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OBLIVION DUST、新作『DIRT』でロック最前線へ! 兵庫慎司がバンドの歩みと現在地を読む

2016年07月19日 17:21  リアルサウンド

リアルサウンド

OBLIVION DUST

 久々に「聴いた瞬間に声を出して笑う」という経験をした。おもしろいから、おかしいからではなく、あまりに痛快だから出る類いの笑いだ。OBLIVION DUSTの新作=ミニ・アルバム『DIRT』収録の7曲は、そのような「かっこええ!」とか「やられた!」とか、はたまた「キた!」とか言いたくなる、そんな感触に満ちている。


(参考:VAMPS、でんぱ組.inc、藍井エイル……アーティスト海外展開が広がる背景は?


 90年代後半にデビューし、2001年に解散したが、2007年に再結成。音楽的支柱であるK.A.Zは、HYDEとのバンド、VAMPSのギタリストとしても知られている。ヴォーカルのKEN LLOYDは英日のハーフでロンドン育ち、歌詞は英語(昔は日本語詞の曲もあったが)。音はヘヴィ・ロックやオルタナティヴの系譜で、その時代その時代の洋楽とダイレクトにつながっている──。


 OBLIVION DUSTをご存じない方に説明するなら、ざっとこんな感じになるだろう。ただし、デビューから解散までの時期も彼らを知っていても、今こうして新しい音に触れなければ、おそらく気づかなかったことがある。


 このバンド、こんなにあとに続くバンドの指標になっていたのか、こんなに後輩たちに影響を与えていたのか、ということだ。


 彼らがデビューした1997年は、ロックと、ハウスやテクノなどのいわゆるデジタル系のダンス・ミュージックが融合した音が、世界の音楽シーンを席巻している時期だった。


 ケミカル・ブラザーズ、アンダーワールド、ファットボーイ・スリム、それぞれアプローチや方法論は全然違うが、ロックとダンス・ミュージックのすぐれたところを併せ持ったハイブリッドな音でトップに君臨している、そんな時代だった。デビューしたばかりのOBLIVION DUSTが来日公演のオープニング・アクトを務めたプロディジーもそうだ。


 日本でもそのような動きが起こった。田中フミヤやKEN ISHIIといったトラックメーカーたちは純テクノのままでロックのフィールドにも切り込んで行ったし、もう少し前の時代から活躍していた電気グルーヴが国内で大ブレイクしヨーロッパへ進出したのもこの時期だ。そして、BOOM BOOM SATELLITESのように、ダンス・ミュージックと生のロック・バンドを組み合わせることで斬新なサウンド・フォーマットを生み出す存在も現れた。


 そのブンブンが、ダンス・ミュージック側からロック・バンド側へアプローチすることで新しい音楽を作り出した例だとしたら……いや、元々の出自はロック・バンドだし、本人たちは当初から「僕たちはロック・バンドです」と公言しているので必ずしもそうは言えないのだが、「ベルギーのテクノ・レーベルR&Sからデビューして逆輸入」とかそういうイメージも込みで、とりあえずこの場ではそういうことにさせてください。


 話を戻すと、ブンブンが「ダンスからロックへのアプローチ」だったとするなら、その逆の「ロックからダンス・ミュージックへのアプローチ」の、当時もっとも早く、そしてもっともすぐれた例がOBLIVION DUSTだったのではないか。


 申し訳ないが、当時はそんなふうには思っていなかった。前述のプロディジーのオープニング・アクトのステージも観ているのに、新しくて本格的なオルタナティヴ/ヘヴィ・ロックのバンドなんだな、という認識をしていた。いや、「当時は」というか、再結成した最初のアルバムの頃になっても、まだそんなふうに思っていた気がする。


 ただ、僕みたいなどんくさい奴はわかっていなかったが、ちゃんとそこにひっかかっている耳のいい人もいる。それが後続のミュージシャンたちだった、ということだ。


 たとえばCrossfaith、たとえばcoldrain、あと、もっと上の世代だと解散してしまったPay Money To My Painあたりまで入れてもいいかもしれないが、それらのバンドの新しくてラディカルな音を聴いたり、すばらしいライブ・パフォーマンスを観たりした時に、「あ、でもこの空気、なんか知ってるな。どこかで出会ってるな」と感じることが何度もあったのだが、「そうだ、OBLIVION DUSTだ」と気がついたのだった、『DIRT』を聴いて。


 前作や前々作でそう感じたってよさそうなもんなのに、なんで今。というのは、僕がどんくさいのもあるが、バンド側の音のアプローチも変わったのかもしれない。よりストレートに、よりシンプルな方向に。


 元々プレイヤーとしてすぐれたメンバーが集まっている上に、K.A.Zのコンポーザーでありアレンジャーでありサウンド・プロデューサーでありエンジニアでもある、という資質もあってか、とてもハイ・クオリティだが、そのレベルの高さや複雑さが必ずしも聴き手に伝わらないこともあったりもする。OBLIVION DUSTのサウンド・プロダクトはそういうものだったのかもしれない。と、シンプルでストレートな楽曲が並んだ『DIRT』を聴いていると思う。ギターをギャーン! が鳴った瞬間に「うわあかっこいい」と思考放棄して盛り上がってしまう、ロックにはそういうよさもあるが、これまでの作品の中で、もっともそんな直接性が前に出ている気がする、この7曲は。


 リズムは重くて速くてまっすぐで、リフはシャープでかっこよく、シーケンスは不穏さや危険さをかきたて、そして歌はドラマチックに。それ普通じゃん、と言われそうだが、やっているのがOBLIVION DUSTだから普通にはならない。そして、そんなようにシンプルになったことで、「ルーツであること」と「現在であること」の両方が表れている音になった、と言える。


 VAMPSはすごく精力的に活動しているし、RIKIJIはOBLIVION DUST以前からMEGA 8 BALLのベーシストである上に、現在も特撮などのサポートを務めているし、再結成時からサポートを務めるドラムのARIMATSUは、K.A.Zと共にVAMPSで、RIKIJIと共に特撮でもプレイしている。KENのFAKE? も続行中だ。


 というような状況なので、常にこのバンドが動いている状態にするのは、どうやら難しいことのようだ。再結成以降、短いツアーは毎年のように行っているが、新作はこの『DIRT』で3枚目、しかも前作から4年も空いている。


 ただ、この作品と、8月に行われる5本のツアー以降は、何かが変わってくるのではないか、という予感がする。こんなに攻めた、こんなに今の音の作品を作ってリリースする、ということは。(兵庫慎司)