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『HiGH&LOW THE MOVIE』の“集団戦”はいかに生まれたか? アクション監督・大内貴仁が語る

2016年07月24日 12:21  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2016「HiGH&LOW」製作委員会

 複数のメディアやエンタテインメントを巻き込み展開する一大プロジェクト『HiGH&LOW』。そのひとつ、映画『HiGH&LOW THE MOVIE』が公開中だ。同作ではドラマ版から引き続き、三代目J Soul BrothersをはじめとしたEXILE TRIBEや若手実力派俳優が一堂に会し、さまざまなチームが割拠するSWORD地区での抗争がアクションたっぷりに描かれる。作品規模の大きさもさることながら、同作注目のポイントは、日本映画史に類を見ないほどアクションに特化した映画であるということだ。なぜ、あえてアクション大作なのか? 『るろうに剣心』ではアクションコーディネーターをつとめ、ドニー・イェンら世界の最前線で活躍するアクションスターと現場をともにしてきた、『HiGH&LOW THE MOVIE』アクション監督・大内貴仁氏に聞いた。


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■アクション監督の役割とは?


――一般的には知られていないと思うんですが、アクション監督とは現場でどのくらいの権限を持っているものなんでしょう?


大内貴仁(以下、大内):日本におけるアクション監督像は、人によっても違うし、作品によっても違いますね。アクション監督はアクションシーン全体を構築するのが仕事だと思っています。


――具体的には、どのような流れでアクションシーンを作っていくんでしょう?


大内:ぼくの場合は、まずアクションシーンごとのおおまかなイメージを作って、そこに取り入れる要素を考えていきます。例えばワイヤーなどを使った派手な演出を取り入れるとか、このシーンは特殊なカメラワークで魅せるとか。細かい部分でいえば、バトルスタイルのイメージとかも含めて具体的にアクションを構成していきます。もちろん監督とも「こういうイメージはどうですか?」と話をします。その後Vコンテ(※本番での撮影方法や立ち回りを確認する仮の映像のこと)を作成して、それをまた監督に見せる。さらにその中で、調整が必要か必要じゃないかといったことを話し合います。まあ、たいてい「もうちょっと短いほうがいいですね」と言われるんですが(笑)。


――やりすぎちゃうんですね(笑)。


大内:そうかもしれませんね。まぁでも、そう思われるくらいじゃないといけないのかなとも思っています。久保監督とは三代目 J Soul BrothersさんのPV“S.A.K.U.R.A”でご一緒していたのがよかったのかもしれないです。こちら側の作り方をある程度理解してくれたうえで『HiGH&LOW』に声をかけてくださっていたので。


――大内さんの理想を理解してもらえる現場だった、と。


大内:理想とするアクション監督像にはまだまだ程遠いですが、少なくともこれまでで一番近いかたちでやらせてもらえたんじゃないかなと思います。


――一般的にはアクションと思われていないところでも演出されているんですね。


大内:今回のように大きな規模の作品だと、撮影中に監督に毎回確認する時間がなかったりするんですよね。監督がドラマシーンを撮っている時に、同時進行でぼくたちアクション部はスタジオで別シーンのリハーサルをやっていたりする。だからアクション前の導入の芝居や立ち位置とかは仮でこちらで作って監督に提案したりしていましたね。個人的にはアクションの導入部分のお芝居、アクション中の仕草や表情に至るまで演出することがアクション監督の仕事だと思っているので。


■100対500、集団戦の長回し 大規模アクションはどうやって生まれたのか


――ドラマも映画も集団戦がすごい迫力でした。例えば、ドラマ版の鬼邪高校や達磨一家のエピソードでの、ワンカット長回しの乱戦シーン。なぜこういうアクションをやろうと思われたんですか?


大内:逆に時間がなかったからですかね。例えばアクションはカットを割るとすごくがんばって(撮影時間が)15分でワンカット。その15分の中には準備の時間も含まれていて、動きを説明して、テストして、OKが出るまでで15分の計算。どれくらい時間がないか想像つきますよね? 1時間で撮れるカット数はわずか4カットです。例えばアクションの時間が2時間に限られていて、8カットしか撮れない状況で、記憶に残るようなアクションにするというのはほぼ不可能にちかいと思うんです。それなら2時間かけてワンカットを撮って、それを記憶に残るようなカットにしようってことです。逆転の発想ですね(笑)。


――絶対的な時間が限られていたんですね。


大内:もちろん、どの作品のどの現場にも制限や限界っていうのはあります。ただそれをマイナスに考えるのではなくて、『HiGH&LOW』でしかできない世界観や、エネルギーのようなものを映像で表現したいと思っていたんです。それは多人数のワンカットアクションもそうだし、ガラス瓶を大量に使った攻撃をしたり、火の棒を使ったアクションだったり。シーンごとにテーマをおいて他のシーンとの変化をつけたかったんです。


――物理的にもかなりハードな撮影だったのでは?


