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クラムボン・ミト×『アイマス』サウンドP内田哲也が語る、アイドルアニメ・ゲームに“豊潤な音楽”が生まれる背景

2016年07月22日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

クラムボン・ミト(左)とバンダイナムコスタジオ・内田哲也氏。(写真=竹内洋平)

 クラムボン・ミトによる、一線で活躍するアーティストから、その活動を支えるスタッフ、エンジニアまで、音楽に携わる様々な”玄人”とミトによるディープな対話を届ける対談連載『アジテーター・トークス』。先日公開した第一弾【クラムボン・ミト×大森靖子が考える、ポップミュージックの届け方「面白い人の球に当たりたい」】では、大森靖子とポップミュージックに対する考え方を語り合ってもらった。第二弾となる今回は、先日リリースしたシングル『THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS STARLIGHT MASTER 03 ハイファイ☆デイズ』がオリコン週間シングルランキングで1位を獲得するという快挙を成し遂げた、アイドル育成シュミレーションゲーム『アイドルマスター』シリーズを手掛けるバンダイナムコスタジオのサウンドプロデューサー・内田哲也氏をゲストに迎えた。二人の関係性から、日本コロムビア社ディレクター・柏谷智浩氏を交えたアイドルアニメ・ゲームで豊潤な音楽が生まれる背景についての議論、それぞれのクリエイター論にまで話は及んだ。(編集部)


・「ミトさんは大局を見ている」(内田)


――第一回は大森靖子さんからスタートして、今回はバンダイナムコスタジオのサウンドプロデューサー・内田哲也さんとの対談です。まずは、ミトさんが内田さんを指名した理由から訊かせてください。


ミト:僕が2012年に「slapp happy!!!」(アニメ『アイドルマスター』DVD/Blu-ray第7巻・完全生産限定版特典CD『PERFECT IDOL 04』収録)で初めて『アイドルマスター(以下、アイマス)』仕事をさせてもらったのですが、内田さんとの初仕事は「ニャンと☆スペクタクル」(2016年5月リリース『THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS STARLIGHT MASTER 02 Tulip』に収録)と結構最近で。でも、事あるごとにライブパンフレットのインタビューやDVD、Blu-rayのインタビューなどを見ながら遠巻きで意識していたので、じっくり話してみたかったんです。


内田哲也(以下、内田):ありがとうございます。この対談の前回記事を読ませていただいたんですけど、ミトさんの考え方に対して、良い意味で会社員的だなという印象を受けました。いわゆる大枠の“クリエイター”って、視野が割と限定的だったりするんですけど、ミトさんは大局を見ているというか。


ミト: 2003年にスタジオを立ち上げて、事務所も自分たちで持っているので、クラムボンや僕自身の活動自体に大きな後ろ盾や資本があるわけではないんですよ。だから考えているというか、必要以上にミュージシャンやアーティストが考えなくてもいいところまで派生して考えなくてはならなくなったという。


内田:僕も曲を作ったりプロデューサーとして作品に携わっていますが、基本的には会社員なので、組織のなかでビジョンを共有して会社の方針に従って働いていくことが求められるわけです。そんな状況に居る自分からすると、ミトさんのバランス感覚って「ズルいな」って嫉妬するくらいすごくて。僕もかつてはベーシストで、バンダイナムコに入社する前はサポートミュージシャンとしてベースを弾いたりしていたので、そういう意味でも意識しちゃう存在なんですよね。


ミト:あ、そうなんですか!? 私は初めて触った楽器はベースで、デビューした形態こそバンドですが、もともとは打ち込み上がりの人間なんですよ。クラムボンも3rdくらいまでの作品は、すべて僕が打ち込みで作ったものを改めて演奏していて。だから、今僕がやっているソロワークって、若いときから家でちょこちょこ作っていたようなものが、たまたまお仕事としてリンクしただけなんです。


内田:なるほど。ミトさんの作る曲って、ベースラインが割と自由に動いているように聴こえて、それがすごく心地良いんですよ。下を支えていると思ったら、隙間があったら埋めにいく、というような展開の作り方が好きなんです。


ミト:その展開って「隙間が空いているから入れなければ」という宅録的な発想なんですよね。私の場合、ドラムやピアノなどを配置して、そこから和声を整えるので、ベースは一番最後に入れるんです。本当はアレンジの段階で他の弦を使ったセカンドラインを入れればいいものを、「こっち(ベース)で入れちゃえ」という風に作るのが自分のベースのあり方で。リズムが強いものでもないし、そこまでメロディックでもなかったりする、どちらにも寄っていないのが私のベースのスタンスなのかもしれませんね。


