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坂本慎太郎がたどり着いた“答え”「僕が作りたいような音楽を自分で作るのは不可能」

2016年07月28日 18:11  リアルサウンド

リアルサウンド

坂本慎太郎

 坂本慎太郎が、ソロ3rdアルバム『できれば愛を』を7月27日にリリースする。前作のソロ2ndアルバム『ナマで踊ろう』は、「人類滅亡後に流れている常磐ハワイアンセンターのハコバンの音楽」というテーマを担っていたが、今作は「夏休みの最初の日の朝っぽいアルバム」を目指し、自分の“声”と向き合った、ポップでシニカルなダンスレコードに仕上がっている。今回のインタビューは、前回【坂本慎太郎はなぜ“人類滅亡後の音楽”を構想したか「全体主義的なものに対する抵抗がある」】に引き続き、聞き手に音楽評論家の小野島大氏を迎え、前作以降に起こった変化や今作の制作プロセス、さらには坂本自身のポップス・ロック論まで語ってもらった。(編集部)


・「鋭い音を一切排除して、中域の密度を重視した」


ーー今回も大変面白いアルバムでした。


坂本慎太郎(以下、坂本):あ、ほんとですか。ああ……(反応が薄い)。


ーーははは……前作から2年。順調なペースのリリースと言えると思います。今作の構想は、いつどんな形で始まったんでしょうか。


坂本:前のを出して落ち着いてからなんとなく……2年ぐらい前からですね。最初は……「夏休みの最初の日の朝っぽいアルバム」を作ろうと思って。友だちに言ったら「気持ち悪い」って(笑)。50歳前のオヤジが夏休みとかキモチ悪い、と。


ーーワクワクするような楽しいアルバムを作りたいと。前作は「終わり」を意識したような終末論的な重いアルバムだったので、次は違うものにしようと思ったということですか。


坂本:ああ、前回は自分でもシリアスで、ちょっと恐ろしいアルバムを作っちゃったというのがあって。周りの友だち数人にも「怖い」と言われて(苦笑)。次はもっとハッピーなアルバムを作ろうと思ったんですけど、それはけっこう早めに挫折しました。楽しげな感じにしようと思ったら、やればやるほど重くなって、結果的に前回のよりも重いんじゃないかってものができて、そこは自分でもびっくりしてますね。


ーー明るいポップなものを作ろうとして挫折したというのは、曲がうまく書けなかったということですか。


坂本:いや、曲は意外とうまくできたなと思ったんです。歌詞も録音もうまく行ったんですけど、全部ちゃんとやったらすごく楽しげになるかと思ってたら、できあがったものを聴いたらものすごく重かったという(笑)。


ーー作ってる段階では明るく楽しいものだったけど……。


坂本:いや、途中からちょっと様子がおかしいなと思ったんですけど(爆笑)。前よりシリアスな感じになっちゃった。


ーーなぜそうなったんですか。


坂本:わかんないです。こっちが訊きたい(笑)。結局ヴォーカルで決まっちゃうから、どんなに明るいポップな曲を作っても、僕が歌うと思ってるようなものにはならないと早い段階で気づいて、諦めたんですけど(笑)。そうしたらやっぱり重くなった。結局声に全部の情報が集約されるから。今さら何も考えてないような素っ頓狂な声とか、どうやっても歌えない、ということですね。60年代のガレージ・パンクとかすごい好きなんですけど、あれって子供が歌ってるからああいう感じになるんであって、サウンドや歌い方を真似ても、オッサンが歌うと、あのきらめきみたいなものは絶対出ないと思うんですよ。


ーーそういうガレージ・パンクのきらめきみたいなものがやりたかったんですか。


坂本:というかフレッシュで飛び出してくるみたいな印象のものをやりたかったんです。歌詞とか歌の内容じゃなく、演奏と音の質感みたいなのが飛び出してくるみたいなのにしたかったんですけどね(苦笑)。


