アタック中の赤旗によって優勝候補がQ1でノックアウトしてしまった波乱の展開ながら、鬼気迫るアタックで2年ぶりのポールポジションを獲得したWAKO'S 4CR RC Fの大嶋和也。その大嶋の活躍を自分のこと以上に喜んでいたのが、今季からチーム監督に就任した、ご存じ、脇阪寿一監督だった。3戦目にして、監督として初のポールポジション獲得となった。
「自分で獲得した時よりうれしいね。先週のスーパーフォーミュラ富士でもサーキットでこのチームを見ていたし、スーパーGTでは今回のSUGOでなんとかいい結果がほしかった。ここに来る前から、今回は結果が出せるように自分の中で流れを組み立てていたんです。そうしたら、大嶋(和也)もこのSUGOにすごく期待していたみたいで、僕が一番気にしているチームの空気が良くなっていることを感じたんです」
レース前から、大嶋の心の変化を察していた寿一監督、愛弟子のひとりである大嶋には、格別の期待をかけていた。
「今まで大嶋はどちらかというと自分から引っ張っていくタイプではなくて、チーム側から支えていくようなところがあった。僕は今回、大嶋が週末を楽しみにしているという、その楽しみをどれだけ長く感じさせてあげられるかをテーマにしていました。練習走行でアンドレア(・カルダレッリ)にクルマの方向性を確認してもらいながらアタックしてもらって、それで大嶋が自分の中で確信をもって予選の前に『ポールポジションを獲りに行く』とみんなに明言して、それで実際にポールを獲った。最後は少しクルマを変えようという意見もあったけど、変えなくても行けるという話し合いができて、それで大嶋が全部のコーナーでギリッギリまで攻めてくれた。大嶋には失敗してもいいから行ってこいという話をしていて、それをすぐにできるのは本当にすごかった」
ひと皮向けた大嶋の成長を、我が子のように話す寿一監督。大嶋の活躍は、チームルマンの完全復活には欠かせないパーツなのだという。
「今後のことを考えたら、石浦(宏明)にしても立川(祐路)にしても、みんなギリギリの領域で毎レースアタックしている中で、大嶋はこれまであまり調子が良くなかったこともあって、多少、抑えたり、気持ちよく走れていなかったり、いろんなことがありながら走っていた。僕としてはあいつに高い緊張感の中で攻めるという状況を、これからもずっと与えられるようにしたいんです。あいつが5年後にとてつもないドライバーになれるように。そういう経験を大嶋がすることによって、大嶋も将来、高いレベルで若手を育てられるようになる。チームルマンとしても、これまでいくつも取りこぼしがあって、そろそろみんなが喜ぶような結果がほしいところだった。予選は単に決勝スタートの順位を決めるだけにすぎないけど、みんなの雰囲気を変える喜びは今回の予選で得ることができたと思う」
明日の決勝に向けても、長期的な寿一監督のコンセプトが見える。
「今回は練習走行から、入りきらないくらいのたくさんのメニューをこなすことができて、山田健二(エンジニア)さんがセットアップをあり得ないくらいたくさん試せて、自信をもってクルマを作ることができた。だからチームとしてポールポジションを獲りにいくよと僕も言えたし、そして最後はドライバーの器量になるけど、大嶋がチームの期待に応えてくれた。やっぱりドライバーのそういう器量がまた、チームを引っ張って行くことになる。僕のGT500の最後はそれができなかったけど、大嶋はそれができると思っているから、そのサポートを僕が多少、やらせてもらったかな」
「明日は今まで以上に緊張感の高いフィールドでメカニックもドライバーも作業をしなきゃいけない中で、結果は何位でもいいから、この緊張感の中で淡々と起こったことに冷静に対応できるレースをすることによって、チームがまたひとつ上のステップにいけるようになる気がしている。レースは1戦ごとに結果が求められるけど、僕の中では長いスパンで、もちろん明日の決勝で勝ってくれればいいけど、僕の役割は1回勝つことではなくて、僕がいた頃のかつてのチームルマンのように、常に上位に来る強いチームを作ること。土沼(広芳チーム代表)さんからもそれを求められているし、毎戦上位に来ることは今の時代では難しいことかもしれないけど、いつも勝てる雰囲気があるチーム、楽しそうでみんなが寄ってきて、チームのみんながさらに頑張れるようなチームにしたい。明日はライバルどうこうはあるけど、まずは自分たちのパフォーマンスを100パーセント出しきれるようにして、そこに対して、あとはライバルがウチの前なのか後ろなのか、そういうレースをしたいと思います」