内田:わかります。ベースって弦が太いから、それで上の音域を鳴らすと存在感のあるものになるんですよね。楽曲全体からしたら下のほうでも、ベースを多少上のほうに持って行っていると、「あ、これおいしいな」と思うことが多くて。


ミト:ベースって、単音だけど総体を見ないと務まらない楽器なんですよね。だからこそ、ベーシストにプロデューサーが多いのかもしれません。私自身も和声を勉強したことはなかったんですけど、ハーモニー的なところが当たったり滲んでいる部分を自然と気にするようになったのは、ベースをやっていたからだと思うんです。


内田:あとはドラムとウワモノの接着剤みたいなところもありますよね。時には下を支えつつ、上の動きを見ることも重要ですから。


――内田さんは以前はベーシストだったということですが、どのような経緯で2007年の「Kosmos, Cosmos」(『THE IDOLM@STER MASTER ARTIST 3 MASTER ARTIST 09 萩原雪歩』収録)から『アイドルマスター』に携わることになったのでしょうか。


内田:入社前はフリーで作編曲を手掛けたりもしていたんですが、結婚を機に会社員になろうかなと思い、当時たまたま募集があったバンダイナムコ社に応募したんです。入社前にも声優さんの楽曲を担当していたこともあり、「Kosmos, Cosmos」で初めて『アイマス』楽曲を手掛けました。次第に総合音楽プロデューサーの中川(浩二)さんが担当していたサウンドディレクションを分担させてもらうようになり、『アイドルマスター シンデレラガールズ(以下、デレマス)』シリーズを任せてもらうようになったという感じです。


ミト:2007年ということは、もう神前暁さんは退職してましたよね。


内田:そうですね。でも、僕が入社して1、2年ぐらいは一緒でしたよ。当時神前さんは『ことばのパズル もじぴったん』(内田は「その猫の名はアンドレ」で参加)のサウンドディレクターだったのですが、退職されてすぐにMONACAへ移って、『涼宮ハルヒの憂鬱』で一気に大先生に(笑)。


ミト:神前さんとは色々音楽の話をするのですが、よく話題になるのはブラスアレンジの話で。打ち込みで積んだブラスを実際に生で録るとなったとき、演奏者の方に渡すのがいまだに怖いんですよ。


内田:ありますね。「これちょっとピストンの戻りの関係で吹けないんだよね」と言われたり……(笑)。でも、「お願いします」というしかないので、お任せしたら意外と何とかなったりします。


ミト:でも、打ち込みの音を現実の音楽に変換したとき、ポップソングでは通常あり得ない進行や、スコアには本来書かないような“悲鳴感”のある音が全部入っていて、そのいびつさがすごく面白く感じるんです。『アイマス』チームの音からはまさにその“悲鳴”を感じることが多い(笑)。


内田:『アイマス』は元々アーケードゲーム(『THE IDOLM@STER』以下、『アケマス』)からスタートしていて、今のような盛り上がりになるまで時間も掛かったので、自分たちで試行錯誤していった結果が積み重なっているんです。ミトさんの感じる“悲鳴”は、そんな僕らの「作ったことないけど、やってみよう」というスタンスなのかもしれません。


ミト:だって、今こそ音楽ゲームはスマホアプリなどで市民権を得ていますけど、かつて『アイマス』はゲームセンターの一角で『太鼓の達人』と一緒のところにあったわけで。ほかのゲームは難しさを競って複雑になっていくのに対し、最初の筐体に「蒼い鳥」というバラードが入っていたりして。もうこの時点で何か様子がおかしかったんですよ(笑)。


内田:アイドルソングからも、ゲーム音楽からもちょっとズレてますよね。でもそういう独自進化が面白いと思い、確信犯的にやっている部分もあります。最近は『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』(スマートフォン版アプリ・以下『デレステ』)でアイドル数も曲数も増えて、若手コンポーザーを起用する機会も増えているのですが、尖った人が少なくなっているかなと感じるんですよね。おそらく色んな音楽を聴くことができる環境ができていて、平均点は高いんですが、その分個性が平均化されてしまっているというか。