ーー今までご自分のヴォーカルってどう捉えてたんですか。


坂本:まあ今までも同じように捉えてましたけど、そこまで深く考えてなかったというのもあるし、やっぱ超えられない壁っていうのを感じましたねえ。


ーー(笑)超えられない壁、ですか。今回もバンド・レコーディングで、メンバーも前作同様、菅沼雄太(ds)、AYA(b)とのトリオ編成が基本。作り方としては前作の延長線上にあるということでしょうか。


坂本:そうですね。家で簡単なデモテープを作ってメンバーに渡して、そこから半年ぐらい練習したんですけど。その間に歌詞を作ったりして固めていって。


ーー今回サウンド面での狙いはどういうものだったんですか。


坂本:今回は音数が少なくて、でも一個一個の音はすごく太くて。鋭い音を一切排除して、中域の密度を重視して。石とか木とか動物の皮みたいなものだけでできている、木彫りの置物みたいな、そういう感じのものが飛び出してくる。そういうイメージだったですね。


ーー今回の資料には<「顕微鏡でのぞいたLOVE」という分かりにくいテーマのもとに制作された>とあります。


坂本:ああ……(深いため息)


ーー(笑)説明が面倒臭そうですね。


坂本:かなりややこしい話になっちゃうんですけど……朝起きて、「ああ今日から夏休みだ」と思って。「まだ寝てていいんだ」って思う。その思った瞬間を引き延ばしたような音楽があったらいいんじゃないのかなと。夏の想い出とか青春とか、そう言うのじゃなくて、今日から夏休みだって思った、そこだけを取り出したような。


ーー解放された喜び、楽しい気持ちだけが永遠に繰り返されるような。


坂本:あとはほら、ケガするじゃないですか。ケガしてずっと痛いんだけど、ある時ふと気づいたら、「あ、痛くなくなってる」みたいな。その気づいた瞬間、「あっ」と思った時間を引き延ばしたような音楽があれば。


ーーワクワクするような感じとか、ほっと安堵したような感じ。


坂本:うん、それと似たような感じになるんじゃないかと思って。でもそこに前後のストーリーとか感情の流れとかなくて。その瞬間の感覚だけを抽出する。実際レコードでもそういう感じがする曲ってあるんですよね。


ーーたとえば?


坂本:あまり言わないですけど……ガレージ・パンクの曲とかでもあるんですよ。


ーー坂本さんがそういう気持ちになる曲。


坂本:そう。だからそういう曲を自分でもやりたいなって思ったんですね。ケガしたところが痛くないっていうのは、自分が寝てる間に免疫細胞みたいなものがキズを治してるわけじゃないですか。そういうのをあえて「LOVE」と言いたい、みたいな。


ーー「FUN」じゃなくて「LOVE」なんですね。


坂本:そうですね。なんかこう……恋愛とかLOVE&PEACEとかスピリチュアルな感じとか人類愛とか、そういうでかい感じの愛じゃなくて、ミクロの方向。自分の悪いところを免疫細胞が治してたとか、汚染された土地をバクテリアが浄化してたみたいな。そういうイメージの「LOVE」なんですけど。


ーーそれをどうやって曲に置き換えていったんですか。


坂本:(苦笑)それが説明できなくて。こういう感じになっちゃうんですよね。飲み屋で言ってもあんまり賛同を得られないっていうか(笑)。


ーーわかるわかるって言ってもらえない感じ。


坂本:そうですね。自分でもよくわかんないんでね、なんとなくイメージはあるんですけどねえ……それがこういうサウンドになるんですよ。中域に密集してて、出たり入ったりしてるみたいなイメージ。生きものが動いてるみたいな。


「自分の音楽が溶け込んでいたりする世界もあると思う」


ーー楽曲はすごくポップでキャッチーですらあるけど、坂本さんの歌や声などもあって、脳天気なポップスには聞こえない。諦念とか空虚感とか無力感とかを感じる。1曲目の「できれば愛を」とか、いきなりぐぃっと本質を抉られるみたいな怖さがある。


