古くても新しいハンガロリンク、主催関係者の頑張りに花マルを。なんとスムーズな路面、みるみるうちにグリップしはじめてフリー走行1回目(FP1)から昨年のポールタイム1分22秒020を更新。フリー走行2回目(FP2)では1分20秒台に突入、低速タイプではなく“中速タイプ”と言い直そう。
今年4月に4.381km全面新舗装工事を実施、ピットレーンまで、すべてやったところがすごい。WTCC戦では「3秒もタイムアップ!」と聞いていたから、31回目のハンガリーGPは高速化が一気に進むと予測した。
昨年対比FP1で3.794秒、FP2で3.514秒アップ。このアップ率を当てはめると予選はコースレコードに限りなく迫るだろう。これまでポールポジション獲得ベストタイムは2010年セバスチャン・ベッテル(レッドブル)の1分18秒773、予選レコードは2004年ルーベンス・バリチェロ(フェラーリ)が予選1回目にマークした1分18秒436だ。
もうひとつ予測する要素がある。ここは最近FP1から予選までの「コース進化値」およそ3秒強、新舗装だけにコンディションが変わらなければ、1分18秒の前半がターゲットタイムになりうる。
また、タイムばかりにこだわらず、初日コース上のアクションを森脇さんと注視していて驚いたことが「みっつ、ありまーす」(これは森脇さんの昔の口ぐせ)。ひとつ、バンプが消えてしまった。ふたつ、コーナーのボトムスピードが目に見えて速い。みっつ、メルセデスにぴったりなコースに(!)。彼らのパワーとトルクは相変わらず強大で、それゆえ昨年までは横方向スライドや縦方向ホイールスピンなどがときどき見えた。でも、そうはならない。
水を得た魚のようにハミルトンはFP1、得意のセクター2を泳ぎまわっていた。ハイになり、どんどん踏みこむリズム。上空からの映像でラインが映し出され、オンボードカメラには透きとおったエキゾーストノートが響く。
好事魔多し。そのセクター2、11コーナーでやりすぎた。失礼かもしれないがオーバー・リズムでラインが狂い、手前の白い縁石を、ほんの何センチか踏み入ったように僕は感じた。FP2まだ5周目、自己ベストでセクター1を通過、その直後の落とし穴。巧くエスケープに逃げたと一瞬思ったが、真横からタイヤバリアをヒット。森脇さんの目は正確に、サスペンション破損を言い当てた。もし違う角度でクラッシュしていたら、ノーズ破損程度でおさまったか……。
現場からピットまで、なんとか自走して戻ったハミルトン、しかしメディカルセンターで診断を要する事故は見た目以上にインパクトがあった。彼はスーパーソフトタイヤも試せず、ロングラン・チェックもできず、FP2を棒に振った。
イギリスGPでは、ロズベルグがFP2をウォーターリークのせいで走れずに終わった。彼は直後にハンデはないと言ったが、そうではなかった。興味本位ではなく、ハンガロリンクで5回ポールポジション奪取、4勝しているハミルトンは土曜から、どう巻き返しに転じるのか。絶頂気分からクラッシュし、初日ハンガロリンクでの主演をつとめた彼の一挙手一投足プレーは、いかにもスターらしかった。
余談になるが、ハンガリーGPを制する者は王者になれない──。なったのは12年前、2004年のミハエル・シューマッハーまでさかのぼる。そんな“伝説”を持つハンガロリンクは、いまや「クラシック・グランプリ」のひとつだ。7月のヨーロッパ・ラウンド4戦はノスタルジックで、熱かったF1を想起させてくれる。レッドブルがメルセデスの一角を崩せるかどうか。意外にもポール・トゥ・ウイン率は50%以下という“伝説”も刻まれている。