ミト:それって、「こういう音を出したい」というときに、すぐその音源が見つかっちゃうという原因もあるんじゃないですかね? 機材屋を探し回って何とか手持ちのもので捻り出した音に“悲鳴”は宿るのかもしれない(笑)。私も同じような経験があって、最近担当した『心が叫びたがってるんだ。』の劇中曲にミュージカルの場面があるんですけど、登場人物の高校生がDAWを使ってミュージカル曲を作るという設定なので、ここで使っている曲はフリーの音源しか使っていないんですよ。フリー素材に多いPCM音源って、大きなホールなどで流すと管弦の音が良くも悪くも抜けがすごいんですけど、それがまた良いんですよね。内田さんはそうやって心配しますけど、『アイマス』は若手作家陣に良いクリエイターが沢山いますよね。田中(秀和)くんとか石濱(翔)くんとか。にじみ出る神前リスペクト感もあって面白いし。


内田:神前さんのエッセンスは脈々と受け継がれていますね(笑)。僕らは会社員としても、年齢的にも、ただクリエイトするだけではなく、下をしっかり育てていかなければいけないんです。だから、『デレステ』もミトさんのような第一線級のアーティストにもご協力いただきつつ、若い活きのいい作家をどんどん起用していきたいと思っていて。シンデレラ感というか、これから階段を上っていくキラキラ感を、作家のほうから取り入れられればと考えています。たとえば「Shine!!」をつくった滝澤(俊輔)くんとか、田中くんも若いんですけど、うちの会社でいうと佐藤(貴文)くんや井上(拓)くんのような若くて尖がった人たちのギラギラした感覚が面白いんですよね。


ミト:若いクリエイターは誰かからレスポンスをもらえずに悶々としている人も多いので、活動できる場所を提供してあげることが重要で。そういった意味で今の『デレマス』が持つ曲数の多さや作家の多さは本当にすごい。


内田:たくさん曲を作れるというのは、制作側としても定番曲を作りつつ、思い切った冒険もできるということなんです。若い作家さんを起用したり、僕らも守りに入らずに色んな曲を提供していく。これはアニメやゲームの制作陣も一丸となって思っていることだと思います。


ミト:若手が冒険だとすると、僕は適格に作品へフィットさせにいく感じ。まさに「ニャンと☆スペクタクル」がそうなんですけど、あれってMASTER ARTIST 02時代からの名曲「キラメキラリ」(作編曲・神前暁)へのリスペクトで、後藤貴徳さんにギターソロを弾いてもらったりしているんです(後藤は「キラメキラリ」のギターを担当)。そういう地味な考察対象としての楽曲を私が作って、みんなはもっと派手なことをするという。


・「『アイマス』は初期ハロプロ的な生感」(ミト)


――現在は『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』自体がすごくプラットフォーム化していますもんね。『アケマス』のときと違って、数え切れないぐらいのアイドルがいて、そこにいろんな曲が提供できて、冒険もできる。


内田:プラットフォームを持続させるためには、やはり一定以上のクオリティは提供し続けないといけないので、そこは大きいプレッシャーになっています。


ミト:そのクオリティを持続するのは本当に大変ですよね。出せる場所とレスポンスが伴わないと難しいわけですから。そういう意味で、日本のクリエイターたちを伸ばしている『アイマス』シリーズの功績は大きいと思いますよ。反対に、バンドマンにとってのそういうプラットフォームって何なんでしょうね。ラッパーは今『フリースタイルダンジョン』がプラットフォームとして順調に機能しているわけで、アイドルは楽曲コンペがある。じゃあバンドマンは自分たちの楽曲で競い合う場所をつくれているのかと。皆が皆に「楽曲提供しろ」というのも違う気がするし……。そういえば『アイマス』楽曲は生音を使うことが多いですよね。


内田:ありがたく生音を録らせてもらえる環境なんです。やっぱり生音を入れると空気感が違うというか、グッと人間の持つグルーヴ感が入るので、曲が動き出して活き活きしますね。


ミト:最近は石濱くんの作った「Tulip」(2016年5月リリース『THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS STARLIGHT MASTER 02 Tulip』に収録)に衝撃を受けたんですけど、この曲は「今日日アイドルアニメコンテンツにここまでエレクトロクラッシュを入れるのか!」というくらいのファンキー度で。あれ、確かベースってKIRINJIの千ヶ崎(学)君ですよね?