坂本:そうですねえ……なんかそうなっちゃうんですよね。そうするつもりもなかったのにこうなってしまったんですけど。そもそもそういったようなものがどうやったら作れるのか、どういう音楽が自分が思っている感覚に合致するのか、そもそも果たしてそんな音楽があるのか、っていうところが怪しいんで。ずっと探りながらやってたんですよ。前回は歌詞が大きかったんですけど、今回は歌詞で説明できるような世界観じゃなくて、音の質感とか存在感みたいなところが重要だった。だから僕の感覚でしかなくて、答えがあるわけじゃない。だから難しかったですね。


ーー今回は、さっきおっしゃってたような中域に密集した感じの音の質感に変えてきた。


坂本:そうですね。それとドラムの録り方とかも変えて。今回は部屋鳴りとかも一緒に録って、その場で演奏してる感じを出したんですけど。


ーーライヴ感ということですか。


坂本:前は意識的にそういうのを排除して、生演奏なんだけど、そこに人が集まって演奏してる感じにならないように録ったんですけど、今回は演奏してる感じを出そうとして。


ーーなるほど。しかし躍動感があるとか、エネルギッシュとか、そういう演奏でもないですね。


坂本:ええ、そこはシンバルを使わないとか、テンションあげて演奏しないとか。そういう縛りを設けて。


ーー半年間のリハーサルは主にどんなことをしていたわけですか。


坂本:主にノリの部分ですね。遅いテンポで微妙に……グニャッとしてる、みたいな。(笑)まあまあきっちりしてて、適度にグニャッとしている感じというか。


ーーそういうノリを出すということに関してはうまくいったわけですね。


坂本:そういう演奏で音が少ないやつを、古い機材とか古いマイクを使って、太い音で録る。その場で演奏してるような感じで録ることで、イメージしてる「免疫細胞が寝てる間にキズを治してくれるような感じ」になるんじゃないかなと。


ーー生命のエネルギー、というようなことですか


坂本:そうですね。ある種の。わかりやすい感じじゃないですけど。


ーーええ。


坂本:そうやって作っていって、自分が目指す方向においてそのつど自分がベストだと思う選択をして突き詰めて、結果思った通りのものができたんですけど、その思った通りのものがもっと明るい印象のものになるかと思ったら、明るくなかった、ということなんです。


ーーなるほどねえ。


坂本:でも今回のは自分でもよくわかんない感じがするんで、そこまで行けたのかな、というのはありますけどね。


ーーわかんない感じがするから、「行けた」って気がする、わけですか。


坂本:はい。これ何なんだろうな、っていう。一応この曲ができて最後まで作ったけど、いざできて聴いてみたら、ところで一体これは何なんだろう、みたいな感じが自分でもある。それは自分の中ではいいことなんですけどね。


ーー自分でも説明できないようなものができてしまった。


坂本:うん。部屋にこもってひとりで作業して、レコーディング・スタジオでずっとやって、突き詰めて作って、できあがったら、世の中にあるものとはすごく違和感のあるものになったのかな、という気がします。


ーー世界になじめない感じというのはすごく伝わってきます。


坂本:でもある種のレコードには馴染むんですよ。今世の中で流れてるような音楽やラジオやテレビで流れてるような音楽とは違和感があると思うんですけど、違うところに行くと自分の音楽は溶け込んでいたりする世界があると思うんですよね。もうロックだかなんだかよくわかんないものっていうか……。


ーーあ、そこでロックという言葉が出てくるんですね。前回のインタビューでは、ロックに対する絶望感というか違和感というか距離感を語ってましたけど、今回はどうだったんですか。