大内:『HiGH&LOW』では、「これくらい求められてるだろう」「このくらいしかできないだろう」というところの、もう一つ上を目指すようにはしていました。例えば、予算があってもキャストのスケジュールが取れなければ練習が出来ない。すごい長回しを作っても、キャストに伝える時間が1日、2日しかない。そうすると「やめとこうか」ってなるじゃないですか。そこをあえて「やってみよう!」と。できるかできないか微妙なラインにチャレンジしていくというか。だから当然アクション部やキャスト、スタッフの負担も大きかったと思います。キャストも「これ、今日1日で撮るんですか?」と、練習中に苦笑いされることも多かったです(笑)。それぐらい結構ぎりぎりのところで戦っていました。レギュラーのアクション部には、撮影終わりでもコンテ確認のために動いてもらって、それが夜中まで続くっていうのが当たり前になっていましたし。優秀なアクション部が揃っていたからこそ乗り越えられたっていうのはありますね。


――予算があるからもっと余裕があるのかと思っていました。


大内:よくそういうふうに思われます。低予算作品は予算がないけど、自由度も高い。この規模の作品になると何かしら意見も多くなるし、一つの変更点を伝えるだけでもに大作業になる。つまり、コントロールが難しくなるってことです。この規模の作品でギリギリを目指すことに意味があると思うんです。


――その最たるものが、映画での100対500のクライマックスシーンだと思います。


大内:ぼくもこれまでの作品で経験したことのない規模でしたね。実は、アクション作品で一番難しいと言われているのは“素手の戦い”なんです。


――なぜですか?


大内:刀のアクションは距離がとれて、見栄えする分ある程度は誤魔化せるんですよ。それに対して素手のアクションでは密な動きを慣れない人がすると、ごちゃごちゃしているようにしかみえない。よほどのスキルを持っているか、カメラ慣れしていないと難しいんです。だからこそ100対500のぶつかり合いは本当に大変だった。アクションに慣れていないエキストラさんたちがたくさんいる中で安全をコントロールしないといけない。しかも、その画をモンタ(※フライングモンタ。カメラをワイヤー4本で釣り、空中から俯瞰で自在に撮影できる機材)で撮ることになっていたんです。こんなワンカットのぶつかり合いは、ゲームでしかみたことないですから(笑)。モニター前にいるぼくよりも、現場で600人に安全の指示出しをするスタントマンたちのほうが大変だったと思います。本番見ているこっちはひやひやしましたよ。1人でもこけたら、将棋倒しになって大怪我につながるので。


■俳優の役作りとアクション監督の関係


――プロジェクトのコンセプトが“全員主役”なだけあり、本作ではそれぞれのキャラクターが個性的に作られていますね。各キャラのアクションも、久保監督とコミュニケーションをとりつつ作られたんでしょうか?


大内:監督とは事前に脚本の設定や衣装などから各キャラクターやチームごとの戦い方について話し合いました。「この人たちはこれくらいの強さで、こういう感じで戦わせたい」とか。今作はオリジナルの脚本ということもあり、ゼロから作る面白さっていうのはありました。ただ、キャラクターの数も膨大だったので、それぞれのバトルスタイルに変化をもたせるのも大変だったんです。個性を作っていく上で、言葉で表現できるバリエーションはなくなってくるんですよ。そういう意味で難しかったのは、ドラマSeason1の最後のほうに登場する達磨一家でしたね。そこに達するまでにかなりのチームの構成をしていたので、ネタがなくなってきてましたから(笑)。


――なかなか難しいですね。


大内:達磨一家の戦い方じたいに変化をつけてみようかなと思ったんです。もちろん、リーダーの日向(林遣都)には、勝つ為には手段は選ばない、勝つまでやるっていうスタイルはできていたんですけど。そのチームじたいにも何かカラーを持たせたかった。だから達磨一家のエピソードでは“太鼓を叩くと陣形が変わる”というのをやってみるのはどうかと思ったんです。彼らは法被を着ているので、お祭り感が出るのも面白いかなって。そうすることで他のチームにはない、チーム力で戦うというまた新しいかたちができました。そうやって、それぞれのチームのカラーを作って、そのトップがこうあるべきだ、という順に作っていきました。


――バトルスタイルについては、それぞれの役者さんともやりとりをされたんでしょうか?


大内:そうですね。イメージを作っていくうえで、役者さんたちにレッスンするんですけど、最初はこちらからはあまり要求しないですね。アクション練習していると、思っているより過酷で、続けていくうちに疲れすぎて、たまに素の部分がでることがあるんです。そういう彼らの自然なクセとかが面白かったりするんですよ。「この自然なたたずまいがコブラ(岩田剛典)に見えるね」と指摘してあげると、彼らは自分たちなりにどんどんキャラクターを作っていってくれる。ぼくが考えていた理想像とちょっと違っても、そっちのほうが面白いこともある。「この人、蹴り上手いな。もうちょっと蹴りを特色にしていったほうがいいんじゃないかな」という感じで、彼らの動きを見たうえで、バトルスタイルを作っていったんです。


――リーダーではないですが、RUDE BOYS・ピー役のZENさんはパルクールを使って戦いますね。きちんと戦いの中にパルクールを盛り込んだ作品は少ないと思うんですが。


