(えっ、女性向けの風俗サービスなんてあるの!?) そんな驚きと好奇心で、話題の実録マンガ「さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ」(イーストプレス)を読んでみた。pixivで閲覧回数が480万回にのぼったのをきっかけに書籍化されたものだ。
冒頭からベッドの上に裸で対峙する女性2人がバーンと描かれ、まさにこれからサービスを受けようとしてテンパっている姿から始まるが、「エッチな風俗レポ」を期待すると、これがちょっと違う。親や周囲の価値観に縛られて、自分が何をしたいのか分からない迷える若者に読んでもらいたい1冊なのだ。(文:鈴本なぎこ)
母から「正規雇用じゃないでしょ」と言われ傷つく
主人公の頭部には部分ハゲ、腕にはおびただしい自傷の跡。彼女は典型的なメンヘラ(心の病を抱えた人)だが、これは著者の姿そのものだ。永田カビさんは28歳。高校を卒業後、半年で大学を中退すると、鬱と摂食障害に陥った。
常に自殺を考え、バイトも続かない浮き沈み状態を繰り返す。そんな一人の女性が、自分自身の人生を生きようともがき続ける姿が赤裸々に描かれた作品で、多くの人の共感を呼び、発売から約1か月で4刷重版されている。
確かな画力と可愛い絵柄で重くなり過ぎず楽しめるのだが、内容自体はけっこうツライ。実家暮らしの彼女は、両親の言動に傷つくことが多いのだ。バイトを週6日で励んでも、なんと母は真顔で娘にこう言い放つ。
「でもバイトでしょ。正規雇用じゃないでしょ」
貯金ができるようになり、家にお金を入れると言えば「そんな……受け取れないわ。正社員になってからでいいよ」と返される。「正社員」という母世代にとっての正しい枠があって、その中に入っていない娘はどんなに頑張っても認められないのだ。親は娘のためと思って悪気はなく、子を傷つけている自覚がないのがやっかいだ。
描かれる「誰かに抱きしめてもらって安心したい」衝動
それでもこの作品の魅力は、抽象的な葛藤をわかりやすく絵にして自己分析し、妙なテンションの高さで少しずつ前に進んでいく彼女の姿勢にある。紆余曲折あって漫画家デビューを果たすものの、再び鬱に苦しみ、そこで初めて「レズ風俗に行く!」と決意した具体的ないきさつが語られる。
性的経験のない彼女がレズ風俗に足を運んだ理由は、ざっくり言うと「誰かに抱きしめてもらって安心したい」という衝動からだ。これは、分かる。大人になるとどんなに疲れ切って心細くなっても母親に抱っこしてもらうわけにはいかない。
未婚で恋人がいなければ、そんな機会はまず訪れない。男性にはそれこそ風俗があるが、女性が駆け込める先は多くないのだ。さらに彼女の場合、「レズ風俗」は親の価値観から自分を引きはがす大きなきっかけにもなっていた。親の手前、それまで避けてきた性的なこと、「自分がしてみたいこと」にあえて挑戦したという意味を持つ。
もちろん性的な経験が、すべてを解決するわけではない。新しい課題にもぶちあたり、親との微妙な摩擦は相変わらずで、戦いは続いているようだ。しかし行動を起こすことで、少しずつ前に進んでいる感覚はある。こういうところが男女関係なく共感を得たのだろう。
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