坂本:今回は……自分でかっこいいと思えるロックをやろうとしてこうなったんですけど。


ーー前回の時はロックの集団熱狂みたいなものがいやで、そこから離れようとしている、ということをおっしゃってました。


坂本:ああ、それは変わらないですね。自分の思うかっこいいロックってそういうものじゃない、ということなんですよ。もっと個人的なものだったりするから。やっぱりロックって若さと切り離せない。その本質に「若さ」というものがあると思うんです。自分がこれぐらいの歳(49歳)になって、もう若くない。でも若作りしてやり続ける人もいるじゃないですか、気持ちの面でも。そうでなかったら「あの頃は良かった」というノスタルジーになっちゃう。若いころを思い出すみたいな表現。その二択じゃない表現が、なんかあるんじゃないかと思って。


ーー坂本さんは昔からあまり変わらないイメージがありますけど、年齢を意識することはあるんですか。


坂本:ああもう、カラダがだるくなってきたり、いろんなとこが痛かったりするんで。そこでさっきの「顕微鏡でのぞいたLOVE」の話に戻るんですけど、ケガをしても歳をとってるから治りは遅いけど一応治る。爪も伸びるし、髪の毛も髭も伸びる。そこだけ見ると、何かが生まれているんじゃないか。そこから「どうしてこうなった、その後こうなった」という物語性を排除していけば、なんか糸口があるんじゃないかなと、そういう妄想をずっとしたりしてました。


ーー老いていく自分の中に残っている生命力みたいなものですか。


坂本:そうですそうです。そこに物語性とかいろんなものがついてくるとカッコ悪いなと思って。たとえば歴史……生きてきた歴史とか、情緒みたいなものとか、感情とか。そういうのを排除して、爪が伸びる、とか、ケガが治る、そういうところだけにフォーカスしたような印象のロックのアルバムができないものかと。それがさっきから言ってる、中音域で録るとか、ドラムをナマっぽく部屋鳴りで録るんだけど熱狂しないとか、全部繋がってるんです。でもあまりにもわかりにくいところに行きすぎてて、はたしてこれが共感を得られるんだろうかっていうとね……。


ーーうーん……


坂本:ただ、こういうロックがあったらかっこいいし、そういうことを考えて曲を作ってる人ってほかに知らないので、自分がやる意義があると思ってます。それが自分がやる動機、原動力にはなりますよね。


ーーキズが癒えるとか髪が伸びるとか爪が伸びるとか、そういうエネルギーがある限りは若さが残っていると。


坂本:いやいや、普通に考えたらそうは思わないと思うんですけど、そこになんとか活路を見いだせないかと思ってただけで(苦笑)、普通に考えたらアタマおかしい理論だと思うんですよね(笑)。逆に賛同された方が困るっていうか。


ーー(笑)共感されると困ると。


坂本:共感されてもおかしいと思いますけど(笑)。そんなわけないんで。


ーー共感を拒否するんじゃなくて、されるはずがないという諦念。


坂本:でもそう思いますよ。こういう発言して相手から「いやあ。そうですよね!」なんて真顔で言われたらおかしいでしょ(笑)。「わかります」なんて20代の子に言われたら。


ーーふむ。でもそこが坂本さんの表現にとって一番の肝というか大事なポイントで。


坂本:ああ、そうなんですよ。結局無理なんですよ、永久に。僕が作りたいような音楽を自分で作るってことは不可能で。それはもう、前から薄々わかってるんですけど。追求すればするほどそれは無理だってことがどんどんはっきりしてくる、という繰り返しですね。


ーー不可能、とはどういう意味でしょう。


坂本:そういうのを意識して作ろうとしてる時点でもう、無理なんですよ。つまり、自分がこういうのがあったらいいなと思う音楽って、大抵(アーティストが)なにも考えないで作ってるものだから。でも僕は意識して考えて作ろうとしてる。だから目指せば目指すほど遠ざかっていく、という。