大内:ZENくんというすごい人がいるというのは聞いていましたが、彼と仕事するのは今回が初めてだったんです。最初に話したときに、彼のパルクールへ対する熱い思いが伝わってきました。正直、彼ほど実力者があまり映画などで表立ってでていないことのほうが不思議でしたし。パルクールはYouTubeや動画などではかっこよく撮られているのに、日本の作品でパルクールが映像として残っている作品は少ない。今作はパルクールがメインの話ではないけど、映画的、映像的なパルクールの切り取り方をしてみたかった。ZENくんとは「この技が面白いから、こう撮ろうよ」とコミュニケーションをとりながら作り上げていきました。パルクールってアクロバットだと思われてるんですが、本当は移動術なんですよね。


――フリーランニングとも言いますからね。


大内:そう。ただ、今回は敵と接触してバトルとしても成立させないといけない。パルクールで戦うにしても“なぜ屋根の上に逃げるのか”という理由がいるわけです。だからMVでは“カバンを奪い合う”という、一番シンプルな理由を作ったんです。そうすることによって、彼らの特色であるパルクールとアクションの両方を見せることができたんです。そのコンセプトを監督に提案して、採用していただきました。


――RUDE BOYSはとくにバトルスタイルが多彩ですよね。


大内:見ている人がわくわくするような、アミューズメントパークみたいなチームにしたかったんです。アクロバティックに戦う人もいれば、パルクールで敵を翻弄するような人もいて、ブレイクダンスで戦うキャラもいるみたいな。それに対してスモーキーはそれらすべてをすでに極めた、リーダーらしい堂々としたバトルスタイルを持ってもらう。クールでスマートに計算された戦い方というか。


――最小限の動きで敵を倒す、いわゆる達人ですね。


大内:窪田くんはアクション経験が豊富な役者なので、アクションには慣れてるんです。ただ、その慣れを当たり前にしてほしくなかった。だから普段ならOKのところを、OKださないでもうちょっとねばってみたり(笑)


――ひとつ上のものを引き出そうとしたんですね。


大内:彼は本当に魅力のある役者さんで、彼が自然に出すしぐさがすごくスモーキーっぽいんです。僕から提案した仕草なんかも嫌な顔一つせずに演じて、それを自分のものにしてしまう。例えば敵を蹴った後に何かスモーキーらしさを出したくて、窪田君に「なんかこんな感じのクセとか仕草ってないかな?」と相談すると、さらっとこっちが想像している以上のものをだしてくる。人に与えられたしぐさは、“かたち”になりやすいのに、それを自然とやって、あたかもその役のクセのようにみせてしまう。パンチや蹴りは教えることができても、動きが“様(さま)”になるっていうのはなかなか教えれないですからね。


■「分量としてかたちを残すことも大切」日本アクション映画の課題とは?


――『HiGH&LOW』のような作品が出てきて、日本のアクション映画も変わってきているようにも思えるんですが。映画やテレビの業界内で変化を実感していますか?


大内:まだわからないですね。どういった作品でも、最初は「日本のアクション映画を面白くしたい」という話にはなります。ただ、それが最優先事項にはならないのが日本の現状です。アクションに怪我はつきものだし、予算もかかって時間も費やす。でも、時間を費やさないと面白くならない。割に合わないんですよね。撮影を進めていく上で、いろいろな問題が生じてくると、まずアクションの部分が削られることが多いんです。例えばあるワンシーンのアクションを作っていくと、「ここまでやるから面白い」って部分がどんどん削ぎ落とされていって、気づいたら中身のない物が残ってしまうってこともよくありますから。もちろん質をあげていくということも大切なことなんでしょうけど、今の日本では分量としてかたちを残すことも大切なんじゃないかと思います。もちろん作品の内容にもよりますが。


――全体に対する尺ということですね。


大内:今はネットとかで情報を共有できるようになってデータなんかを簡単にとれる。だから「女子高生が飽きる」とか「喧嘩シーン多すぎ」って情報とかでアクションが減っていくってことはよくあるんです。これでは無難なものは作れても、すごい作品は生まれない。今回の場合はたとえそうなったとしても少しでも“アクション作品として残るもの”を作りたかったんです。もちろん、それは色んな人の協力なしにはできないこと。『HiGH&LOW』は照明や美術は『るろうに剣心』と同じ方々だったし、撮影監督は『黒執事』で一緒だった鰺坂輝国さん。お互いのやり方は知っているし、意思の疎通はしやすかった。そういった環境も大きなことにチャレンジできた要因の一つだと思います。


――課題はあるかもしれませんが、『HiGH&LOW』で今までの日本のアクション映画の限界はひとつ超えたんじゃないかと思います。


大内:そう思っていただけるとありがたいですね。『HiGH&LOW』という大きなプロジェクトのアクションを任されて、「普通だった」で終わりたくないですから。豪華なキャスト陣がアクションをしているから「かっこいい!」となるんじゃなく、キャストやスタッフが本気で挑んだエネルギーのようなものが、映像を通して観客に伝わってくれるとうれしいですね。(藤本洋輔)