内田:はい、千ヶ崎さんに弾いてもらっています。エレクトロクラッシュを大胆に取り入れても『アイマス』曲としてグッとくるのは、石濱さんなりの神前イズムをしっかりと継承しているからだと思うんですよ。だからあそこまで振り切っても『アイマス』と乖離しない。


ミト:そのあたりが『アイマス』楽曲の個性かもしれないですね。たとえば他のアイドルアニメ的なコンテンツの音楽って、生音を打ち込み級に磨いて、現場での機動力で攻めてくるものがすごく多いと思うんですよ。生音が入っているものもあるけど、放送に負けないくらい尖らせて、無機質にシェイプしていくものとか。『プリパラ』や『ナナシス(Tokyo 7th シスターズ)』、『アイカツ!』はその方向かも。それらと比較したときに、『アイマス』は良い意味でウェットな生っぽさを感じるんですよね。


内田:現場では「生っぽく」という言葉が飛び交っていますね(笑)。歌のディレクションをしていても、単に声を当てて歌にするよりも、血が通ったものにしたいと思っているんです。実際アイドルがステージで歌っているのをイメージしてもらったりとか。よくディレクションで言うのは「このアイドルだったらこの曲をこう歌うよね?」ということで。例えば、キュート系のアイドルだって、バラードやクールな曲を歌ったら、その楽曲の世界観に合わせて声のトーンも変わってくるはずなんですよ。だから、アイドル本来の声を軸にしつつも、割りと楽曲に寄り添って、生っぽく歌ってほしいという気持ちが強いんです。


ミト:わかりやすく例えると、『ラブライブ!』周りのサウンドにはAKB48グループ的なハイブリッド感と研ぎ澄まされたような印象があって、『アイマス』は初期ハロプロ的な生感を感じるし、歌いだしても「あ、この人歌い始めた」というのがわかるんです。


内田:僕らとしては、汗をかいて歌っている感じを出したいんですよ。だからといってうまく歌うことを放棄しているわけではなくて、ピッチやリズムには当然気を付けつつ、表情や活き活きした感じを大切にしています。だから「ここは笑顔で」とか「ここは夢見る乙女風に」とお願いすることもあります(笑)。


ミト:僕の曲についてもボーカルディレクションは柏谷(智浩/日本コロムビア社ディレクター)さんにお願いしたんですが、「笑顔で」という指示がまさにありました。この言葉でどこまで表情膨らませるかなんてその人次第だし、ものすごくナローな表現ですよ。でも、あえて声優さんの個性を出していくというのは、私たちにはない発想で。私たちはもっと言葉でトランスレートして、「こう歌ってほしい」というオーダーを、歌い手さんが自分で引き出したんだぞと思わせるぐらいの演出を作って歌わせようとするから。


内田:僕らの場合は歌う方が声優さん、つまりキャラクターを演じている方なので、セリフのディレクションで「ここはこういう表情です」とお願いする感覚と変わらないんです。


――その路線は初期から徹底されていたのでしょうか?


内田:割と初めからそうですね。基本的には活き活きした感情で歌っていたほうが、聴いていて元気をもらえたりすると思うので。


ミト:あと、レコーディング現場で面白いと感じたのは、最後のTD前に、みんなが自分のヘッドフォンを持ち寄ってじっくり聴いていること。それぞれが持っている種類もバラバラで、すごく健気でストイックだなと思いました(笑)。


――意図的にそれぞれ環境を変えてモニターしているんですか?


内田:スタジオのスピーカーだけで確認するのではなくて、なるべくリスナーに合わせた環境も用意しているんです。あと、なにより自分の耳に馴染んでいるヘッドフォンのほうが、音の差異がわかりやすいというのもありますね。とはいえ、ヘッドホンを繋ぐキュー・ボックス次第でスタジオ毎に音が違ったりもするので、そこには注意しつつではありますが。


――ちなみに、柏谷さんは『アイマス』の音楽における独自性について、どのように考えているのでしょうか。


柏谷智浩(以下、柏谷):ほかコンテンツの音と『アイマス』の音における違いについて考えたことは何度もあるんですが、なんとなく「キャラ感と違和感」なのかなと思っています。歌うアイドル独自の個性や表情感はそのアイドルのファンにとっては素敵な味付けになるのですが、そのアイドル独自のキャラクター感を知らない人が聴くと異物が入ったような違和感を感じるのかなあと。その異物感をおさえて楽曲自体の世界感に歌を寄せれば寄せるほど、ポップスとしての完成度は上がるんですけど、そのアイドルが歌う意味合いからは遠のいていくという。あとはマニアックな部分ですけど、ハイ(高音域)の処理が違うのかなと感じました。


ミト:確かに、いちファンとしてはうまく歌っているところよりも“滲んでいる”ところが聴きたいんですよね。でも、だれか知らない人だと確かに違和感になるという意見もわかります。


