トップへ

雨のパレード・福永浩平、新しい“歌のあり方”を語る「日本のポップスを更新していきたい」

2016年07月20日 16:01  リアルサウンド

リアルサウンド

雨のパレード(写真=石川真魚)

 「時代を塗り替えたい」と高らかに宣言し、3月にアルバム『New generation』でメジャーデビューを飾った雨のパレード。彼らが海外の同世代とのリンクを踏まえて提示した「バンドでありつつ、バンドサウンドじゃない」という考え方、つまりはギター、ベース、ドラムといった楽器の他に、サンプリングパッドやアナログシンセを生演奏し、新たなサウンドを生み出すという方法論は、2016年上半期の日本にジワジワと波風を立たせていった。


 そして、7月20日にリリースされるメジャー1stシングル『You』は、福永浩平の「辛い状況にある人を救える曲を書きたいとずっと思ってました」というコメント通り、雨のパレードにとってのソウルミュージックであり、ブルースである。また、アルバムで提示した新たなサウンドの先で、より広いリスナーに届けるための「いい歌」を模索した作品であるとも言えよう。数年後振り返ったときに、間違いなくターニングポイントになっているであろう名曲の誕生について、福永にじっくりと語ってもらった。(金子厚武)


(関連:雨のパレード・福永浩平、バンドシーン刷新への所信表明「僕らが思いっ切りパンチを入れないと」


・「人を助けられる曲を書きたいとずっと思ってた」


ーーまずは2016年の上半期を振り返ってもらいたいと思います。3月に『New generation』でメジャーデビューをして、そのときの取材では日本におけるバンドサウンドの刷新について話していただきましたが、手応えをどのように感じていますか?


福永浩平(以下、福永):僕らなりに手応えは感じています。地方を回っても、SPD-FX(サンプリングパッド)を使ってるバンドが結構いたりして、世代的にも、時代的にも、そういう流れが来てるのかなって。まあ、少しずつ少しずつって感じですね。


ーーちなみに、海外のアーティストに関しては、上半期で誰がよかったですか?


福永:そうですね……ジャック・ガラットにはじまり、Låpsleyもかっこよかったし、今月だとThe Invisibleの新譜もすげえいいなって思いました。ジャック・ガラットは同い年なんですよ。衝撃ですよね、チェット・フェイカー並みの髭を蓄えて、あれで同い年かって(笑)。でも、ああいう界隈では珍しく、ロックの魂を持ってる人というか、ライブにグッと来るものがあったりして。


ーー演奏してる姿を初めて見たときは衝撃でした。


福永:ホントそうですよね。あのパーカッションのタイム感がすごいいいんですよ。あのタメの中にある魂がかっこいいなって。


ーーアルバムに続いて、今度はメジャー1stシングルの『You』が出るわけですが、カップリング曲にはタイアップがついているものの、表題曲がノンタイアップで、メジャーデビューしてまだ数か月の新人が、いきなりシングルを出すこと自体珍しいと思うんですね。逆に言えば、それだけ「このタイミングで出したい」という意志があったのかなって。


福永:レーベルの方々が力を入れてくれてるので、それに応えたいっていう気持ちでずっと曲は書いてるんですけど、シングルを出させてもらえることになったので、僕らとしても気合いを入れて臨んだ一曲にはなってます。


ーーそうやって書き続けてきた中から選んだ曲なんですか? それとも、初めからシングルになることを念頭に置いて作った曲なのでしょうか?


福永:基本的に、僕らの曲って毎回シングルのつもりで書いてるので、その延長線上だったのかなって。常にずっと作ってるんですけど、この曲が出来たときには、「これで行きたい」っていう気持ちになりました。


ーー資料のコメントには「辛い状況にある人を救える曲を書きたいとずっと思ってました」とありますね。


福永:玉置浩二さんの「田園」とか、キリンジの「Drifter」とかって、精神的な困難を経験をした人が聴くとものすごくグッと来るものがあると思っていて、ああいう、人を助けられる曲を書きたいとずっと思ってたんです。今回メジャー1stシングルのタイミングなので、それを書こうと思って書きました。


ーー「田園」って、そういうテーマの曲なんでしたっけ?


福永:玉置さんがそういう経験を経て書いてるものだと僕は認識してて、サビに<生きていくんだ それでいいんだ>って歌詞があるんですけど、僕はそれが答えだと思ってるんです。でも、僕がそれを言うにはまだ若いし、説得力もないなって、書きながら思いました。


ーー「人を救える曲」を書きたいと思ったのは、何か背景があるのでしょうか?