ーー昔からそういうジレンマを感じていたわけですか。


坂本:ああ、もうそれだけですけどね。たとえば黒人音楽が好きで、黒っぽいノリが出せるように練習したり音を作ったりして、本物みたいにできるようになるとか、そういうベクトルじゃないんです、狙ってるところが。完成度を高くしていくとか、お手本に近づけるとかね。この……非常に説明しづらい「いい感じ」というのがあって、好きな曲とかレコードに。その「いい感じ」というのを目指してるんだけど、やっぱね、それは無理なんですよね。


ーーうーん。


坂本:僕はね、ふだんからずっとレコードを買い続けてるんですけど、それって自分の中でのいい曲を集めてるという意識なんですよ。聴いたことのないいい曲を集めたい、という。いろんなジャンルのものを買うんですけど、共通する「好きな感じ」というのがあるんですよね。それを説明するのは非常に難しいんですけど、自分が買いたいと思うようなレコードと同じようなものを作りたい、というのは曲を作ったりレコーディングをする原動力なんですが、それはそもそも、その時点で無理だっていう。


ーーつまり好きなレコードと同じようなものを作りたい、というのは別にサウンド的に同じようなものを作りたい、ということではなくて。


坂本:そうですそうです。


ーーその曲から受ける印象とか、わき起こる感情と同じものを……


坂本:そう。自分の作品もそういうものが感じられるようなものにしたい。だけど、そういう作品って目指した時点で、その印象には辿り着けない。それはとっくにわかってるんですけど、でもやっぱり「次はもっとできるんじゃないか」っていう思いが常にあって。それだけが「新しい曲を作りたい」という気持ちに繋がっているんですよ。聴いたことのない新しいリズムを発明しようとか、もっと複雑なアレンジにしようとかそういうんじゃなくて、「説明しづらい、このいい感じ」っていうのをなんとか出したいんですよね。


ーーでもそれは永遠に正解がない世界ですよね。自分が何を感じたかが大事であっても、自分の音楽を客観的に聴いて感想を持つことはできないし、といって他人の感想で何を言われたところで関係ないし。


坂本:そうですね。そこで今回決定的にわかったのは、さっき言った声の問題なんです。人間の声ってすべての情報が入ってると思うんで、声聴いただけで感じると思うんです。ほんとに何も考えてない声なのか、そういう風に狙って出してる声なのか。バカに見せてるけど実はすげえ鋭いとか、ほんとにマヌケな声とか。自分で歌うと自分の中のものがどうしても全部出ちゃうから。


ーーでもご自分の声で歌うことを想定して曲も書くしサウンドも作っていくわけですよね。


坂本:はい。でも本当は、今回できたこの曲を、オレがいいと思う声のヴォーカルで歌ったら、もっと思ってたものに近づいたかもしれない。もっと軽さとが出ると思うんです。まあ逆もあると思いますけど。


ーーそんなこと考えるんですか。私たちから見たら、坂本さんのこの声があるからこその世界、としか思えないですけど。


坂本:そう、だから、そこから絶対逃れられないってことであって。自分はそこから飛躍したいという気持ちはあるんですけど、まあ絶対無理なんですけどね。


ーーそれは声質の問題ですか。


坂本:声、というか経験ですよね。経験を積んだ声なんですよ。それは悪いことじゃなくて、経験を積まないと出ない説得力とか存在感に繋がるのかもしれないけど、僕がレコードを聴いて感動するのは、そういうんじゃないんです。もっとこう……本人が何をやっているのかもわからずに、たまたまできたものがすごいいいとか、そういうもの。そうするともう、無理じゃないですか、自分で作るの。


・「もっと思想的なものとか、すごく刹那的な感覚を表現したい」


ーーなるほどね。そうすると、自分がキャリアを積み、経験値を得て、スキルを磨き、音楽的に向上していくことは坂本さんにとって、どういう意味があるんですか?


