2016年07月29日 10:52 弁護士ドットコム
「日本は圧倒的な寄付後進国」。AERAに「日本に寄付文化根付かない理由『税金で十分。高収入でも生活に余裕なし』」と題した記事(ネット版は6月27日公開)が掲載され、寄付が進まない現状が紹介されていた。
【関連記事:マイナンバー開始でキャバ嬢「親や会社への身バレが心配」 逃れる手段はない?】
記事中に登場するCAF WARLD GIVING INDEXの世界寄付ランキングで、日本は145カ国中102位、先進国中では最下位だという。個人寄付総額の名目GDPに占める割合は、寄付先進国のアメリカが1.5%であるのに対して、日本は0.2%にとどまる。
AERAでは、子どもの教育費などがかさみ、生活に余裕がないことが理由の一つとして挙げられていた。日本では「公共」は国がやるものであるという意識が強いことを指摘する意見も掲載されていた。
ただ、日本でも2011年から「寄付金控除」の仕組みができて、寄付を後押ししているようだ。具体的にはどのような制度なのだろうか。また、日本で寄付を浸透するためには、何が課題となっているのか。久乗哲税理士に聞いた。
納税者が国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対し、「特定寄附金」を支出した場合には、所得控除を受けることができます。これを寄附金控除といいます。なお、政治活動に関する寄附金や、認定NPO法人等に対する寄附金、公益社団法人等に対する寄附金のうち一定のものについては、所得控除に代えて、税額控除を選択することができます。
控除を受けられる金額は、(1)その年に支出した特定寄附金の額の合計額、(2)その年の総所得金額等の40%相当額、のいずれか低い金額-2,000円ということになります。
2011年度の税制改正において、認定NPO法人等への寄附に関して大幅に緩和がされました。例えば、寄附金控除の対象となる対象の認定について、寄附金が総収入に占める割合が1/5以上でなければならないという要件が、(1)寄附金が総収入に占める割合が1/5以上、(2)各事業年度に3,000円以上の寄附を平均100人以上から受けること、(3)地方公共団体が個別に条例で指定すること、という3つの要件のうち、1つを満たせば良いようになりました。
また、パブリックサポートテスト(PST)基準を含む全ての要件を満たした法人のみ認定がされていましたが、設立5年未満の法人について、PST基準を満たさなくても、他の基準を満たせば税制上の優遇措置を受けることができる仮認定制度が導入されたことなどがあります。
さらに、所得控除のみだった認定NPOに対する寄附者への税制優遇も、認定法人・仮認定法人への寄附者は、所得税の所得控除に代えて税額控除を選択可能になりました。
確かに寄附金を活用すれば、国が助成をする代わりに国民が直接的に寄附をするということになりますから、国庫から公益性の高い機関への支出を減らすことができます。しかしながら、そもそも、日本での寄附金の税制上の扱いは、国庫収入を減らす悪しきものとして、その扱いは厳格に行われてきました。寄附という風土がなかなか定着しないのは、そういう歴史的な背景もあるのではないでしょうか。
また、寄附をするためにはある程度の経済的な余裕が必要だとも思われます。なかなか経済が上を向かないということも、寄附が根付かない理由ではないかと思われます。
政府も寄附の普及、活用のためにさまざまな取り組みをしていますが、なかなか効果は出ていない現状です。
【取材協力税理士】
久乗 哲 (くのり・さとし)税理士
税理士法人りたっくす代表社員。税理士。立命館大学院政策科学研究科非常勤講師、立命館大学院経済学研究科客員教授、神戸大学経営学部非常勤講師、立命館大学法学部非常勤講師、大阪経済大学経済学部非常勤講師を経て、立命館大学映像学部非常勤講師。第25回日税研究賞入選。主な著書に『新版検証納税者勝訴の判決』(共著)等がある。
事務所名 :税理士法人りたっくす
事務所URL:http://rita-x.tkcnf.com/pc/
(弁護士ドットコムニュース)