社会の高齢化が進み、最近は両親の介護をするために、働き盛りの子供が離職して家庭に入るというケースも珍しくなくなってきた。
しかし、たとえ介護のためであっても、働き盛りの人間が仕事に出ず、家にこもりっきりでいることについては、心無い偏見の目を向ける人というのがまだいるようだ。(文:松本ミゾレ)
ブラック企業に就職して辞めた人も「モンスターシングル」になる?
7月16日に放送された「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)で、気になる特集が組まれた。番組に登場した甲南大学の阿部真大准教授は、パラサイトシングルの進化系として、「モンスターシングル」と呼んでいるのだという。
そもそもパラサイトシングルは、社会人になっても両親と同居し、一人暮らしをせずに生活費を節約する独身者のことを指していた。そのパラサイトシングルより酷いケースというのが、モンスターシングルである。
番組ではその特徴として「生活費のほとんどを親に依存するだけでなく、親の資産や年金を食い潰し、老後の生活を脅かす独身男女で、多くは無職」と説明されていた。
うん、流石にここまで行ってしまうと問題だ。モンスターシングル。恐ろしい人種である。
特集では、総務省の統計も紹介していた。上記の条件を踏まえた35~44歳のモンスターシングルと呼べそうな人は、2000年は28万人だったのに対し、2014年には倍以上の62万人にも増えているというのだ。
ただ、モンスターシングルがここまで増えていったのは、本人だけに原因があるわけではない。阿部氏によると、ブラック企業に就職して追い詰められたり、親の介護に専念するために離職をした人たちも、モンスターシングルになってしまう可能性があるという。
「そうか、世間的にはモンスターなのか」と落胆する人も
僕はここで、ちょっとモヤモヤした気持ちになってしまう。親の介護のために仕事を辞めた人まで、年金を食い潰すモンスター扱いするのは、あんまりなんじゃないだろうか。
介護サービスをフル活用したって、結局行き届かない部分は絶対にあるし、そうなると家族がフォローするしかない。24時間の介護が必要な高齢者だっている。家族の介護のために仕事を失った人々のことをモンスターシングルと呼んでしまうのは、あまりに惨い。
番組終了後、2ちゃんねるのとあるスレッドに、こんな声が書き込まれていた。
「自分がまさに介護離職した無職独身実家暮らし人間なんだけど、『そうか、世間的にはモンスターなのか…』って激しく落ち込んでる」
周囲の環境のせいで泣く泣く離職をした人々と、元々パラサイトしていた独身者とを同じモンスター扱いしてしまうことは、良いこととは思えない。この書き込みには、他のネットユーザーからも流石にねぎらいの言葉がかけられていた。
やっぱり平日の昼間に働き盛りの独身者が家にいるというだけで、個々の家庭の事情を知らずにゲスの勘繰りをしてしまう人は一定数いる。そういう勘繰りを助長させるような十把一絡の造語は、個人的には流行してほしくないと思ってしまう。
そもそも日本は、今後ますます高齢化の波に飲まれていくことが確実だ。介護離職をする人々もますます増えることになるわけで、誰もが「明日は我が身」の問題として考えねばならない時期に差し掛かっている。
個々の家庭の、複雑な事情を知らない世間の目は常に冷たい。いたずらにその偏見を助長させるような造語は必要ない。
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