役に立ったし、助かった。彼らには本当に感謝しているよ。(宮川翔)