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「こまねこ」がAmazonで生まれ変わった理由は?ドワーフ 松本プロデューサーと合田監督に訊く

2016年07月28日 18:52  アニメ!アニメ!

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「こまねこ」がAmazonで生まれ変わった理由は?ドワーフ 松本プロデューサーと合田監督に訊く
可愛い人形を使ったコマ撮りアニメーション『こまねこ』が、誕生から10年以上を経て、2016年夏に新たな姿になって登場した。『ワクワクこまちゃん(仮題)』(原題The Curious Kitty & Friends)が、2016年6月よりAmazon プライム・ビデオにてグローバル配信を開始した。
『ワクワクこまちゃん』は長さ12分の完全新作であるだけでなく、キャラクターデザインや演出も従来と大きく変わっている。こまちゃんのデザインはよりスリムに、表情は豊かに、さらにたくさんのセリフをしゃべりだす。ファンが見慣れた『こまねこ』と違った趣きだ。これまでにないこまちゃんの世界が広がる。
今回の配信となったパイロットシーズンは、Amazonが力をいれるオリジナル企画の事前マーケティングの意味を持つ。パイロットシーズンでの作品への反応を見ながら、さらなるシリーズの可能性を探る。
いまや世界中から番組企画が集まるAmazon プライム・ビデオ、そのなかでパイロットシーズン作品に選ばれるのは超難関である。世界的に人気の『どーもくん』でも知られる日本のアニメーションスタジオであるドワーフ(TYO)が、『こまねこ』を通じてこれを勝ち取った。
ドワーフは一体どのようにして、Amazon プライム・ビデオとのコラボレーションを実現したのだろうか。ドワーフの松本紀子プロデューサーと原作・そして今回もキャラクターデザインと監督を務める合田経郎さんにAmazonとのプロジェクトとは?なぜ新しい『こまねこ』なのか?のお話を伺った。

『ワクワクこまちゃん (仮題)』 
http://www.dw-f.jp/CUKI/

■ 『こまねこ』のテーマを子どもたちに向けて:
Amazon プライム・ビデオでの企画誕生の経緯

――まずは松本プロデューサーのお話になると思います。企画が立ち上がった経緯について教えていただけますか?

松本紀子プロデューサー(以下、松本)
私たちの作品では『どーもくん』が海外によく知られているのですが、日頃からもっといろいろな作品を作りたいと思っていたんです。国内だけでなく海外のメディアとも組めるといいなと、いろいろなパートーナーを探ってました。
日本ではいま海外の映像配信サイトが増えて「黒船が来た」と、でも私たちは4年も前からアメリカの仲間を通じて「これからは配信が来るよ」って言われていました。そうしたなかで、Amazonのキッズ向けコンテンツを作っているチームと知り合いになり、コマ撮りのアニメーションのシリーズを一緒にやらないかという話になりました。

――作品は『こまねこ』との話はその時からあったのですか?

松本
新しい作品も含めていろいろな企画を提案するなかで、彼らが「やっぱり『こまねこ』だ」と。作品の持つテーマを子どもに向けて、やりたいとの話です。そこでまずはパイロットを制作することになりました。

――『こまねこ』は、すでに海外でも人気が高い作品ですね。

松本
そうですね。特にフランスでは、子どもが観るのに相応しい映画の認定を受けて劇場公開されています。とても長く公開されていて、2009年に始まっていまでも上映されています。


――合田監督は、『こまねこ』で新たな作品と言われた時の感想はどうでしたか。

合田経郎さん(以下、合田)
フランスでは確かにヒットしたのですが、アメリカでは「『こまねこ』は子供には難し過ぎる、大人にはソフトだ」と言われていました。『どーもくん』は大人気ですけれどね。ですからアメリカのAmazonで『こまねこ』と言われた時は、「あれって?」と驚きました。
それと海外の映像配信会社が欲しがっている日本の作品は、ドラマやエッジの効いたアニメ、ヤングアダルトのものと思っていたから、ファミリーキッズ向けの『こまねこ』というのも驚いた理由です。

松本
アメリカのAmazonスタジオのプロデューサーは、私たちが日本人であるかどうかは関係なくて、『こまねこ』を作るスタジオということで見ていますね。

――アメリカでの『どーもくん』と『こまねこ』の違いはどこにあるのでしょうか?

合田
『どーもくん』は、キャラクターとしてデザインが気に入られたと思っています。『こまねこ』はどちらかというとアニメーションが主体で、アニメーションが好きな人の間で知られていて、同業者には人気でしたね。

――それが『こまねこ』がピックアップされた理由でしょうか。

松本
もちろん『どーもくん』の実績があってですが、キャラクターがあって、物語があるという作品が意外に少なかったのかもしれませんね。

――監督は、新作として『こまねこ』を作ることに気負いというのはありましたか?

合田
めちゃめちゃありましたよ。今もあります。『こまねこ』はずっと自分のなかにある世界観で作っていて、子どもはあまり視野に入れていなかったんです。ただ、僕は震災後ぐらいから子どもに向けて作品を作りたいなと思っていました。世の中には『羊のショーン』とか子ども向けのコマ撮りアニメーションはたくさんあるのですけれど、そうしたところの仲間入りをしたいなって。今回それがまさかの『こまねこ』で実現しました。
それと『こまねこ』はドワーフの代表作だし、コマ撮りだし、やらないわけに行かない。絶対成功させなければいけないぐらいの気持ちですね。



■ 『こまねこ』は無国籍で、時代も関係ない、ずっと残るもの

――今回はパイロットということですが、次の展開も用意されているのですか?

