2016年07月24日 09:51 弁護士ドットコム
法務省が、相続手続きを簡素化する新しい制度を2017年度に新設することを検討している。法改正ではなく、省令や通達で対応する。
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現在は、大量の書類一式を集め、登記所など関係機関の窓口にそれぞれ提出する必要があった。法務省によると、新制度では、最初に書類一式を登記所に提出すれば、その後は登記所が発行する1通の証明書を提出するだけで済むようになる。
相続人や金融機関などの負担軽減を図ることが狙いのひとつのようだが、これまでの相続手続きはどのようなものだったのだろうか。相続の問題に詳しい加藤尚憲弁護士に聞いた。
生前に遺言書を作成していない方が亡くなった場合、相続人の方は、相続の手続に入る前に、まず遺産分割を行うことになります。遺産分割は、相続人の全員の合意により成立します。
その上で、手続きとして、法務局で不動産の相続登記の申請を行ったり、金融機関で預貯金の解約手続きを行ったりしますが、その際、遺産分割協議書とともに、戸籍謄本を提出する必要があります。
なぜなら、戸籍謄本に基づいて相続人の範囲を確認しないと、法務局や金融機関では、遺産分割協議書に署名捺印しているのが本当に相続人の全員かどうか、判断できないからです。
相続人の範囲を確認するためには、相続人全員の現在の戸籍謄本に加えて、場合に応じて様々な範囲の戸籍謄本が必要となります。
たとえば、子どもがいる方が亡くなった場合、少なくとも、亡くなった方の「出生から死亡まで」のすべての戸籍謄本が必要です。
なぜなら、亡くなった方の子ども全員が相続人となる以上、結婚前も含めて亡くなった方の一生分の戸籍を調べてみないと、子どもが全部で何人いるか確定できないからです。
これに対して、子どもがいない方が亡くなった場合は、さらに広い範囲の戸籍謄本が必要となります。
亡くなった方の「出生から死亡まで」のすべての戸籍謄本に加えて、少なくとも、亡くなった方の両親それぞれの「出生から死亡まで」のすべての戸籍謄本が必要になるのです。
なぜなら、この場合、亡くなった方の兄弟全員が相続人となりますが(両親は先に亡くなっているとします)、兄弟(両親の子ども)が全部で何人いるかを確認するためには、両親それぞれの「出生から死亡まで」のすべての戸籍謄本を確認する必要があるからです。
現在、高齢により亡くなることが多い昭和初期生まれの世代の方の両親は、明治中頃の生まれの方も多く、戸籍もかなり昔までさかのぼることになります。
また、昭和初期頃には、6人兄弟、7人兄弟も珍しくありませんでした。兄弟の数も多い上に、先に亡くなっている兄弟がいる場合は、その子の戸籍謄本等も必要になるため、手続きに必要となる戸籍謄本の数は、全体で20通を超えることもあります。
戸籍謄本は、その時点での本籍地の市町村役場において保管されています。そのため、養子縁組や結婚などで本籍地が変わっている場合、最後の本籍地から出生時の本籍地までさかのぼって複数の役場から取り寄せる必要があり、手間と時間がかかります。
また、昔の戸籍は墨で手書きのため非常に読みにくく、ある戸籍が、本当に亡くなった方の出生当時の戸籍か、それとも後の時代のものかは、専門家であっても判断に時間を要することがあります。ましてや、一般の方にとって大変なことは言うまでもありません。
こうした事情が、遺産分割協議書の作成などと一緒に専門家が代わって行うことが多いことの理由となっています。
法務省では、相続人が提出した戸籍謄本に基づいて、相続人の範囲を示す証明書を発行することを検討しているとのことです。そして、相続の手続きの際には、戸籍謄本の代わりにこの証明書を提出すれば良いことになるようです。
金融機関など、手続きを行う側にとっては、証明書があることによりわざわざ戸籍謄本を確認することが不要になるため、事務手続きの簡素化を図ることができ、新しい制度のメリットを直接受けることができます。
これに対し、相続人の側では、証明書を取得するためには、あくまで自分で戸籍謄本を揃える必要があるので、証明書の制度ができたとしても楽になる訳ではありません。
もっとも、複数の手続きを同時に進めるために同じ戸籍謄本を何通も取り寄せていた場面で、証明書の発行のための1通で済むようになることで、戸籍謄本の発行手数料が節約できるようになったり、金融機関の判断が早くなることにより相続手続きが早く完了することが期待できたりするなど、わずかながら相続人の側のメリットも期待できそうです。
ところで、明治初期から中期頃までの戸籍謄本を調査していると、「慶應」や「安政」といった、幕末を舞台とした歴史ドラマで見るような年号に生まれた方が頻繁に登場します。
戸籍謄本の制度ができたのは明治ですが、その頃生きていた人の大半は江戸時代生まれなのですから、それも当然なのです。
相続に関するご依頼を頂き、相続人の調査の際に取り寄せた戸籍謄本の内容をお客様にお知らせすると、ご先祖様に興味を持たれ、手続きが終わった後の戸籍謄本が欲しいとおっしゃる方が沢山いらっしゃいます。
戸籍謄本を揃えることは確かに大変ですが、相続を機に会ったことのないご先祖様の人生に思いを馳せるのもよいのではないでしょうか。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
加藤 尚憲(かとう・なおのり)弁護士
東京大学卒、弁護士・ニューヨーク州弁護士
弁護士ドットコム上で半年間に約500件の相続の質問に回答し、ベストアンサー率1位を獲得。「首都圏版 2016年▶2017年 みんなの弁護士207人」(南々社出版)相続部門 掲載
事務所はJR中央線・丸ノ内線荻窪駅北口から徒歩2分
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