福永:過去にすごく近しい人が精神的に辛くなってしまった時期があって、その後、僕自身もまいってしまって、学校に行ってない時期もあったり。


ーーそんな時期に、福永くん自身を救ってくれたものは何だったのでしょう?


福永:何だったんでしょうね……その時期は現実逃避ばっかりしてたかもしれないです。映画もめっちゃ見てたし、漫画もめっちゃ読んでたし、音楽もめっちゃ聴いてたし。今振り返ると、そういうものに助けてもらってたのかなって。


ーーつまり、「田園」だったり「Drifter」だったりが、そういう曲だった?


福永:でも、当時は「音楽に助けてもらってる」みたいなことはそんなに意識してなくて、振り返ってみればっていうくらいなんですけどね。ただ、大人になってそういう曲を聴くと、「すげえな、こんなの書けないな」って、感動を覚えることが多くて、僕もいつかは書いてみたいっていう気持ちがありました。


・「曲にとっての『本当に大切にすべきもの』っていうのは、メロと歌詞」


ーーコメントには「本当に大切にすべきものを大切にできていればなにがあっても大丈夫だと思っています。雨のパレードにとって本当に大切にすべきものは応援してくれるみなさんです」ともありますね。メジャーデビューをして、ツアーの経験を経て、応援してくれるファンともっと精神的に近づきたいと思ったからこそ、「You」のような曲を書いたんじゃないかとも思ったんです。


福永:そうですね。バンドにとっての「本当に大切にすべきもの」って、いい曲、いいライブ、それとファンを大切にすることだと僕は思ってるんです。それをわかってる人とわかってない人って、結構大きな差があると思ってるんで。


ーー4月に行われたclubasiaでのツアーファイナルで、「尊敬する人物に<僕らが生活できるのはレーベルとか事務所にお金をもらってるからじゃなくて、CDを買ってくれる人がいるからだよ>と言われた」というMCがありましたよね。


福永:「ファンのことは大事にしよう」ってずっと思いながらやってきてるんですけど、最近は少しずつライブの会場とかも規模が大きくなってきて、一人一人に対応することができなくなってきたので、もしかしたら、歌詞で寄り添いたかったっていう部分もあったのかもしれないです。


ーー「You」はすでにライブでもやってるんですよね?


福永:すごく大変です(笑)。


ーーどういう意味で?


福永:今回の挑戦として、間奏をなくそうと思ったんです。僕の聴いてる界隈の方は意外と間奏がなかったりするんで、今回はメロに重きを置いて、間奏をなしにしたら、歌詞の量がものすごい多くなって、ライブで歌い切るのが大変で(笑)。5分半の間に2小節くらいしか間奏ないですからね(笑)。しかも、思い入れも強いから、自分の熱量と歌の技術の折り合いをちゃんとつけて歌うのも難しい。ただ、「ライブで初めて聴いて泣いた」っていう子がいっぱいいたりして、それはすごく嬉しいことですね。


ーー「メロに重きを置いた」という話でしたが、それは僕も今回のシングルに感じたことで、アルバムでまずサウンドの新しさを提示して、今回はそれを踏まえた上で、しっかりと「いい歌」を提示しようとしたのかなって。


福永:あると思います。前からずっと意識はしてるんですけど、よりその思いが強くなったのかなって。より多くの人に届けるためには、やっぱりメロと歌詞だと思うんですよね。曲にとっての「本当に大切にすべきもの」っていうのは、メロと歌詞だなって。


ーー前回の取材のときには、ユーミンやハナレグミも好きだっていう話をしてくれてましたよね。


福永:この前別の取材で「いい歌を歌う人が好きだね」って言われて、確かになって思って、歌にも魅力がある人が僕は好きなのかもしれないです。メロや歌詞がよくても、歌ってる人が好きじゃなかったら、好きにならないのかもなって。


ーー影響を受けたり、憧れてるシンガーっていますか?


福永:どうでしょうね……子供の頃に歌で惹かれたのは、サラ・ヴォーンなんですよね。オシャレな感じになっちゃうけど(笑)。あとはさっきも名前を挙げた玉置浩二さん。母が『スペード』ってアルバムを持ってて、ブルースのアルバムなんですけど、昔それをめっちゃ聴いてて、すごくいいんですよ。この前実家に帰ったときに、何気なくそのアルバムを車で流したら、歌ってると気持ちよくて、歌い方に影響を受けてるのかもなって思いました。


