PCメーカー、エイサーの広報を経て、現在はフリーのPRプランナー、そして編集・ライターとしても活動している砂流恵介さん。ウェブを中心に「ゲリラPR活動」を行い、機転の効いた企画が何度も業界内外で話題になりました。
そこで今回、多くの人の印象に残るPRを展開してきた砂流さんに、アイデアと出会うためにやっていることを聞いてみました。(インタビュー・文:ミノシマ タカコ)
PRは切り口が多彩。「響く切り口」をいくつ用意するか
――砂流さんといえば、2013年にエイサーに在籍されていたころ、ロケットニュース24の記者さんに同社のPCをプレゼントした話が記事化され話題になりました。PR活動をする中でどのようなことを意識されているのでしょうか。
ロケットニュースさんにエイサーのPCを使ってもらうという企画は、記者の方が「エイサーが好き」と記事で書いているのを見て思いつきました。エイサー時代は他にも、新製品のタブレットを「艦これが出来るタブレット」としてPRしたりしていたのですが、いずれも流行りそうなものや、話題になっているものにうまく乗るということが基本にあります。
それと、広告はひとつの事柄についてストレートに言う方が伝わることが多いですが、PRは多彩な切り口があります。すでに認知されている商品や、ものすごいインパクトがあるものだったらそれほど切り口を考えなくても響くかもしれませんが、はじまったばかりのベンチャーやスタートアップの製品やサービスなどは色々な切り口を用意しないとメディアの側も反応してくれません。だからこそ、どれだけ「人に響く切り口を用意できるか」がカギになります。
響く切り口を見つけるために (1)自分の中にストックを作る
――響く切り口を作るためには、なにかされていますか?
以前は古い広告をよくネットで見ていました。カンヌライオンズという、世界で一番イケてる広告を発表する広告賞があるのですが、過去の受賞作を見ると、すごく本質をとらえていたり、アイデアがすごかったりで勉強になります。
その中で面白いと思ったものをストックして、一時期ブログに書いていました。なにが「すごい」のか、改めて言葉にすることで自分のなかでも整理ができますし、自分自身の引き出しの数を増やすことができたのではと思っています。
――最新のものを追いかけるだけではなく、過去の作品からも学ぶのですね。
僕が師匠と仰いでいる博報堂ケトル代表の嶋浩一郎さんは広告やPRに詳しくて色々な事例を知っています。広告代理店の優秀な人たちは広告の事例について、なぜこうなったかを噛み砕いて理解していることが多いです。ほかの職業で広告を大量に見ることは難しいかもしれませんが、空いている時間にYouTubeなどで少しずつ見ることはできるので、それくらいはやろうと思っていました。
響く切り口を見つけるために (2)人に会う
――アイデアを出すために最近特に意識していることは何ですか。
意識して人に会うようにしています。自分の仕事のアイデアに繋がるかわかりませんが、一流の人たちの仕事の話を聞くのは何よりの刺激になっていますね。
この2、3年は同世代3人で何か月かに一度、最近面白いと思っていることや出会った人についてよく話し合っています。メンバーはカヤックで人事をやっている三好晃一さんと電通のコピーライター阿部広太郎さんです。もともとはエイサーにいたころ、「編集をやったことがない人間が編集について語る」という飲み会をこのメンバーでやったことがきっかけです。
――限られた時間の中で、人に会うときに意識していることはありますか。
大人数の場だと、せっかく行っても一人一人とじっくり話すことができないので、ほとんど行かないようにしています。でも直感的に面白そうと思ったものには、無理しても行こうと心掛けていますね。
――その中でアイデアに出会うこともありますか?
人と話しているとき、特に飲み会でくだらないことを話しているときに面白いアイデアが思い浮かぶことが多いです。ブレストなどは、一人よりも何人かでやっているほうが絶対面白いものが生まれますしね。
響く切り口を見つけるために (3)業界の「師匠」から徹底的に学ぶ
――砂流さんは、先ほどお話に出た嶋さんと「ウェブはバカと暇人のもの」で有名な編集者の中川淳一郎さんが「師匠」とのことですが、師匠からはどのように学んでいるのですか。
僕、嶋さんと中川さんのトークショーやゼミは、一時期全部出ていたんですよ。ずっと追いかけて何度も同じ話を聞きながら、自分のなかで消化し、言われたことを試して……ということを繰り返しています。
――憧れの人を追いかける感じですね。
ちょっとつまむだけでは学んだことにはならないと思っているので、積極的に追いかけるようにしています。でも、みんなつまもうとするんですよね。
僕の中に「大好き理論」というのがあります。「大好き」って周囲に言っていると情報が集まったりすることが多いんです。例えばJUDY AND MARYがずっと好きだったことが、現在、TAKUYAさんがやっているコミックバンド「商店街バンド」の広報という形につながりました。あと普段から嶋さんについて「大好き」って言ってると、まわりが嶋さん情報をくれるんですよね。「大好き」ってすごい力だなと思います。
一見無理だと思われるアイデアを実現させる方法
――ご自身では面白いと思っても周りから反対されることはなかったんですか。
めちゃくちゃあります。でもOKを出さざるを得ない状況をちゃんと用意しておいて提案しています。
以前、こんな企画をやったことがありました。エイサー(acer)ってロゴをひっくり返すとジェイス(jace)と読めてしまうんです。そこで、ニコニコ超会議用にエイサーがジェイスとして紹介されるCMを作ることになりました。1回もエイサーって言わないので、100%怒られるのは分かっていました。
そこで、社内向けに超会議の資料を50枚以上を作り、その中に1枚だけジェイスの話をいれたんです。プレゼンのときは、「超会議でこういうことをやり、CMをつくります。ちなみに知ってました? エイサーって反対から読むとジェイスって読めるんですよ。あとは資料を見てください」って言ったんです。でも皆忙しいから、50枚の資料を1枚1枚見てハンコを押す人はいない。結果、企画が通りました。
当然出来上がったCMを見て、みんな愕然としていました。でも作ったからには使いたい。対抗策として、エイサーではなく、あくまでもドワンゴさんが作ったCMということにしました。でもこれは最悪クビかもとは思いましたね。
――結構な覚悟ですよね。
ちゃんと逃げ道も用意しているけど、最悪クビになってもいい。でもジェイスが原因でクビになったほうが面白いなと思ったんです。
リストラも経験、ネガティブな要素もネタ扱いに
――こう見せたら自分もネタになる、ということを考えていたりするのですか?
やっぱり先輩方をみていると逆境の時ほど、本当のチャンスに変えている方が多いんですよね。僕は30歳のときリストラで会社を退職したのですが、そのとき師匠の中川さんが「無職をやった方がいいよ」って言ってくれたんです。じゃあ、無職で一番有名になろうと思って、ルーキー無職の僕と当時ベテラン無職だった大川竜弥さん(編注:現在は自称・日本一インターネットで顔写真が使われているフリー素材モデルとして活躍中)とマーケティング論を語る企画をやったりしましたね。
無職もリストラも、ものすごくポジティブにとらえていますし、すごくキャッチ―なんですよね。ネガティブなものを明るく話すと相当距離感というかギャップができるので、結構注目されるんです。だから自分のネガティブな要素もネタになるなあと思っています。
【砂流恵介さんプロフィール】
1983年生まれ。元エイサーの宣伝・広報。ゲリラPR活動家。「商店街バンド」の広報。攻殻機動隊 REALIZE PROJECT 編集長。「宣伝会議」のWeb広報講座の講師。「東洋経済オンライン」や「しらべぇ」など、様々な媒体でライターとしても活動している。
Twitter → https://twitter.com/nagare0313