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視聴率20%切りで批判増す『とと姉ちゃん』、“小橋家ダメ出し”で視聴者の声を代弁?

2016年07月18日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『とと姉ちゃん』公式サイトより

 花山伊佐次(唐沢寿明)の過去が語られると同時に、小橋家への辛辣なダメ出しがおこなわれた『とと姉ちゃん』十五週。


 五反田一郎(及川光博)から花山に相談するように進められた小橋常子(高畑充希)は、花山の家を訪ねる。久々に再会した花山は相変わらず偏屈だったが、常子の作った雑誌「スタアの装い」を読んでいた。


参考:『とと姉ちゃん』いよいよ出版社立ち上げへーー弱肉強食の戦後社会で女たちはどう戦う?


「買ったことを後悔したよ。何を見せたいんだ? 文章か? 洋服か? テーマは何だ!? どのページも見ても同じような割り付けで飽き飽きする。紙も劣悪で手触りも悪い。こんなものに7円払うなら、ちり紙を100枚買うことを勧めるね! そもそも君は読者を想像できていない。外国人や一握りの令嬢が着るような浮世離れした洋服を載せて何になる? 周りを見てみろ! 焼け野原の中、食う物も着る物も最低限しかない中で生きてるんだ。作り方を載せたところで、材料などどうやって手に入れる? 型紙も載せないで、読者が本当に作れると思うのか?」


 花山の強烈なダメ出しを聞いて、編集長になってほしいと打診する常子。しかし花山は二度とペンを握らないという。花山はかつて戦争に徴収されたが、結核にかかり除隊し内務省で宣伝の仕事をするようになる。お国が勝てばすべての国民が幸せになれると思い、仕事に関わってきたのだが、自分が信じていたことが間違っていたと終戦の時に悟る。そして、言葉の力を無自覚に振るってきたことを後悔し、二度とペンを握らないと決めたのだった。


 花山の言葉を聞いて常子は一旦、その場を去る。その後、常子が忘れていった小銭入れを届けるために小橋家に向かった花山は、母親の君子(木村多江)に雨漏りを直しに来た大工だと勘違いされてしまう。なんとか誤解を解こうとする花山だったが、几帳面な性格がうずいてしまい、屋根の修理だけでなく、傾いていたちゃぶ台の修理までしてしまう。シリアスな展開が続いていただけに、ここで花山のコミカルな姿を見せる緩急の付け方は実に見事だ。


 そして、小橋家の内情を知った花山は「一度だけ」という条件で雑誌の編集長を引き受ける。鞠子(相楽樹)の文章には「わかりやすく簡潔に書け」、美子(杉咲花)の挿絵には「単調で面白みがないからポーズに角度をつけろ」と雑誌の弱点を次々と指摘していく花山。これが実に的確であると同時に、先週の展開を全否定しているのが面白い。


 先週(第十四週)は、第82回の平均視聴率が19.4%(関東地区)とはじめて20%を切ったこともあってか、『とと姉ちゃん』に対する批判がSNSやネットニュースで増えはじめたように感じた。元々、朝ドラは感情的な感想が多く、賛否は両極に別れがちだ。それ自体は人気作の証明なのだが、出版社を立ち上げる際の物語の運び方や雑誌の作り方に甘さが見えたため、作品を批判してもいいという空気が、少しずつ出来上がっていたように思う。


 そんな中、花山による小橋家に対するダメ出しが視聴者の気持ちを代弁するかのようにおこなわれたのだ。今回のように、最初に出した結論にわざと違和感を残し、次週で常子のやっていたことが甘かったと見せることで、問題の本質に踏み込んでいくという描き方が『とと姉ちゃん』では繰り返されている。しかし、このやり方は、視聴者との信頼関係が出来上がっていないと成立しない手法だ。特に朝ドラは、毎日、何となく見ている人が多く、ほとんどの人が全体の流れを把握していない。だからこそ敷居が低く、多くの人が楽しめるのだが、『とと姉ちゃん』のように週をまたいでテーマを掘り下げていく作りだと、視聴者が続きを待ってくれずに、最初の浅い意見が作り手の結論だと誤解されてしまうのだ。


 また、西田征史の脚本が、日常を大切にすると言いながら、生活描写よりも理念を語ることが先行していることも反発を呼ぶ原因となっているのだろう。私自身は物語の理念に共感するため好意的に見ているが、平塚らいてうの言葉を全面に打ち出して女性の自立を高らかと謳いあげる姿も、彼女の思想に共感していない人にとっては、押しつけがましく見えてもおかしくない。小橋家の明るい姿も、悪い意味での朝ドラ的なぬるさを体現しているため、現実を無視した理想を描いているように見えて、それが更に印象を悪くしている。


 そんな小橋家に対する苛立ちを、花山が引き受けてダメ出ししていく。花山は小橋家にとっては新しい父親とも言えるが、そんな彼が「女性の目線を持っている」と言われるのは、とと(父)として振舞う常子との対比となっており、男女の役割をかく乱しているようで面白い。かくして、「スタアの装い」第二号は、貧しい庶民の役に立つ情報を載せる雑誌へとリニューアルされ、下着の作り方を掲載したところ、見事完売する。


 花山は編集長をやめて新しい仕事をはじめるのだが、事務所が入るビルの建設予定地で、戦争で家族を失ったことで精神を病み、今も戦争が終わっていないと思いこんでいる男と遭遇する。戦争が残した傷跡の深さに直面した花山は、「毎日の暮らし」こそが、もっとも大切なのだと改めて実感する。そこで常子から“豊かな暮らしを取り戻す雑誌”を一緒に作ろうと言われ、再びペンを握る決意をするのだった。(成馬零一)