カナダ・トロントで開催されたインディカー・シリーズ第12戦。17日に行われた決勝レースは、ピットインタイミングが功を奏したウィル・パワー(チーム・ペンスキー)が制し、今季3勝目を挙げた。佐藤琢磨(AJフォイト)は、レース中盤にストラテジーを変更。表彰台に届かなかったものの、今季2度目の5位フィニッシュを果たした。
ポールポジションを獲得しながら体調不良で決勝不出場という不運なスタートを切り、タイトル争いから取り残されてしまった感のあった2014年チャンピオンのウィル・パワー。しかし、デトロイトでのダブルヘッダー2戦目にしてようやく今季初勝利を挙げると、雨天中断中のテキサスを挟んで、久しぶりの開催となったロード・アメリカのレースで大観衆を前にシーズン2勝目をマーク。
これで一気に勢いに乗り、続くアイオワのショートトラックでは終盤にエリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)とスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)という強豪たちを豪快にパスして2位フィニッシュ! そして今日、彼はピットインしたタイミングでアクシデント発生という幸運を味方につけてシーズン3勝目を挙げた。
この4戦で3勝と2位1回。シーズン開幕からの4戦で現ポイントリーダーのサイモン・ペジナウ(チーム・ペンスキー)が記録した優勝2回と2位2回という驚異的な好成績をパワーは上回った。今日のペジナウはピットタイミングが悪かったことも影響し、フィニッシュは9位。シーズン前半のような勢いは今のペジナウには感じられない。
85周のレースの58周目、ターン5でジョセフ・ニューガーデン(エド・カーペンター・レーシング)がクラッシュした。ちょうどこの時、パワーはピットで給油とタイヤ交換中。彼より上位を走っていたドライバーたちは全員がフルコースコーション中にピットし、パワーは彼より更に前にピットしていたトニー・カナーン(チップ・ガナッシ)の後ろの2番手となった。
そして、カナーンが燃料補給のためにゴール前10周でピット・インすると、パワーは難なくトップに躍り出て、2番手に浮上してきていたエリオ・カストロネベスとの差を悠々とコントロールしゴールを目指した。残り5周となったところでジャック・ホークスワース(AJフォイト)がクラッシュ。最終ラップにリスタートが切られたが、パワーはカストロネベスを突き放してゴールした。
「作戦も良かったが、マシンも最高だった。ポイントリーダーを追いかけ続ける展開で、ポイント差を着実に詰め続けることができている。この調子で差を縮め続ければ、最後にチャンピオンとなるチャンスが得られるはずだ」とパワーは語った。
デトロイトで勝った後、パワーは「ポイントリーダーより上位でフィニッシュし続けるのみ!」と宣言したが、以来、それを本当に実践し続けてみせている。デトロイトでのレース1後にペジナウとの間にあった124点という大差が、今日のレース後には47点にまで縮まっていた。もはやペジナウは完全にパワーの射程内に入った。
今後はどちらに大きなプレッシャーが襲いかかるのか? それはおそらくタイトル獲得経験のないペジナウの方にだろう。大量ポイントリードをシーズン中盤に築き上げておきながらタイトルを取り逃たら、それは大失態だ。面子にかけてもそれは絶対に避けたいと考えるだろうペジナウにより大きなプレッシャーはのしかかっていく。対するパワーは、失う物は何もない。単純に追撃モードでプッシュし続ければいい。残るは中断中のテキサスを含めて5戦だ。
オーストラリア出身のパワーは2006年、フランス出身のパジェノーは2007年にアメリカン・トップフォーミュラにチャンプカー・シリーズでデビューした。2007年、彼らはウォーカー・レーシングでチームメイトで、その9年後、シリーズ最強のチーム・ペンスキーで再びチームメイトとなった。宿命のライバルといっていいふたりは、インディカー・チャンピオンの座をかけた激闘を今後の5レースで繰り広げる。
今日のレースでは地元トロントのジェイムズ・ヒンチクリフ(シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)が予選6位から3位でゴールして表彰台に上った。母国カナダでのベスト・フィニッシュで、スタンドを埋めたファンから大きな喝采を浴びた。
4位はゴール目前で燃料のスプラッシュを行なったカナーンのものとなった。
そして、5位でゴールしたのが佐藤琢磨(AJ・フォイト・レーシング)だった。予選20位で最後尾から2列目のスタート。序盤はなかなか順位を上げれずにいた琢磨だったが、2回目のピットストップを少し早目の46周目に、フルコース・コーション下で行った彼は、燃費セーブとハイペースを両立させ、ゴール目前にチームメイトのアクシデントによるイエローが出たことにも助けられ、今シーズン・ベストタイとなる5位フィニッシュ(1回目はロングビーチ)を達成した。
「作戦が良かったこともありますが、今日こうしてトップ5フィニッシュできたのは本当に嬉しいですね。土曜日にはセッティングが悪くなっていましたが、今日はブラックでもレッドでも安定した走りができるマシンになっていたので、燃費をセーブしながらも速いペースを保って戦い続けることができました」
「終盤戦は速いマシンが後ろに何台も迫っていて厳しい戦いになっていましたが、アレシンらを封じ込めることができ、振り返ってみればエキサイティングで、そして楽しいレースになっていました。この調子で次のミド・オハイオからもいい走りを見せ続けたいですね。来週テストに行けますし、楽しみです」と琢磨はコメントした。