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SHE’S、深い余韻を残した『Morning Glow』リリースツアー初日 2ndシングル発表も

2016年07月22日 13:31  リアルサウンド

リアルサウンド

SHE'S

 それはまるで、クライマックスのような始まり方で、オープニングのような終わり方だったーーSHE’Sのメジャーファーストシングル『Morning Glow』のリリースツアー〈The Everglow~Chapter.1~〉の東京公演がshibuya CLUB QUATTROで行われた。ツアー初日ということでセットリストに関する言及は最小限に抑えながらレポートするが、これは声を大にして伝えたい。本当に素晴らしい夜だった。


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 当ツアーは東名阪の3カ所を2マン形式で廻るもので、初日である東京公演の相手は念願の対バンとなったcinema staff。久野洋平(Dr)がMCで「先輩のバンドに呼ばれることが多かったから、こうして年下のバンドに呼んでもらえて嬉しいです」と話していたが、楽器を持てば手加減なし。後輩に華を持たせようなんて気を一切感じさせない貫禄で、ラストに向けて徐々に覚醒していく様は圧巻。初めてシネマのライブを観た人も多くいたであろうフロアの度肝を抜く迫真のアクトだった。


 そんな先攻・cinema staffの迫力のライブが上げたフロアの温度、逸るテンション、オーディエンスの高まる期待…主役の登場を最高の状態で迎える為の条件が全て揃った瞬間に会場は暗転し、SEと共に井上竜馬(Key/Vo)、服部栞汰(Gt)、広瀬臣吾(Ba)、木村雅人(Dr)がステージに現れた。そして「大阪から来ました、SHE’Sです。宜しくお願いします」との井上の挨拶も早々に、美しさと大胆さを併せ持ったピアノの旋律から始まった「Morning Glow」。小節が進む度に目が眩むような明るい音が降り注ぎ、オーディエンスが頭上高く手を挙げる様子はまるでその輝かしい音の粒を掴もうとしているかのようで、オープニングとは思えないほどの完璧さでバンドとオーディエンスが共鳴し合っていた。そんな壮大なスタートに圧倒される間もなく押し寄せた「Night Owl」のスケールは、もはやクアトロの容量には収まりきらないほど大きなものだった。


 元々SHE’Sの音楽の対象はバンド名が表すように「彼女」ただひとりだったし、その一人称に聴き手それぞれの想い人を当てはめて聴くからこそ、曲の世界に深くのめり込んでいけるというのが彼らの音楽の魅力のひとつだ。しかしこの日のライブを観て思ったのは、4人が見据えているのは想い出の中にいる「あなた」ではなく、今目の前に居る聴き手全員だということだった。とはいえ「目の前にいるあなたに届けたい」という思いは多くのバンドが当たり前のように抱いているのだろう。その点でSHE’Sの音楽が他と違うところは、曲自体が「目の前のあなた」仕様になったことだ。それは「Morning Glow」の歌詞を見れば一目瞭然だし、その変化がライブに明らかに表れていることに強く感動した。「懐かしい曲を」と歌われた曲もキラーチューンと呼ばれる程繰り返し歌われてきた曲も、変化を受け入れた今の4人が奏でるからこその新鮮さで聴くことができ、自分たちの音楽を求めてくれる人たちを漏れなく抱えていこうという視野の広さがそのまま表れていた。


 井上は「今回のシングルは思いを詰め込んだ3曲が入った1枚になりましたが、最後の曲に全部詰まっているような気がします。音楽を選んで、ここまで来たという想いをド直球に書いた曲です。クアトロでワンマンもしたし、次に東京でワンマンやるなら…東京ドームかな(笑)? またひとつ、大きいところに、遠いところにみんなと一緒に行けたらいいなと思います」と語り、ラストは「Time To Dive」の<全てはここからだって 高らかに歓声を>という決意とも取れるフレーズを高らかに歌った。途中、井上がマイクから離れ、このフレーズをそのままオーディエンスに委ねる場面があった。シングルのリリース、ツアー、そしてメジャーデビューは自分だけのものではなく、ここにいる全員で始めるんだという想いを強く感じさせる終わり方だった。さらにこの日、10月にセカンドシングル『Tonight』がリリースされることも発表された。発表時には井上から「皆さんにお知らせがあります!キムが抜けます!」「いや、抜けへんから!(木村)」という大阪仕込みのコント的冗談もあり、フロアには笑いと驚きと喜びの入り混じった大歓声と拍手が上がった。


 視野を新たに、さらに広く持ったSHE’Sは、「みんなにとって家みたいに安心できるような音楽であり、そんな存在でありたい」と井上が話したように、いつだって聴く人を温かく迎え入れてくれるだろう。「ひとり」を想って歌ってきたバンドが、今度は「ひとりひとり」を歌って新たなスタートを切った。そんな彼らに自分の抱えている弱さや寂しさを預けてみたい、心からそう思えるくらいに深い余韻の残るライブだった。(峯岸利恵)