柏谷:あと、全体曲でもソロミックスになる可能性があるのも大きいのかもしれません。


ミト:それは大きいですよ(笑)。私は『アイマス』楽曲のなかでも「shiny smile」が好きで、特に(秋月)律子さんのバージョンが大好きなんですよ。あのテイクがM@STER VERSION(フルサイズ)で録れているということが、私にとっては奇跡に近いというか。あの曲も、サビの展開から少し奇妙なコード進行になっているのがお気に入りで、『アニマス』(アニメ『アイドルマスター』)の展開を経て聴くとよりグッとくるんです。『アイマス』楽曲は、今までつくっていた曲が『アニマス』や『デレマス』で呼び出されることによって、曲の持つ意味が変わってくる部分もまた楽しみの一つですね。


内田:作り手としては、過去に作った楽曲がアニメを経て違う意味を持っていくことには驚きと面白さを感じています。


ミト:特に『アケマス』『モバマス』(Mobage版アイドルマスター シンデレラガールズ)周りからの呼び出しはすごい。曲を使った瞬間に無駄に考察スレが伸びるんですから(笑)。


内田:こちらも、過去の曲を使ってくれて反響があると純粋に嬉しいですよ(笑)。


・「DJ経験のある作曲者は鳴らし方を知っている」(内田)


――『アイマス』シリーズはアーケードから始まり、現在はライブも行なうようになりました。ゲーム環境もスマートフォンがメインになるなど、ハードとソフトは徐々に進化しています。その過程で曲作りやディレクションに変化はありましたか?


内田:アニメの楽曲を制作する際には、1回で聴いて残るような曲ということも意識しました。2回も3回も見てくれるわけじゃなくて、放送を1回見て離れてしまう人も中にはいるかもしれないという認識がサウンドチームにあったので。


ミト:ライブを通した変化はあったと思いますよ。「Star!!」(アニメ『アイドルマスター シンデレラガールズ』1st SEASONオープニング・テーマ)や「Shine!!」(アニメ『アイドルマスター シンデレラガールズ』2nd SEASONオープニング・テーマ)は、アレンジも含めて大きな会場で鳴らされるための曲のように聴こえましたし、逆に「READY!!」(アニメ『アイドルマスター』オープニング・テーマ)や「CHANGE!!!!」(アニメ『アイドルマスター』新オープニング・テーマ)にはその要素を感じなかったから、実際に内田さんがどう考えていたのかが気になります。


内田:おっしゃるとおりで、以前はライブの音にコンプレックスがあったのは確かなんです。「READY!!」や「CHANGE!!!!」をライブ会場で鳴らした時に、何かもっと良く響かせることができるんじゃないかと。


ミト:それは、スタッフやクリエイターチームが現場でその熱を感じるという経験をしないとフォーカスされないからだと思いますよ。アニメが終わった後の舞浜や横浜アリーナのライブでは、その経験を経たうえでの広がりを感じました。クラムボンも、家で作ってライブハウスで演奏するくらいの音楽だったのが、フジロックや野音で演奏したことにより、不思議なものでそこに合う音になっていったんですよ。


内田:確かに、大きな会場で聴いたときにはじめて「ここはこうしたほうがいいのかな」と気付けた部分が多かったんですよね。盛り上がり方もそうですし、細かいところだとキックの鳴り方も思っていたものと違ったんです。ミトさんはどうしてそこに気が付いたのでしょうか?


ミト:私、アニソンDJ(agraphとのユニット・2animeny DJs)をやっているので、フロアで他の曲と並べて掛けると見えてくるものがあるんですよ。


内田:確かにDJ経験のある作曲者は鳴らし方を知っていますね。例えば遠山(明孝)さんや井上くんのようなコンポーザーの曲は、割と大きいところで鳴らしてもちゃんと鳴ってくれます。小さいスピーカーじゃ聞こえない部分をどのくらいまで出せばいいのかという絶妙な部分も知っているんですよね。以前は僕は慣れていなかったので、逆に出しすぎちゃって、音が回った結果、あまりよくない状態になってしまったこともありました。


ミト:それ僕ら世代のベーシストあるあるですよ(笑)。低音を大きくして、ベースが気持ちよく弾ける状態って、実はバランスが悪いんです。ラインがしっかり見える程度にしておいて、低音をそんなに出さないぐらいが、一番バンドとしてハマりがよくなるんですよ。これは、トラックを作っている人間じゃないと回避できないんですよ。これに関してはドラムも同じで、打ち込みができる人はキックのバランスがわかっている。だから、プレイヤーである人こそ打ち込みをやったほうがいいと若い人には伝えたいですね。


(取材・文=中村拓海)