トップへ

笑って泣けるホラー『死霊館 エンフィールド事件』のワイルド・スピード的方法論

2016年07月18日 23:11  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC ALL RIGHTS RESERVED

 「笑って泣ける〇〇」とは、宣伝でよく使われる定型句の一つであるが、現在公開中の『死霊館 エンフィールド事件』は「笑って泣けるホラー映画」と言うべきだろう。


参考:『死霊館 エンフィールド事件』はホラーの枠を超える傑作だーー天才監督ジェイムズ・ワンの演出手腕


 本作は、アメリカに実在する心霊研究家ウォーレン夫妻が、実際に体験した怪事件を描く! という触れ込みの『死霊館(13年)』の続編だ。前作は『SAW』(04年)でデビュー後、『狼の処刑宣告』(07年)『インシディアス』(10年)など、快作を連発し続けていたジェームズ・ワンが監督を務め、幽霊屋敷モノという古典的なテーマながら、「音」と「映像」を巧みに使うことで新鮮な恐怖映画に仕上がっていた。その続編である『エンフィールド事件』では、もちろんワン監督と主要キャストが続投。舞台をイギリスに移し、ウォーレン夫妻が再び悪霊の住む家の恐怖に挑むわけだが……その映画の方向性は、前作とは明らかに異なっている。ワン監督の見事な恐怖演出に加えて(ワン監督の必殺技とも言える、独特のカメラワークが連発!)、今までのワン監督にはなかったとも言える、エモーショナルな部分が加味されているのだ。つまり、怖いところはとことん怖く、その一方で笑えるところは笑えて、しかも胸に来るようなエモーショナルさがあるのだ。俗にも「恐怖と笑いは紙一重」と言うが、それゆえに、そのバランスをコントロールするのは難しい。「恐怖」に傾き過ぎれば「ドン引き」に、笑いに傾きすぎれば「どっちらけ」の状態になりがちだ。しかも「泣ける」的な要素を加えるとなると――、三つの要素を全て立たせるのは至難の業だ。しかし、ワン監督はそれを成し遂げている。これはちょっと異常と言ってもいいだろう。いったいワン監督は何故、こんな難しい仕事をやってのけることができたのか?


 ここで注目すべきはワン監督の前作『ワイルド・スピード SKY MISSION』(15)だ。『ワイルド・スピード』と言えば、2016年現在、最も成功しているフランチャイズ映画であり、まさにハリウッド・エンタテイメントの超王道と言っていいだろう。『SKY MISSION』も、ロスの暴走族が世界を救うために車で空を爆走する娯楽大作であり、同時に主演のポール・ウォーカーの事故死という不幸に見舞われた作品でもある。この映画でワン監督はロスの街中でミサイルが飛び交う大アクションを演出しつつ、ポール・ウォーカーとの映画史上に残る感動的な「別れ」を描いてみせた。この別れのシーンは世界中を涙で包み、ここで印象的に使われたウィズ・カリファの楽曲『See You Again』は12週連続ビルボードチャート1位という特大ヒットになった。


 ワン監督は恐らくここで何かを掴んだのだろう。その何かとは……、ワイルド・スピード的な方法論、つまり「ワイスピメソッド」とも言うべきものである。つまり、驚異的なテンポの良さと、友情の尊さという普遍的なテーマを主題に置き、その友情が最高に高まる瞬間を音楽で印象的に盛り上げるやり方だ。そう思って見ると、本作の随所にワイスピ的な部分が確認できる。ウォーレン夫妻や、心霊現象に苦しむイギリスの絆を感じさせる描写は、明らかに前作より強くなっている。この「ファミリー感」はワイスピのそれに近い。さらに、特筆すべきは音楽の使い方である。本作ではエルヴィス・プレスリーの『好きにならずにいられない』が使われているが、これがワイスピの『See You Again』にも勝るとも劣らないエモーショナルなシーンを作り上げている。それに、心なしかウォーレン旦那は前作以上にタフガイになっているし、クライマックスは、ほとんどアクション映画のテンションだ。劇中でチラっと出てくる車を走らせるシーンも、若干ワイスピっぽくカッコいい撮り方をしている。


 本作はワイスピのノリがあるホラー映画である。もちろん、このようなワイスピのノリを持ち込んでおきながら、怖いところはちゃんと怖い。しかも、人を選ぶグロテスクなシーンもほとんどなく、家族やカップルで見るのにも最適だろう。本作は、怖くて、笑えて、泣ける、極上のエンタテイメント映画である。まさに夏休みにピッタリの映画だと言えよう。(加藤ヨシキ)