トップへ

「ダメ出し」ができない日本の職場 摩擦を避け続けていれば「痛い人」だらけになる

2016年07月21日 06:41  キャリコネニュース

キャリコネニュース

写真

日本人の多くは、他人に否定的なことを率直に伝えることが苦手です。そもそも「あうんの呼吸」とか「以心伝心」「一を聞いて十を知る」などが肯定的な言葉として用いられ、物事を明確にストレートに伝えることをあまり美しいと思わず、曖昧に婉曲的に表現し、それを慮り、察することをよしとしている人々ですから、無理もないことと思います。

直截的に物事を言う人は、空気の読めないデリカシーのない人のように扱われたりします。そういう人の起こす人々の間の摩擦が不快に思えるのでしょう。しかし、そういう慮りゆえに、他人に「ダメ出し」や「ネガティブフィードバック」をしない職場は、働きやすい職場といえるのでしょうか。(文:曽和利光)

「自己認知」はチームワークを高めるコアな要素

働きやすさを決める要素は山ほどありますが、コアなものに「チームワークがうまく機能しているか」というものがあります。ほとんどの仕事は、チームでやるものだからです。

チームワークを強化するために何が必要かといえば、これまた多くの要素がありますが、コアなものにチームメンバーの「自己認知」があります。自分のことがどれだけ分かっているか、ということですが、自己認知の低い人はチームワークが苦手です。

自分の強み・弱みといった特徴を理解していなければ、チームメンバーの中で、自分がどういうポジションを取ればよいのかが分かりません。スポーツに例えるなら、足が遅いくせに「1番バッターをやらせろ」と言ってみたり、肩が弱いのに「ピッチャーをやらせろ」と言ってみたりして、最適な役割配分を乱します。

このように、職場の各人の自己認知を高めることは「働きやすい職場」を作ることに影響を与えそうです。それでは、どうすれば自己認知は高まるのでしょうか。新卒の就職活動で誰もが勧められる自己分析では、多くの場合「自分で自分を分析する」と教えているようなケースが散見されますが、私はそれだけでは難しいと思います。

一人部屋にこもってワークシート的なものを埋めていく作業を通じて自分を知ろうとすることは、それはそれで面白い試みだと思うのですが、人の心にはいろいろなバイアスがあり、それが自己認知の向上を妨げるからです。

「ダメ出し」は職場でできる自己認知向上のサポート方法

例えば人間には、一度持った仮説を強化する情報ばかりを取得しようとする「確証バイアス傾向」があり、自分の力だけで客観的な自己認知をすることはかなり難しいものです。

独力で自己分析を試みても、単に「今すでに持っている自己像」を強化することになったり、社会的に望ましいとされるパーソナリティ(性格や能力)を自分が持っていると思い込みたくなったり。

矛盾するパーソナリティが認知的不協和(矛盾に対する不快感)を起こし、どちらか一方のパーソナリティ特性をないものとして無視してしまったり――。人間力の半端ないどこかの高僧ならわかりませんが、ふつうの人々が一人こもって自己認知を高めていくことは、私は難しいのではないかと思います。

自分ひとりでできないのであれば、他人の力を借りるしかありません。それが冒頭に「日本人がなかなかできない」と述べた「ダメ出し」「ネガティブフィードバック」です。要は、自分では見たくない自分を抑圧してフタをしてしまうことが自己認知を妨げるわけですが、それを避けるために他人の力で思い知らせてもらうのです。

見たくない自分を明確にストレートに指摘してもらえば、よほどの精神的抵抗がなければ(いわゆる精神的健康を害している方などを除き)、グウの音も出ずに受け入れるしかない状態になるということです。それを受け入れることは一時的にはとてもつらいことですが、そのことが自己認知を高め、自分を成長させるのです。

「ダメ出しが多いから働きにくい職場」とはいえない

何度も言いますが「ダメ出し」を受けるのはつらいことです。それだけ見ると、ダメ出しが多い職場は「働きにくい会社」に見えるかもしれません。言い方によってはパワハラとなり、そこまで行くとさすがにそんなダメ出しはダメでしょう。

しかし、言葉遣いに気を付けて、できれば愛情を持ってする「ダメ出し」は、その人を改善します。そのようなネガティブフィードバックを受けない状態が続くと、どうなるか。皆さんの職場の「偉い人」「怖い人」を思い出していただければと思います。

彼らはその怖さゆえ、あまりフィードバックを受けません。北尾トロさんの『キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか』というタイトルの本がありますが、それこそ誰からも鼻毛が出ていると指摘されることなく、ずっと鼻毛ボーボーであるわけです。そういう「痛い人」、周囲にいないでしょうか。

私は、「一時の恥を避けて、一生の恥を受けぬこと」がよいと思います。裏返せば、お互いに良いダメ出しができている職場は、相互にどんどん自己認知が高まり、自己改善がなされて良い人の集まりになっていきます。そういう職場が、結局のところ「働きやすい職場」になっていくのだと思います。皆様の職場でも、ぜひ良い「ダメ出し」が生まれるような仕掛けや雰囲気づくりをされるようお勧めいたします。

あわせてよみたい:京都の老舗に再生ファンドが強烈ダメ出し