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AKB48チーム8はガラパゴス的に進化を遂げた? 地元からも愛される活動形態を読む

2016年07月22日 16:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『AKB48 リクエストアワー2016』でのチーム8のパフォーマンス。(C)AKS

 2016年7月8日より、ドキュメンタリー映画『存在する理由 DOCUMENTARY of AKB48』が公開されている。すでに見たファンも多いかもしれないが、同作はAKB48を扱ったドキュメンタリー映画の5作目で、監督の石原真氏がカメラを持ち、10周年を迎えたグループ内部に迫った作品だ。


 映画は、2016年6月に開催された選抜総選挙のシーンに始まり、初代総監督高橋みなみの卒業コンサートの場面では、初期からAKB48を支えてきた前田敦子、大島優子らが高橋みなみを囲んで「私たちのAKBが終わった」と言っていた。そして現総監督の横山由依は「AKB48の第1章が終わった」と語っていたシーンがあり、それに対しほかのメンバーらが「何回、第2章あるんだ」「いま、何章?」と問いかけるシーンが流された。AKB48は現在、第何章でどこにあるのか。それはメンバーや後世の歴史家が判断すればいいことだ。ただ1つだけ確実なのは、AKB48というグループは止まることなく進化し、発展しているということだ。


・熱狂的なファン「エイター」に支えられているチーム8


 映画の中でも取り上げられていたが、AKB48グループの中で、現在一番アイドルファンからの注目を集めているのがチーム8だ。チーム8は2014年4月に発足したばかりで、今年まだ3年目のフレッシュなチーム。AKB48の中でも最も人数が多く、元気で熱狂的なファンに支えられている。


 また、チーム8は47の都道府県から各1名ずつ、代表のメンバーが集まって構成された47名のチームである。「会いに行けるアイドル」として活動してきたAKB48とは違い、「会いに行くアイドル」をコンセプトにしていることも特徴のひとつだ。


チーム8のファンは「エイター」と呼ばれており、とにかくその熱量がすごい。映画の中でも紹介されていたが、チーム8のファンは「新規の若いファン」と「筋金入りの古参のファン」に二極化されている。特に「筋金入りの古参ファン」はチーム8に初期のAKB48を重ねてみているようだ。たしかにチーム8は「まだ出来上がっていない、1から試行錯誤しながら作られているチーム」であり、それが魅力のひとつとなっていることは間違いない。「会いに行くアイドル」であるチーム8は週末にはライブや地方でのイベントなどに多く参加しており、そのチーム8が各地方で出演しているイベントに「会いに行く」ファンも多い。沖縄で開催されたチーム8の2周年コンサートには全国のエイターが沖縄に駆け付けた。


 また、チーム8はほかのAKB48グループと異なり、ライブやイベントでは特定の曲のスマホでの撮影が可能であり、ファンの多くが撮影した動画をYouTubeにアップロードしている(過去にはSKEやHKTで一部撮影コーナーを設けたライブがあった)。ファンにとっては「その時、その場所」で撮影することができた自分だけのオリジナル動画になるわけだ。また、特定の推しているメンバーにフォーカスをあてた「推しカメラ」も人気コンテンツのひとつで、イベントでは8のメンバーも「動画を撮影してSNSにアップしてください」とファンに呼びかけており、その動画を見るだけでも、ファンの熱狂ぶりが伝わってくる。


 エイターは特定のメンバーだけでなく、チーム8全体や地域(東北メンバーや関東メンバーなど)を応援していることが多い。そのため総選挙では票が分散してしまうが、リクエストアワーでは結束力を発揮しており、2016年1月に行われた『AKB48 リクエストアワー2016』ではチーム8の「47の素敵な街へ」が単独で2位、グループでは3位に選ばれるという快挙を成し遂げた。


 映画の中でも紹介されていたがAKB48グループの中でも唯一チーム8だけにうたれるミックス「ガチ恋口上」時のエイターの声援はすごい。これはチーム8の持ち歌「47の素敵な街へ」の曲イントロ時にエイターが大きな声で「言いたいことがあるんだよ(以下略)」と叫ぶもの。「ガチ恋口上」はメンバーの間でも人気で、選抜総選挙前『SHOWROOM』でライブ配信を行なった際には、チーム8の多くのメンバーがファンからの「ガチ恋口上をやって」という依頼をうけ、実際にミックスを打っていたのも印象的だった。