坂本:あ、オレにとってはないですね。


ーー(笑)ありませんか。


坂本:ないですね。まああまりヘタでも困りますけど。今回バンドで練習してる時も、「文化祭とかで出てるギャルバンみたいな感じの気分でお願いします」って言ってたんですけど(笑)。ドラムの人(菅沼雄太)に「曲がそもそも文化祭やギャルバンの曲じゃないので難しいです」と言われて(笑)。「そこをなんとかお願いします」って言って(笑)。でもすごくかっこいい感じになったんですよ。ベースも余裕で弾くんじゃなくて一生懸命追いかけるみたいな感じで、ドラムも一個一個確かめながらやってる感じで。それはかなり出てるんじゃないかな。


ーーなるほど。でも坂本さんも長いキャリアを積んでスキルを否が応でも身につけているだろうし、そこから逃れられない、というのはあるんじゃないでしょうか。


坂本:ああ、でも、最近は練習不足と老化でリアルに指が動かなくなってて。


ーー(笑)いやいや、そんなこと言わないでください。坂本さんがロックをやっているつもりだという発言はちょっと意外だったんですけど、もうロックを諦めてるというか、そういう諦念から出発してるのかな、という。


坂本:いやいや。世間でいうロックってものに対する解釈も扱いも……間違っているとは言いませんけど……みんながぼんやりとイメージするロックってすごく古臭いものであったり、もしかしたら今のフェスに出てる若いバンドみたいに、エレキギターを持ってバンドでやってればロックみたいなイメージがあるかもしれないですけど、でも古びなくて、かつかっこいいやつってやっぱりあるわけで。そのエッセンスを抽出して今までもやってきたつもりなんですけど。そこのみこだわってるという感じで。そこで歪んだギターとか激しいリズムとか、そういうのじゃないんですよね。もっと切実なものとスウィートなものが合体してるみたいな。


ーーさっきこの取材場所に来る前にカーネーションの取材(参考:カーネーションが喚起する、ロックの幸福な記憶 「こういう時代だからこそ、歴史にこだわりたい」)をやってきたんですけど、カーネーションの新作にはロックに対する信頼とか愛情が溢れていて、すごく楽しいアルバムなんです。でも坂本さんの新作はロックへの絶望とか不信とか諦念に満ちていて、一見ロックに背を向けているようにも聞こえる。でもどっちも私にとっては刺激的だし面白い。今坂本さんと話していたら、ロックのとらえ方や向かう方向は対照的だけど、ロックに対する執着とか、逃れられない業みたいなものが、どちらにもあるのかなとは感じました。


坂本:それはあります。でもさっきも言ったように、それはサウンドじゃないんですよ。もっと思想的なものとか、すごく刹那的な感覚だったりする。自分はそこに注目してレコードを聴いているし、その感覚は自分の中のものだから好みでしかないんですけど、それを自分でもやりたい。けどそれは追えば追うほど逃げるものだから無理なんだけど、でもロックの一番すごい、純化されたものの中にはそういう感じって確実に存在してると思うんですよね。


ーーその感覚は共有されてるという実感はありますか。


坂本:どうですかね……言語化しづらいものだけど、明らかに音とかニュアンスとかに出てくるものだから、共感してくれてる人はいると思います。ただ自分が作るとなると難しい。追い求めても追いつかない。


ーー追いつかないとわかってても、追い求めなきゃいけないってことですよね。


坂本:そういうことなんですよ。それがないと別に曲作る意味ないですもんね。世の中にこんなに一杯曲があるのに、わざわざ自分が作る意味が。昔のレコードでいいやつ一杯ありますからね、既に(笑)。


ーーそういう風に思って音楽を辞めちゃうミュージシャンもいるかもしれないですね。


坂本:たぶんね、つまんなくなっちゃうと思うんですよね。自分が作るものが、過去に聴いたことあるものに聞こえて。僕も一時期ありました。何聴いてもつまんなく感じるというのは。だけど曲がつまんなくてもいいやつってあるじゃないですか。なんも凄いことしてないのに、すごくいいとか。そのへんに注目していくと、限界がないんですよ。


(小野島大)