トップへ

KinKi Kids、“歌謡”のワードで結ばれた吉井和哉との必然コラボ 7月20日発売の注目新譜5選

2016年07月19日 13:21  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)タナカケンイチ

 その週のリリース作品の中から、押さえておきたい新譜をご紹介する連載「本日、フラゲ日!」。7月20日リリースからは、KinKi Kids、Da-iCE、GLIM SPANKY、THE BAWDIES×go!go!vanillas、YEN TOWN BANDをピックアップ。ライターの森朋之氏が、それぞれの特徴とともに、楽曲の聴きどころを解説します。(編集部)


(関連:KinKi Kids、アニバーサリーイヤーどうなる? 堂本剛が見せた“ファン第一”の姿勢


■KinKi Kids『薔薇と太陽』(SG)


 デビュー20周年を迎えたKinKi Kidsのニューシングル『薔薇と太陽』の作詩・作曲は、今年16年ぶりの再結成を果たしたTHE YELLOW MONKEYの吉井和哉。キンキ×吉井和哉のコラボレーションはすでに大きな話題を集めているが、筒美京平、馬飼野康二、山下達郎といった作家陣とともに正統派の歌謡曲を受け継ぐキンキと、ソロ時代に「真っ赤な太陽」(美空ひばり)「襟裳岬」(森進一)などをカバーしていた吉井との相性は抜群。ロック×ラテンを基軸にしたサウンド、色気と哀愁を濃密に反映させた歌詞がひとつになった「薔薇と太陽」は、昭和歌謡というワードで結ばれた両者の必然なのだと思う。ジャケット写真は俳優の斎藤工。これはバラエティ番組『KinKi Kidsのブンブブーン』(フジテレビ系)の“斎藤工と昭和ノスタルジック巡り”の回で撮影されたもので、やはり“昭和”が鍵になっている。J-POP以前の風景を感じさせる、つまり歴史とつながっている感覚もまたKinKi Kidsの音楽の魅力なのだと思う。


■Da-iCE『パラダイブ』(SG)


 国内外とコリオグラファーとタッグを組み、シンクロ率の高いダンスパフォーマンス(と卓越したハーモニー)を軸にしたステージングによって10~20代女子を中心に強い支持を集めているDa-iCEのニューシングル。ライブ中心の活動で“現場に行かないとメンバーを見られない”というファンの飢餓感を高めている部分もあると思うのだが、9thシングル『パラダイブ』は“この曲をパフォーマンスしているメンバーを見たい! 一緒に盛り上がりたい”という欲望をさらに引き上げる楽曲だ。EDMサウンドにラテンのフレイバーを散りばめたトラック、気持ちよく飛び跳ねるようなボーカルライン、“白い砂浜”“線香花火”など夏を想起させる歌詞、そして、シンガロング必至のコーラスがひとつになったこの曲は、この夏の盛り上がりソングとしてとことん機能するはず。レコード会社の資料にも”禁断タオル回しソング”と記されているが、ライブ会場の一体感を強く意識したプロダクションは、夏フェスに臨むロックバンドのそれとまったく同じと言っていいだろう。


■GLIM SPANKY『Next One』(AL)


 桑田佳祐、佐野元春、いとうせいこう、野宮真貴などが絶賛、さらに映画『ONE PIECE FILM GOLD』の主題歌として「怒りをくれよ」を提供するなど、驚くほど幅広いフィールドに訴求し続けているGLIM SPANKYの2ndフルアルバム。60年代のサイケデリックミュージックの影響を感じさせる「闇に目を凝らせば」、稲垣足穂の世界観をモチーフにしたというフォーキーなナンバー「NIGHT LAN DOT」、アレン・ギンズバーグの詩からインスパイアされた「いざメキシコへ」など、松尾レミのバックボーンが色濃く反映された楽曲が並ぶが、決してマニアックにならず——“本物のロックをお茶の間で鳴らしたい”という彼らの思いとともに——現代的なロックミュージックへと昇華させているところが素晴らしい。そのポイントは亀本寛貴のアレンジセンス。松尾の強烈なボーカルに注目が集まりがちだったGLIM SPANKYだが、幅広い音楽的視野を持つ亀本のサウンドメイクが向上したことにより、“オーセンティックなロックを現代の音楽として成立させる”というこのユニットのコンセプトがさらに高い精度で具現化されているのだ。2016年の日本でロックを鳴らすことの意義を感じさせてくれる、きわめて稀なアーティストだと思う。


■THE BAWDIES × go!go!vanillas『Rockin’ Zombies』(SG)


 レーベルもマネジメントも同じ先輩・後輩バンドによるスプリット・シングル。THE BAWDIESの「45s」はノイジーかつエッジ—なギターリフ、シンプルで荒々しいビートが突き刺さるガレージテイスト満載のナンバー。原点回帰とも言えるアグレッシブなサウンドメイク、ROYの乱暴なボーカリゼーションも強烈なインパクトを放っている。そしてgo!go!vanillasの「ヒンキーディンキーパーティクルー」はカントリーのテイストをたっぷりと取り入れたパーティ・チューン。気持ちよく開放されていくメロディラインからは、このバンドのポップセンスの高さがしっかりと伝わってくる。“ロックンロールへの憧れと愛着を2016年の音楽へつなげる”というテーマを掲げる両バンドだが、そのスタイルはほとんど真逆と言っていい。本作を通してバンドの個性の違いを確認できたこと、そして、ロックンロールという音楽の多様性を改めて感じられたことの意味はきわめて大きいと思う。


■YEN TOWN BAND『diverse journey』(AL)


 前作『MONTAGE』(1996年)以来、20年ぶりとなる新作アルバム。“もともと映画『スワロウテイル』(1996年)の劇中バンドとして立ち上げられたYEN TOWN BANDが今活動する意図は?”という論考は多くのメディアでなされたわけだが、まずはそういう文脈を抜きして、真っ新の状態でこのアルバムを聴いてみてほしい。60~70年代のオーガニックなロックミュージックの手触りを残しながら、2010年代の新しいロックサウンドを構築する試み、そして、アルバム全体を通してディテールを作り込み、それを壮大な世界観ーー本来の意味通り、世界全体を定義しようとする行為ーーへと結実させるコンセプトワーク。ヒットメイカーは数多いが、アルバムというフォーマットをここまで有意義に機能させられるプロデューサーは小林武史以外には見当たらない。情報をチェックするように聴き流すのではなく、じっくりと時間をかけて音楽を堪能することの豊かさをぜひ体験してほしいと思う。(森朋之)