 最近ではライブやイベントでのトークや間の取り方もかなり上手になった。特に2016年6月末で終了してしまったが、NOTTVで生放送していた『AKB48のあんた誰?」にチーム8は多く出演し、そこで鍛えられた萌え台詞やボケと突っ込み、MCなどバラエティ力はライブや他のイベント、出演番組でも活かされている。


・日本全国に散らばる「エイター」


 チーム8は全国各地でイベントに多く出演しており、最近では『能登ふるさと博』に能登応援隊として地元出身のメンバーらが参加したり、群馬県代表の清水麻璃亜は「ぐんま観光大使」に、山梨県代表の左伴彩佳は山梨県富士吉田市の「富士吉田ふるさと大使」にそれぞれ任命されるなど、地方に根差した活動をしており、チーム8のメンバーはその地域で行われるイベントに駆け付け、ライブやトークで盛り上げている。そこには全国の「エイター」も応援に行くが、地元のイベントにやってきて初めてチーム8を見て好きになる人も多い。彼らはAKB48 は知らないが地元のメンバーやチーム8を応援していることが多く、ファンの裾野は広い。メンバーの自己紹介の時も出身の都道府県を名乗るのと同時に、地域の名産品や名物などが入っているメンバーもいる。例えば広島県代表の谷優里は「広島県から来ました。大好物は?カキともみじ饅頭」だ。


・新たな地方創生の起爆剤としてのチーム8


 また各都道府県から1名ずつ代表メンバーがいるチーム8はバーチャル高校野球公式応援キャラクターも務めている。そして各メンバーは自分の地域で放送される高校野球の番組でも公式応援キャラクターとして地元を盛り上げている。高校野球は全国の都道府県から代表校が選出されて甲子園で戦う。各都道府県の代表メンバーが集まっているチーム8は公式応援キャラクターにぴったりだ。


 現在AKB48グループは、AKB48(東京)のほかSKE48(愛知)、NMB48(大阪)、HKT48(福岡)、NGT48(新潟)と姉妹グループが存在し地域を盛り上げているが、チーム8は所属している全員が各都道府県の代表で各地域を盛り上げている。先日新潟で開催された選抜総選挙の経済効果は約15億円だと報じられていた。総選挙開催のような単発的なイベントでなくチーム8は継続的に地元でのイベントやライブへの出演を行っており、出演するイベントなどに全国からエイターも参加することで、地域の活性化や経済効果にも貢献している。また多くのメンバーがその地域を代表する顔となり、情報発信力がだんだん大きくなってきていることで、地元からの注目も高まってきている。つまりチーム8は一人一人のメンバーこそ、AKB48グループ全体の中では目立たないかもしれないが、その地域にとっては地元を代表する重要なメンバーなのだ。


・チーム8はガラパゴス的発展?


 ドキュメンタリー映画の中でも、チーム8は「AKB48本体とは距離を置いて、ガラパゴス的に発展している特殊な存在」として紹介されていた。メンバーらも「自分たちはAKBのメンバーと思うか?チーム8のメンバーと思うか?」というインタビューで、悩みながらも「チーム8」だと答えていた。メンバーのチーム8への帰属意識も強い。北海道代表の坂口渚沙が総選挙でランクインした時には「チーム8でCDデビューがしたい」とコメントしていた。すでにチーム8のオリジナル曲も多数あるが、実現したらますますチーム8は独自の方向に進んでいくだろう。各地域を代表するメンバーが集結し、そしてチームとしても一丸となっているのがチーム8だ。


チーム8自体は船出したばかりで、まだ第1章かもしれないが、AKB48の第2章を作り上げていくのはチーム8かもしれない。そしてチーム8はAKB48というグループの中でも独自の方向に進んでいるが、21世紀の日本において、地方創生の牽引役としての活躍も期待できるだろう。アイドルシーンの発展と地方創生の可能性を秘めた47人から、ますます目が離せない。(佐藤 仁)