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衝撃の初PP獲得。バンドーンが見せた欧州スタイルでの富士攻略法

2016年07月16日 20:51  AUTOSPORT web

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シルバーストンでのF1テストからすぐに来日したバンドーン「今のところそんなに疲れは出ていないよ。たしかに、レースに向けて理想的な入り方とは言えないよね」と苦笑い。
予選会見の終盤、ストフェル・バンドーンが予選3位を獲得した隣のJ-P.デ・オリベイラの方を向いて、左腕の時計の位置を指さした。“いつまで続くんだ?”というようなジェスチャーだった。その少し前には、会見の質疑応答があまりにバンドーンに集中していたため、オリベイラが同じく予選2位で会見に並んでいた石浦宏明にジェスチャーで後ろのドアを指し“俺たちは帰ろうぜ”と冗談を交えていた。そのくらい、初めての富士でスーパーフォーミュラ3戦目にして初のポールポジションを獲得したバンドーンの予選の走りは強烈で、会見ではメディアの質問を一手に受けることとなった。

 バンドーンの初PPの衝撃は、まずはタイムから読み取ることができる。バンドーンが記録したポールポジションのタイムは1分40秒778。2番手の石浦は1分41秒050で、約コンマ3秒差。3番手のオリベイラが1分41秒132で、8番手の中嶋大祐が1分41秒289と、100分の15秒差に6台のマシンがひしめく接近戦の中で、2番手にコンマ3秒差を付けたバンドーンの走りは、まさに圧巻といえる。

 バンドーンと石浦のセクタータイムを比較すると、セクタ-1、セクター2は石浦がコンマ1秒ずつ勝っているが、セクター3はバンドーンが石浦を約コンマ4秒上回る。このセクター3の攻略が、バンドーンに初PPをもたらす要因となった。上り勾配のきつい低速コーナーが続くセクター3はトラクションが重要で、雨からの乾きかけの路面では、もっとも乾いてグリップするラインを見つけることが鍵となる。

 そこに、もうひとつバンドーンのすごさが見える。バンドーンは初めての富士で、どのように乾きかけの路面でベストのラインを見つけることができたのか。

「他の人と違うところを走ってみないと違うものは得られないと思っていました。本当にどこがいいラインなのかわからない状況で、ましてや自分でコクピットで運転していたら、どこにドライのラインがあるのか、なかなか探しても見つけづらい。とにかくいろいろなところを探してみようと走ってみて、一番いいフィーリングのグリップを見つけて、最後のアタックに活かすことができました」とバンドーンは最後のアタックを振り返る。

 富士はトヨタのホームコースでもあり、それこそTDP出身のドライバーは数え切れないほどの周回を重ねたコース。だが、熟知したコースとはいえども、天候の違いによって路面の乾き方は異なり、ベストのラインはその都度、変更する。今回のようなダンプコンディションでは経験の差は少ないと言えるかもしれない。しかし、それを考慮しても、バンドーンがベストのラインを見つけることができたのは、偶然とは思えない。

■データをベースにコース攻略と走りを修得する欧州スタイル

「マクラーレンのシミュレーターで10周くらい走ってきました。F1で走ったときのデータもあったし、あとは去年のビデオやチームのデータがあるので、そういったもので準備をしてきました」。バンドーンがこの富士に向けての事前準備について語ったが、このデータを収集して走りに活かすというスタンスについて、バンドーン担当のDOCOMO TEAM DANDELIONの杉崎公俊エンジニアが解説する。

「ヨーロッパのスタンスと日本のスタンスの違いを感じています。ヨーロッパではドライバーも多いので走れる周回が少なく、どんな時も乗ってすぐにタイムを出さないといけない。だからバンドーンも事前に集められるだけデータを集めて、事前に走り方を修得するんです。日本では乗る前にデータというよりも、乗ってからデータを見るし、走れる機会も多いし、周回もたくさん重ねることができる」と杉崎エンジニア。そのスタンスの違いから、実はバンドーンは日本に来た当初、日本スタンスのセッションの進め方に若干、パニックになったこともあったという。杉崎エンジニアが話す。

「日本では乗った後に、アンダー/オーバーをドライバーに聞いてセットアップを進めますが、バンドーンはデータから、どう次のセットアップを進めればいいか考える。エンジニア的な視点なんですよね。だから日本での走り初めは事前のデータも少なくて、その状況でセットアップを聞いても『そんなのわからないよ』という感じでした。でも、彼なりに日本のスタンスを理解して、他のドライバーにも聞いたりして、セットアップを進められるようになりました」

 雨で不規則な変化があったコンディションだったとはいえ、シミュレーターとデータからの走りで、バンドーンは百戦錬磨の国内育ちのドライバーを一網打尽にしてしまった。これが世界トップクラス、F1複数チームから来季のレギュラードライバーとして名が挙がる実力なのか──。明日の決勝はドライコンディションでの戦いになることが確実。明日はニッポン育ち、富士育ちのドライバーたちの意地をなんとか見せてほしい。