全日本スーパーフォーミュラ選手権では、マシン自体に独自の改良を施すことが禁じられているが、備品には各チームの工夫が見られる。ピットイン時に用いるジャッキは各チームの個性が表れるところだ。
言うまでもなくジャッキは、タイヤ交換をする際にマシンを持ち上げるために用いる道具だが、コンマ1秒を争うピット作業時間を少しでも短縮するため、クイックリリース機構を組み込むチームが多い。
SFで用いられるジャッキは、メカニックがマシンの下(フロントの場合フロントウイングの下面)に差し込み、取っ手を引き下ろすとテコの原理でマシンが持ち上がる仕組みになっている。問題はタイヤ交換が終わったとき、どのようにそのジャッキを引き抜くかだ。
最も単純な構造のジャッキは、マシンを持ち上げるときとは逆に、メカニックが取っ手を引き上げマシンを路面に下ろしてから引き抜く。実際にこうした単純なジャッキを用いているチームもある。
だが過半数のチームは、クイックリリース機構を組み込んだジャッキを用いている。これは、タイヤ交換が終わった瞬間に取っ手に仕込んだレバーを引くと、瞬時にジャッキが解放され取っ手を引き上げることなく引き抜ける状態になる仕組み。それで一体どれだけ時間が節約できるのかとは思うが、少しでも早くマシンをコースに戻すためなら、できることはすべてやるという意欲の表れであることは確かだ。
クイックリリース式ジャッキの中で、筆者独断の最優秀作品と決めたのがKONDO Racingのもの。クイックリリースレバーにリターンスプリングが組み込まれていたり、ジャッキを構成するリンクがメカメカしくて見ていて飽きないなどが評価のポイントである。
KONDO Racingによれば、クイックリリース式ジャッキには「良いところも悪いところもある。もし壊れたりうまく働かなかったりするとリカバリーができないからです」ということだった。確かにシーズン開幕戦ではクイックリリース機構のトラブルでマシンを持ち上げられずにピットインを長引かせてしまったチームがあった。
現在、どのチームもリヤ側はテコ式のジャッキを用いているので、クイックリリース式ジャッキのバリエーションはフロント側で確かめられる。ピットウォークの際、あるいはレース観戦の際、ぜひジャッキの様子も観察していただきたい。レースを闘っているのはドライバーだけではない。ピットクルーも智恵を絞りリスクを考えながら共に闘っていることがわかるはずだ。