松本
用意はしたいけれど、必ずしも出来ると言えないのがまさにパイロットである理由です。Amazonではパイロットシーズンとして何作品かリリースしていますが、これら作品が限られた期間配信されたなかで、誰が観たかとか、何回繰り返しみたかなどのデータを見て、シリーズになるかがどうか決まるんですね。あくまでもシリーズになる可能性があるということです。

――ただAmazonで無料配信されれば、知名度も広がります。

松本
それは光栄なことですよね。今回のパイロットシーズンのラインナップを伝える海外のニュースでは、『こまねこ』をトップ画像に使ってくださっているものもありますから。海外の友人からは、そうしたニュースを見て、「おめでとう!」とも言われました。

――今回の『ワクワクこまちゃん (仮題)』 は、これまでのドワーフさんの海外に向けた努力の結果のひとつだと思います。そもそもドワーフさんが世界に作品を出されるのは、どういったきっかけだったのでしょうか?

松本
2007年にニコロデオンを通じて、『どーもくん』がテレビ放送されたのがきっかけです。ニコロデオンのネットワークと、それ以外の方法も含めて世界170以上の国と地域に放送されました。
アメリカは日本より少し先を行っていて、ウェブ上でキャンペーンをやるとかも早かったですね。インターネットに乗って『どーもくん』がアメリカでどんどんスターになっていくのも体験しました。『どーもくん』には、いろいろとアメリカについて教えてもらいました。


――ドワーフの作品が海外でどんどん人気になっているのですが、監督は作品に、日本を意識しているのでしょうか、あるいは海外を見据えてでしょうか。全く国境を考えないのもあると思います。

合田
『どーもくん』と『こまねこ』ですと、ちょっと違いますね。『どーもくん』では、日本的なものは意識はしています。海外のフェスティバルで短い作品をたくさん上映した時に、カナダの人がやってきて「日本の俳句のようだね」と言ってくれたのです。短くて、季節があって。日本的でないところもありますが、日本的なところを強みにしたほうがいいと思っています。
『こまねこ』はむしろ無国籍でありたいなと思っています。時代も関係ない、ずっと残るものでありたいなと。

――少し遡りますが、そもそも『こまねこ』はどのようなかたちで誕生したのですか。作品は、キャラクターと物語、どちらが先に生まれたというのはありますか。

合田
作品によって違うのですが、『こまねこ』は全体がいっきに出来るかたちでしたね。『どーもくん』がつづく中で、同じチームで「何か別の作品を作りたいね」と言っていたんです。その時に松本(プロデューサー)が楽しそうな話しを持ってきました。それが『こまねこ』です。
『どーもくん』ではキャラクタービジネスに触れたのですが、今回はちょっと違うものをやりたいなと思って、キャラクターが立つというよりはストーリー全体で印象に残るものにしたい。そこでストーリーと世界とキャラクターを一気に作り上げました。キャラクターはむしろ特別な感じでなく、素朴で、じんわり来るのがいいかなって。

――キャラクターアニメーションは世界的にもとても競争が厳しいのですが、そのなかで『こまねこ』も、『どーもくん』もとても存在感あります。

松本
それはラッキーもあるとは思うんです。みんな海外でやりたいと思っているわけですから、そう簡単でありません。もちろん、私たちも簡単ではありませんでした。
ただ、「私たちが海外にでていかないと」という気持ちがあって、千本ノックみたいに提案をして、今回はAmazonに出会いました。


■ 日本語の『こまねこ』と、ローマ字の「Komaneko」で別の楽しみ方を

――今回の作品は、キャラクターデザインも変えて、ストーリーもより子ども向けにしています。

合田
『こまねこ』をアメリカナイズドさせたり、子ども向けにセリフを話させたりですとかいろんな調整が必要でした。その部分では悩んだりしました。ただ、作品の向こうには子どもたちがいて、これを観て「可愛い」とか「楽しい」とか言うかもしれないと想像して、それを心の頼りにひたすら作りました。

――これまでの作品とはここが違う、ここが観て欲しいというのはありますか。

合田
これまでのファンはとっても驚くと思います。こまはとってもしゃべりますしね。そのセリフのおかげで分かってくれる子どもがいるかもしれませんし、とってもフレンドリーなので、そこを楽しんでもらえるといいですね。
日本語の『こまねこ』と、ローマ字の「Komaneko」は違うキャラクターなんです。別の楽しみ方をしてもらえるといいですね。それぞれのいいところを観ていただけると。

――プロデューサーからはいかがですか?

松本
顔が変わったとか、目が大きくなったとか、オリジナルのファンのかたはびっくりしていると思います。デザインを変えること、こまをしゃべらせるかどうか、合田はとても悩みました。ビジネスサイドの私でも、やはり一緒に育てきただけに同じように悩みました。
ただAmazonの人たちは「『こまねこ』のクリエイティブなところがいい」と言うんです。つまりコマ撮りをするネコ、映画を作るキャタラクターです。今回もこまは映画を作って、お友だちを作る。映画を作るのが『こまねこ』の魅力だと、アメリカのプロデューサーたちが話しました。ただ可愛いキャラクターのアニメーションを作ればいいだけじゃなくて、「大人に対しても、子どもに対してもメッセージを伝えたい」と言ってくれたのがうれしくて、「あっ、これは一緒にできるな」と思ったんです。

――それは逆に見どころでもありますね。

松本
『こまねこ』が持っている根っこの部分は同じで、それを子どもたちにわかりやすく伝えています。映画を作るのは楽しさが子どもに伝わるといいなと思っています。
世界観ですとか、キャラクターデザインやお話はガラッと変わっていますが、ターゲットをしっかりと子どもたちにして、考えに考えてやってみました。それを見届けて欲しいですね。私にとっては、これまでの作品も今回の作品も、どちらもかわいいものですからね。