ーー玉置浩二さんはシンガーとしてものすごい方ですもんね。


福永:ホントにすごい。歌に生き方がすごい出てるなって思いますね。


・「自分たちで日本のポップスをかっこよくしようと思ってやってる」


ーーもちろん、「You」からはサウンド面でも前作以上のこだわりが感じられます。


福永:今回は入れたい音を全部詰めれてたんで、満足してます。例えば、最初にパッドで流れてる音は、デイヴ・スミスのProphet'08の和音を揺らして、ピッチが揺れてる感じが最高だなって思うし、あと僕の好きなエレクトロハウスとかエレクトロR&Bの人って、スネアのところにスナップを入れる人が多くて、それもやってみたらすごくハマったし、あとギターのリヴァーブはストライモンのBigSkyを使ってて、声リヴァーブっていう、リヴァーブが声みたいに聴こえる音にしてみたり、あと2Aで使ってるベースの音はシンベっぽい感じにして、それこそジャック・ガラットはベースの音で攻めてる曲が結構多いんで、そこも意識したのと……。


ーーサウンドの話になったら途端に止まらなくなったね(笑)。


福永:今回はホントにいろいろハマったんですよ。2Aのトントンって木を叩いてる音はクラベスをサンプリングして使ってて、あれはAstronomyyが新曲で使ってたのを聴いて、自分たちもやってみたらハマったり……音的には、自分たちが今できる最高のものだと思ってます。


ーーこの勢いで、カップリングの「In your sense」と「morning」についても話してもらえますか?(笑)


福永:「In your sense」はギターのリフを最初に作ったんですけど、Japanese Houseみたいな、80年代っぽい、コーラスとかリヴァーブで深い感じを出す曲にしたくて、ギターにコーラスっぽいのをかけたりしてます。「morning」は挑戦として、ピアノを使ってみようと思った曲ですね。うちのギターが弾いてて、ピアノは初心者なんですけど、いいピアノでレコーディングさせてもらいました(笑)。もともとLåpsleyみたいなイメージで、ギターだとクサく感じるコード進行でも、ピアノならハマるかなって。結構レコーディングで伸びた曲ですね。


ーー「morning」はアレンジ的にはシンプルと言えばシンプルで、ここまで歌が前に出てるタイプの曲はあんまりなかったですよね。


福永:そうですね。そういう挑戦でもありました。


ーーだから、もちろんサウンド面での挑戦もありつつ、やっぱりメジャーからの1stシングルってことで、これまで以上により広くに届けるってことが前提となっていて、「いい歌」っていう部分を大事にしたシングルであることは間違いないのかなって。


福永:より多くの人に聴いてもらいたい気持ちはもちろんありつつ、でも譲れないところもあるので、サウンド的には自分たちがかっこいいと思ってることしかしないっていう、そういう曲になってると思います。前に別の方と話をして再認識したんですけど、ポップスは更新していくものだと思っていて、僕らは自分たちで日本のポップスをかっこよくしようと思ってやってるんです。これがメインストリームになるようにするために、メロと歌詞でしっかり寄り添いつつ、サウンド的には自分たちがかっこいいと思うことだけをやって、それが新しい日本ポップスになればなって思います。


ーーでは最後に、ライブについても訊かせてください。新しい日本のポップスをアピールするには、ライブという場所ももちろん重要で、シングルのリリース後には夏フェスも控えています。まず、現状ではライブの手応えをどのように感じていますか?


福永:やっぱり、列伝ツアー(『スペースシャワー列伝15周年記念公演 JAPAN TOUR 2016』)で大きく成長できたと思うし、ライブっていいなって思いが今は強いですね。楽しいし、意外と自分たちがライブバンドだなって思いました。そんなことないと思ってたんですけど(笑)、スペシャのチームからも「雨のパレードはライブバンドだよね」って言われたり。


ーーフレデリック、夜の本気ダンス、My Hair is Badと、列伝ツアーでは周りに盛り上げるタイプのバンドが多い中、どう対峙するのかっていうのはあったんじゃないですか?


福永:意外と、気持ち的にはすんなり馴染めたかなって。周りから見ると浮いてたかもしれないし、音的にはもちろん浮いてますけど(笑)。


ーーでは、パフォーマンスにおける今の課題は?


福永:歌ですかね、やっぱり。冷静にちゃんと歌うのか、熱量を持って、外してでも歌うのか、どっちかになっちゃってるんで、どっちもちゃんと成立するような歌を歌うために、日々鍛錬です(笑)。あと最近思ってるのは、流れていってしまうようなライブはしたくないと思っていて、一曲一曲本気で伝わるようにっていうのは意識してます。発表会みたいなのはいかんなって。


ーーその「本気で伝える」という意味でも、「You」という曲がこのタイミングで生まれたことはとても意味のあることだったと思います。9月にはワンマンツアーもありますし、下半期の活動も楽しみです。


福永:次のステージに行きたいというか、もう1ランク上のライブがしたいですね。最強のバンドになりたいです(笑)。(取材・文=金子厚武)